そうそう(東京駅からの飛電)

彼は死に場所を得たのだ。幕引きの死であった!

其れは彼にとって予見されたものでなかったろうに。


引かされずとも引くつもりだったろう。そろそろだと思って準備をしていたろう。

ただし、今ではなかった。今君にその場を去られると困る。

私らだけではどうしようもないのだ。君がそこで守っていてくれなければ。


――私が政治を行いますから宮中の事はたのむと言ったのは貴方でないか?

誠に惜しいが仕方の無い。他者に言うは其れのみである。


しかし言語に尽しがたい、様々なものがあるのだよ、―君、言わずもわかるろうね。

傷心不独為首相。私らは共に色々を背負ってきたその一人を失ったのだ。


なァ早いものだね。死ぬよ死ぬよと云っていたわたしはまたひとりを失った。国家は私を見捨てないようだ。まだ私は相当生かされるらしい。モウ一回位飲みたかったなア。


杯を一国の旧帝相に送ろう。なァ桂、俺は共に時代の名を冠した相棒を失ってまた、自分の後継もつとに失ってしまった。桂だって元気でまだまだ働く積りであったのに君らは全くドウした事か。死ぬ方は気楽にも遺された方が人一倍困難を抱えていくと……云っても仕様が無い。貴様らもよく知っているだろうから。オイ桂、君の親分は今余りの衝撃ショックで寝込んで居るやうだ。チョイト帰って来て、得意の機嫌取りでもしてやれ。

――――ハア、又、共に語る相手が減ってしまった。元老はロウソクの炎が消えるやうに亡くなる。その百物語は怪談なりや。





















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西園寺公望に着想を得たフィクション。原暗殺辺り。

最後の「百物語は……なりや。」の字がどうしても読めなくて取り敢えず怪談と入れておきましたが絶対に違うんですよね…もはや判読です。お前は何を書いたんだ?と言いつつ乱字を解読していました。原が暗殺されねばどう転回してたろうと思わなくもないです。


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