第73話 SS 大泉洋二郎

十二月十九日 十九時


 今日は衆議院総選挙の当日だ。


 戦後日本で任期満了まで解散される事のなかった衆議院は、長い歴史の中で今回が二回目である。


 現在日本と世界の抱える問題。


 ダンジョン出現から始まる人口の減少、国の疲弊、ダンジョン討伐、問題が大きすぎて野党では到底対応できる訳も無く、解散を叫ぶ声すら上がる事も無く任期満了を迎えた。


 そして今回の総選挙だが、颯太や達也は立候補の届出を出しただけで、一度も自分の選挙区に戻る事すらしていない。


「そんな暇があるなら国民を一人でも救え」と、当たり前のことを言ってたが、選挙ってそんなもんだったかな?


 確か前回のときは、颯太も達也も、必死で笑顔振りまいてただろ?


 それはさて置き今回の小選挙区二百八十九人、比例ブロック百七十六人の議席は、すべての議席を与党が獲得する事もあるかもしれないと言う状況だ。


 野党がもし今の政権を奪い、颯太や達也が内閣から外れる場合、【DIT】や【DG】の機能は、恐らく喪失する危険性すらある。


 立ち上げ時には国が主導権を握っている事を、国民に解り易くする為に省庁としてのスタートを切った訳だが、今後もし与党が破れ野党政権が台頭する事を考えれば、どちらも独立採算の民営化組織に改編するほうが良いかもしれない。


 何よりも大きいのは岩崎理の存在だ。

 彼の協力無しに、日本の再生は不可能だ。


 長い年月を掛ければまったく無理ではないのかもしれない。

 しかし、一部の人間は解っている。

 彼の存在が無ければ、とっくにこの世界は終わっていると。


 選挙がどうとか、税金がどうとか語る以前の問題だ。

 

 彼は自分の力がどれだけの物なのかを、非常に過小評価している。

 実際彼が望むならば、どんな悪法であろうとも認めざるを得ない程の圧倒的な力を有している。


 しかし、彼はまったく無理な要求をしてこない。

 それ所か颯太と達也に頼まれれば、どんなに危険で困難な依頼であっても「おういいぞ」の一言でなんとかする。


 理由はきっと『ダチ』だからだろう。


 俺自身も理の事が好きだ。

 決して性的なもんじゃないぞ。

 やつの性格が本当にガキの頃の幼馴染と遊んでる時の気分にさせる。


 毎日一緒に酒を飲める颯太と達也が今は羨ましいぜ。


 平均年齢七十歳越えの妖怪だらけの国会だが、今はダンジョン効果で見た目だけは、やる気のあるやつらは若返ってきてる。


 逆に言えばそれすら出来ない程度の行動力じゃ、この国を任せる事なんか出来ない。


 今回の公認候補の条件として、レベルアップを行っての体力作りを党として義務付けた。

 渋々ながら向かう連中、喜んで向かう連中、そして当然の責務として向かう連中。


 この三種類の公認希望者をはっきりと見極め、今回は当然の責務として向かう人間以外はばっさりと切り捨てた。


 それにより、一気に平均年齢は四十台に若返った。

 当然公認を取れなかった老害達は、対立候補として選挙区をぶつけてきている。


 さて結果はどうなったかな?


 各報道の出口調査で開票が始まる前の段階でおおよその予想はついてはいるが、この無駄な時間。

 名前の下に紙で作った花を貼り付ける仕事が、政党の党首としては最大の仕事だからしょうがない。


 歴史的な圧勝で終わった。


 失った選挙区はわずか二つ。

 比例でも百七十の議席を獲得するに至った。


 小選挙区で失った二議席は元与党の総理経験者二名が対立候補であった選挙区のみで、実質完全勝利だ。

 野党は獲得議席が比例区で合計六議席を獲得したのみで終わった。

 

 さぁこんな茶番に付き合ってる暇は無い。


 報道陣の前に一応訪れコメントを出す。


「今回の結果に甘んじる事無く、国民の平和で豊かな生活を取り戻す事だけを考え、今後の政権運営を行ってまいります。現内閣及び党内人事は今回の選挙結果に関わらずすべて再任、速やかに通常業務へ復帰します」


 実際に現役閣僚でも、公認を与えず落選をしたものが半数はいたが、関係無しに再任を伝えた。

 これで今回公認を与えなかった者達も、次回に向けてダンジョン討伐に本気で取り組んでくれるだろ?


 颯太と達也だが、小選挙区であいつらの所は投票率90%越えに成っただけでも凄いのに、獲得した票が有効投票の95%を超えていた。

 確かに見た目も下手なアイドルなんか目じゃなくなってるし、20代前半の見た目で【DG】ランキング二位と四位とか反則だよな。


 そう言う俺もダンジョンに潜ってレベルは百五十は超えてはいるが、見た目は貫禄足りないと総理らしくないと言われ三十代半ば頃の姿にするに留まってる。


 今回は俺も小選挙区で投票率80%超えの中で90%の得票率で当選した。

 先に颯太と達也の得票率言っちまったから、影が薄いがな!


 内閣のお披露目が終わったら、国会の召集までの間にゆっくりと時間を作って理と酒を飲みてぇな。

 俺の仕事は、あいつらをこの世界の色々なしがらみから守ってやる事だ。


 ◇◆◇◆ 


 【IDCO】からの色々な要望が毎日数限りなく入ってくる。

 各国から直接の要望に関しては、一々相手にしてたら他に何も出来なくなるほど多いから、要請はすべて【IDCO】を通してくれと正式に発表したからだ。


 その中で当面優先して協力している事は、人命の保護に関する物だ。

 具体的には防衛都市の建設計画に関しては、援助をしている。


 電気と水を売る事で恒久的にこの国にお金が流れ込んでくるからな。

 各国も自力で発電するよりも明らかに安い電力と、綺麗な水に対して拒む理由がまったく無い。


 困るのは売れなくなった石油をどう扱うのかの問題だけだ。

 今回【DIT】が発表した魔核エンジン搭載車により、ますます化石燃料需要は減るぞ。


 そしてアメリカでもっとも大きな産業である軍需産業もほぼ壊滅するだろう。

 実際【D5】からの討伐では、まったく既存兵器は役に立っていないし、それを再び装備する軍隊がモンスターがいる世界で現れる事も無いだろう。


 日本のこれからの世界での役割は大きい。

 恐らく世界の盟主としての立場は揺るがないであろう。


 この世界か…… すべてを守れる力が欲しいな。

 

 もっと頑張んなきゃいけねえな、きっと俺なら出来る。


 俺は第百代、第百一代日本国内閣総理大臣『大泉 洋二郎』だ。


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