第75話 結婚式
五月十五日 二十一時
「颯太と達也ってさ、もし総理替わって大臣じゃなくなったらどうするんだ?」
「【DIT】長官の役職を失う事は、国益に著しく反する事にはなるが、可能性は無いとは言えないな。既に総理からも民営化の方向性で行きたいと話しが出ている。【DIT】に関しては、【PU】を切り離した研究機関になる予定だな」と、颯太が言うと達也は……
「俺のほうは既に準備が始まってるぞ。各国も今の【DG】が日本国の省庁だと言う事に関して、その傘下に所属する事に対して嫌悪感を示し始めてるからな」と言う事だった。
俺が「それってどう言う事だ?」と聞いたら鹿内さんが答えてくれた。
「私の方でその準備は進めています。岩崎さんの所有する銀行グループがメインとなって、【DG】を独立法人化させます。直接の監督は体面上は【IDCO】が行います。筆頭株主は岩崎さんになりますね。実質は【IDCO】が【DG】の玄関口を努める団体になります。世界に対して一番影響力を有する企業ですね。株主は各国が人口に応じて出資する権利を有する枠が全体の五割、民間の個人または法人が出資する権利を持つ枠が全体の二割、残りの三割を岩崎さんが所持します」
「なんか話が大き過ぎて良く解んないな」
「ただし【DG】は狩をして素材を集める事に特化した組織になる。他にはレベルの高いモンスターが現れた場合のレイドパーティの召集などを行う事と、【DG】カード所持者のランク認定くらいだな」
「基本は、冒険者から素材を買い入れて、装備やポーション類を販売する事が主要業務だな」
「まぁ話は冒頭に戻るが、総理が今の役職を離れる可能性はきわめて低い、支持率は95%を超えているからな、今の政権を倒しても得るものが、負担と比べて小さいから誰も手を上げねぇよ」
「もしだ、俺も達也も理も協力しないと言ったら、討伐なんか出来ないしな」と、言ったがまぁ実際その通りだ。
「ダンジョンも後一つだが、先がどうなるのかは全く解らないからな、だが準備をして悪い事は何も無いし、【D155】マスターとの戦いを確実に乗り切るには、まだまだ鍛えておかなくちゃな。俺は装備の強化も出来る限りやりたいし」
「【D1】コアからの情報によると、侵略者に攻め込まれた時の、敵の数は百万体だったんだろ? それに対抗できるだけの戦力を育てねえとな」
「やるべき事はまだまだ沢山ある。【PU】や【DPD】の再編も必要だしな、中途半端に強くなった一般人の引き起こす事件も増加傾向にあるし問題は山積みだ」
◇◆◇◆
六月十六日 十時
それから更に一月が過ぎた。
今日は沙耶香の出産予定日だ。
これから出産が相次ぐ為に、産科の経験と知識も持っていた明石先生が今妊娠中の八人が無事出産するまで住み込みで来てくれる事になった。
助手として野口さんと水野さんも手伝ってくれている。
「翔の時は立会い出産でさ、不思議な気分で見てたな。今回は明石先生に任せるからよろしくお願いしますね」
「お任せ下さい。今はポーションがあるから本当は帝王切開のほうが出産自体は簡単なんですけど、皆さん自然分娩を希望されていますので、ご希望に沿ってくつろいだ環境での出産が出来るよう、お手伝いさせて頂きますね。岩崎さんは毎日一度は皆さんの顔を見に来てくださいね」
沙耶香の陣痛が始まり、それから四時間後に無事に女の子が産まれた。
母子共にとても元気だ。
安心した。
今日は女性陣もみんな集まっており、これからの自分の姿を重ね合わせるように、一緒に沙耶香の出産を喜んだ。
幸せってこういう時間の事だよな。
俺は自分の娘を抱っこしながら、絶対にこの世界は俺が守ってやるから、元気に幸せに育ってくれよと語りかけた。
それから一か月の間に次々と出産を迎えた。
沙耶香 女の子
桃子 男の子
鹿内 男の子
夢 女の子
山野 女の子
真壁 女の子
今井 男の子
森 男の子
の順番で八人全員が出産を終えた。
今は音羽さんと澤藤さんも妊娠が判明しており、この二人の子供も同級生になっちゃうな。
前田さんと東雲さんと坂内さんは早く討伐を終わらせて、私たちも頑張るわよって誓い合ってた。
岩崎さんにも頑張ってもらって「遅くなった分、双子が出来るくらいにいっぱい絞りとってやるんだからね」と不穏な会話をしているのが聞こえたが、気づかなかった事にしよう。
女性陣は、沙耶香と桃子さん夢さん以外はご両親も健在で、孫が産まれる事に対して無関心な訳がない。
しかも未婚のままの出産とか、ハーレム男が父親で自分の娘が十三人の中の一人であるとかの状況に寛容な親など居る訳もなく、とても苦労しながらご両親達とのご挨拶を終えた。
颯太と達也にもご両親とお会いする時には付き添ってもらったりして、渋々ながらもなんとか許しを貰った。
モンスター討伐の十倍は辛かったぞ……
女性陣全員とご家族の方の総意として、形だけでも結婚式をする事になり、状況が状況だけにご両親、ご兄弟の他は、今の状況を知っているごく身近な方だけを招待し、理が所有している無人島に式場を作って執り行う事になった。
鹿内さんが中心になった結婚式プロジェクトチームは、それは見事な結婚式場を完成させ、島全体がまるで天国って存在するなら、こんな感じなんだろうな? って思わせるような幻想的な空間を作り出した。
勿論建物や土地を整備したのは俺だけどね。
今後使うかどうかも解らないのに、一流ホテルも顔負けのゲストハウスなども完備してあるその空間は、その後、世界一人気のある結婚式場として、長く利用される事になるのは又別の話だ。
そして結婚式の当日を向かえ、出席者が参列する中を、父親に手を引かれた女性陣が次々と綺麗なドレス姿で現れる。
ご両親の居なかった沙耶香は大泉総理が、桃子さんは颯太が、夢さんは達也が父親代わりでエスコートしてくれた。
流石にその光景には、ご両親たちも少し寛容に見てくれるようになったと思う。
翔たちのパーティや向井さん、村松先生、明石先生、野口さんに水野さん。【DIT】の男性陣、【PU】の初期メンバー、当然上田さんや、相川さんも参列してくれている。
現在の討伐班の最前線にいるマイケル達や、藤吉郎も、五十人程の主だった連中を引き連れてやって来ていた。
料理やサービスのスタッフは、鹿内さんが北九州特区から、一流ホテルのスタッフをチームで連れて来て、対応してくれている。
この幸せな時間が永遠に続く様に、俺らしくもなく神に祈ってみた。
藤吉郎が「神様って岩崎様じゃから、自分に祈っておるのかのう」と空気を読まない発言をしていたが敢えて無視した。
藤吉郎はこの世界に初めて訪れたが、余分な物は見せないように、直接この結婚式場の島へ連れて来た。
食べ物や酒の旨さに別次元組は大喜びしてたな。
◇◆◇◆
七月三日
最終ダンジョンの討伐を開始する事になった。
俺、TB、雪
颯太、達也、東雲さん、鹿内さん、坂内さん、前田さん
PUのメンバー
マイケル達外国組
慶次達の、別次元組
レベル千を超えたメンバーを総勢五百名引き連れての討伐だ。
ダンジョンが現れた頃の俺じゃ思い付きもしなかった感情だけど……
「さあいよいよだ。世界は俺が守りきる」
第三章完
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