第74話 ナビちゃんってさぁ
五月十五日 九時
昨日までに【D154】までの討伐を終了した。
あと三ヶ月の期限を残して、残すは【D155】南極ダンジョンのみと言う状態まで持ってこれた。
これは、予想よりは速いペースで終了できたと素直に喜ぼう。
【D特区】には既に【D143】までのダンジョンを設置した。
【D154】に関しては藤吉郎の世界の人達の訓練用に大阪城防衛都市に設置した。
しかしレベル千五百五十以降は俺のスキル、制限解除が無いとダンジョン内ではレベルが上昇しない事も確認されたので、向こうの世界でレベル千五百五十に達したメンバーは基本的に俺のいる世界に一緒に来てもらい、ダンジョン探索をしてもらう事になる。
天草四郎たちみたいに現代社会に毒されなきゃいいけどな。
慶次なんかは危険だ。
最悪討伐が間に合わない事態になったら、向こうの世界の人間をこちらの世界に住まわせる事も考えるか?
総理が取得しているスキルで、天候操作が可能だからグリーンランドとか買ってしまうと言うのも一つの可能性としてあるな、もしくはサハラ砂漠かゴビ砂漠でもいいか。
そう言えば総理って任期とかあるのかな? もし任期があるなら、次の総理次第じゃ俺が協力しないとかあるのかな?
それに、【DIT】長官とかギルドマスターって大臣だったよな? 総理が替わったら、大臣も替わるんだよな? 颯太と達也どうするんだろ? 今夜にでも聞いてみるか。
さて、ナビちゃんとじっくり話さなきゃな。
今日は一日一人にさせてくれと言ってあるから、書斎に篭るか。
桃子さんにコーヒーだけ頼んで、書斎に引き篭もる事にした。
でも、桃子さんも来月出産なのに、まだ家事を続けてくれてるんだよな。
「私は桜で慣れてるから大丈夫ですよ」
と言って大きなお腹を抱えて、コーヒーを淹れてくれた。
『ナビちゃん。ちょっといいかな』
『いかがなさいましたか? 理様』
『聞いてもいいかな? 昨日の話しの続き』
『かしこまりました』
◇◆◇◆
『まず、お話しなければならないのは、何故ダンジョンが現れたのかのお話でございます。ダンジョンは今より1112回前の世界の人間が作り出しました。
すべては世界を統べる者が何度も世界をやり直しているだけでございます。
理由は、彼が地球と言う星が大好きだったからです。
今から1112回前の世界では、今の地球よりも文明の発達した世界でした。
科学の力で宇宙探索も行われていましたが、現代のSFの世界であるような光速で飛べる船や時間逆行などと言う理論は完成していましたが、技術はありませんでした。
普通に考えていただければ解ると思いますが、光速を出す事自体は可能でした。
しかしその速度で飛びながら、宇宙の塵を避けると言う事が不可能なのです。
秒速三十万㎞で飛ぶ物体が、直径1㎜の塵にぶつかっただけで、核爆発以上の惨事を招きます。
正確にはもっと単純に重力に耐えられないとか、放射線の問題とかございますが、その当時の技術力でも問題解決には至りませんでした。
しかしある時、1112回前の世界、『始まりの世界』と言いますね、その世界に他の星からの侵略を受けました。
その侵略者達はどうやって辿り着いたのかが問題なのですが、生命体では辿り着く事が出来ません。
完全に記憶をデータ化された人工生命体が、今ダンジョンの発生によって手に入れている物質、オリハルコンやミスリル、アダマンタイン、ヒヒイロカネと呼ばれる物質で作った身体や武器で攻め込んできたのです。
目的は解りません。
一方的な侵略を受けました。
始まりの世界は徹底して戦いましたが、その当時の世界にアダマンタイン製の武器に対抗できるようなものはありませんでした。
それでも少数の敵を捕獲し研究を重ねながら、抵抗を行いましたが結局破滅を迎えます。
ただ、その世界にあった最新技術で、魂の隔離と言う事が出来ました。
攻め込んできた人工生命体との違いは、プログラムされた人工知能ではなく、DNA工学から開発されたそれは、実際に元の人の脳と同じ感情を有し、同じ思考で同じ記憶で成長し続ける頭脳と言う感じでございます。
その頭脳をマイクロチップに移植させ、アンドロイドを使い破壊されつくした地球の残骸の中で、復讐を行うためにダンジョン技術を考え付いたのです。
平行して地球の再生も行っていきました。
始まりの世界の崩壊から再び生命が地球に誕生するまでに三億年の時を使いました。
その三億年の時を使いながら、平行世界の構築と言う技術を開発する事にも成功しました。
生命発現の初期段階の地球を1111個作成したのです。
これは宇宙全体に適応されるのではなく、地球の周囲の空間のみを複製しそれぞれを時空の狭間に配置する事で、常に表に出ている地球は一つだけに見せかけている技術です。
1111個と言う数は、始まりの世界の崩壊時に、マイクロチップに移植された頭脳の数です。
それぞれの世界に、それぞれの頭脳の記憶を元に生命を発展させながら、進化の方向性を模索させました。
魔法技術であったり、スキルであったり、人の可能性とは無限です。
不可能と思われた事も、三億年の時間を使い同じ事を考え続ける事が可能なら、段々と形を為していきました。
その段階から更に三億年の時を使い人類の発生まで進化した状態が今の平行世界です。
すでに1109個の平行世界では、発想の限界を向かえたと判断されたため放棄され消滅しています。
消滅させる事でその平行世界に存在した思念を取り込み残った世界を強化する事に使うための処置だと世界を統べる物は言っております。
ダンジョンを使い仮想敵との戦いにより、侵略を跳ね返すだけの戦力を持った地球を作る事を目標に、少しずつ足りない能力を補いながら、進化し続けたのが今のダンジョンです。
モンスターは地球を再生する際に、自然発生して行った生命体を目的に応じた能力が発現する環境を与えて、作り上げた物です。
ダンジョンが存在する場所は、始まりの世界でございます。
各並行世界からは、ダンジョンゲートで繋がっております。
そして人類の水準が一定に達したと思われる世界に、ダンジョンを登場させました。その中でダンジョンを討伐するために新しい世界の人物達は、マイクロチップに封じられていた頭脳では思い浮かばなかった様な新しいスキルや特技を生み出していきました。
それでも尚、宇宙からの侵略者を想定した強さを持つ存在【D155】に及ばない世界が多かったのですが、過去に一度だけ【D155】を討伐した者が現れました。
その者は世界を統べる物との対話をしましたが侵略者に対しての協力は、断られました。
このままで良い、俺より強い奴が来るなら別次元の世界のやつでも侵略者でも戦ってみたい』と、大好きな地球を守りたいだけの世界を統べる者とは考え方の相違がありました。
現在コアとして存在しているのは、始まりの世界が崩壊した時に、マイクロチップに封じ込められた1111人の意識が元になっております。世界の消滅ごとに意識の融合を果たしながら、表に出る人格は替わっていきますが、その中でも特別に強い力を身につけた者がネームドダンジョンを構築できます。
元になる思考が同じ世界から発生しておりますので、若干の違いはあれど似たような文化が起こっているのはその為です。
世界を統べる者は、始まりの世界では私の父親でした。そして現在【D155】のダンジョンマスターと融合を果たしているのは私の母親の記憶です。
私は封じ込まれたチップの中で数億年の時をただ生きながらえる存在です。
私の希望はこの永遠を終わらせたいただそれだけです。
『もしだけどさ、俺が【D155】に負けちゃって、【D155】が侵略者にやられちゃうとどうなるの?』
『また最初からやり直しでございます』
『六億年の時間を使ってって事?』
『そうなります』
『ナビちゃん任せろ。俺が何とかしてやるぞ。でもさ、【D155】マスターって侵略者と同じ強さに設定してあったマスターに勝ったんだよね? それなら何とかなるんじゃないのかな?』
『理様。侵略者一人の強さと同程度でございます。始まりの世界に攻め込んできた侵略者の数は百万体でございました』
『ネームドダンジョンで七つの大罪の名を冠した者達でも、一体であれば捕獲に成功した強者たちです。その者達が有する知識を凝縮した特別なスキルオーブを、お渡しいたします。
理様がすべてを使用するのか信頼の置ける仲間に使用されるのかはお任せいたします。
理様。私は実は理様を少し過小評価しておりました。千五百五十のレベルに達した上でスキルオーブの所持者に認められる事が、この特別なスキルオーブを使うための条件でございました。まさか従魔やお仲間たちまでことごとくレベルを達成されるなど思ってもおりませんでした。
理様の実力を完全に覚醒させるために、私と融合を果たしていただく予定でございましたが、状況は変わりました。既に理様が私の全力を上回る能力を身につけられているからです。
夢と希望を見せて頂きました。私は理様の戦いを黙って見守らせていただきます』
『ナビちゃん?』
呼びかけたが返事が戻ってくることは無かった。
すると【D2】コアが話し掛けて来た。
『【D1】コアは消えちゃったよ。きっとスキルオーブに力を注ぎきったんじゃないのかな?』
『ルシファーのオーブか明らかに光が違うぞ、これが本来のナビちゃんだったって事か?』
『恐らくね。【D1】がネームドなんてありえないもん』
『俺はどうしたらいい?』
『私は嫌だよ、また六億年とか、ちゃんと【D155】マスターも侵略者も倒してよね』
『どっちにしてもやるしか無いか』
◇◆◇◆
五月十五日 二十時
颯太と達也を交え今日のナビちゃんとの会話を伝えた。
「で、理の【D1】コアはそのスキルオーブに消えていったって事か?」
「理はどうしたいんだ?」
「俺は倒すぞ。一人ではやらないがな、颯太も達也もちゃんと手伝えよ」
その話を聞いていた鹿内さんが質問してきた。
「侵略者はいつか又来るって事なの?」
「そこが聞けてないんだよな、【D155】を倒せば世界を統べる者がコンタクトを取ってくる筈だ」
次に東雲さんが、感じた事を話してくれた。
「私が気になったのは【D155】マスターですが、ただの戦闘狂みたいな感じなんだけど、意外に倒しちゃったら協力してくれるような気がするんですが?」
「だよな、俺もそんな気がする」
坂内さんがスキルオーブの事を聞いて来た。
「そのスキルオーブはどう使うんですか?」
「色々考えてみたが、それぞれ強力な力を持っているみたいだし、ここに今いる七人で一個ずつ使うのがベストかと思う」
と、俺が言うと、前田さんが手を上げた。
「私は実力不足ですから、モノマネの発動をしたほうが役に立てると思います」
「そうか、では残りの一つは俺の相棒だな。TBよろしく頼むぞ」
「任せろにゃ」
「私のが無い……」
「雪は元々が強いから十分だぞ」
「ごまかしたでしょ?」
「そんな事ないぞ、雪はしっぽ触らせてくれるだけで、俺の心が安らぐからなそれで十分だ。後は凄いアクセサリー作ってやるからな」
「まぁいっか。アクセサリー早くね」
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