第60話 理神?

四月四日 九時


 今日は藤吉郎の世界へ向かう。

 【DIT】の屋上に集合し【G.O】をアイテムボックスから取り出す。

 俺とTB、雪と【DIT】の十四名が乗り込む。


 そして次元転移を発動させる。


 一分ほど暗闇の中に延々と落ちていくような感覚がした後に、いきなり光が差し込み周囲を見渡すと、大阪の町の防壁の外だった。


 無事に着いたな。


 俺と颯太を始めとしたメンバーは街の入口に向かって歩き始めた。

 すると街の内部から侍の一団が飛び出してきた。


「岩崎様ー、お戻りに成られたか、久しぶりですのー」

「慶次か、久しぶりだな。藤吉郎はいるかい?」


「木下様は城に居られます。ご案内しましょう」


 【DIT】のメンバーたちはこの、現代とは大きく異なる別次元の日本の様子を目を白黒させながら眺めている。


 鹿内さんが町の広場の中央にある物を見て、指差した。


「ねーあれって岩崎さんじゃないの?」


 俺とTBと雪の姿が十メートルを超すサイズの銅像になって街の中心部に大きく飾ってあった。


「なんて事をしてくれてんだあいつは」


 俺のSAN値はいきなり一気に削られた。


「岩崎様はもうこの世界では、【理神】として信仰の中心になっておりますぞ。木下様が世界を纏め上げる過程で唯一神として理様の偉業を説いて廻られ、今では世界中の九割以上が【理教】の信者になっておりますぞ」


 いきなりの爆弾発言に眩暈がして来た。


 みんなが口々に言って来た。


「俺も信者になって良いか?」

「岩崎さん大丈夫です。私も信者になりたいですから、ファイトです」


「布教は私に任せなさい」

「聖女の奇跡もセットでつけられるわよ」


「OSAMU流石だね、俺も信者になるZE」


 好き勝手な事を言ってる……


 そして大阪の町の光景は、街中のいたるところに世界中から集められた身寄りの無い少女達の笑顔が溢れていた。

 街の中はとても活気があり、モンスターの蔓延る世界とはとても思えない。


 大阪城に到着すると、藤吉郎が門の外まで出てきて出迎えた。


「岩崎様ー、お久しぶりですじゃ、お戻りになられる日を毎日お待ちしておりましたぞー」

「あの銅像とか【理教】って何なんだよ。クソ恥ずかしいから止めさせろよな」


「それは無理ですじゃ、もう世界は理様の神としての存在で支えられ、持ちこたえてる様なもんですからのー。理様のお陰で救われたこの少女達の笑顔を見てくだされ、この光景を見るだけで幸せな気持ちでいっぱいになりますぞ。【理教】の経文は『イエスロリータノータッチ』と唱えるだけですからのぅ、世界中がすぐに虜になりましたぞ」


 少女は藤吉郎が勝手に集め始めただけだろ……


 なんかもう……色々突っ込みどころがありすぎて……俺のSAN値は力尽きた……グハッ


 力尽きた理を、東雲がお姫様抱っこで抱えて、城内に入っていった。

 他のメンバーも後ろに続く。


 十分ほど経ち、ようやく魂の戻ってきた理を場内の謁見の間に案内する事になった。


 城内の謁見の間に着くと、世界中の支配者と言われた王族や、藤吉郎の直属の侍達、王政が倒された国の人民の代表たる首相達が一同に会しており、この世界は藤吉郎の元に纏め上げられている事が見て取れた。


 理が謁見の間に入ると全員が一斉にひれ伏す。


 「神の光臨だ……」と呟きが漏れる。


 又気を失いそうになるが、理の尻を鹿内が力いっぱいつねり上げ正気を保たせる。


 各国の代表たちが延々と挨拶をしてくる。

 一時間を過ぎた頃にようやく落ちつき、現状の説明を始めてもらえる事になった。


 説明は半兵衛さんがしてくれる。

 最初から半兵衛さんだけ訪ねればよかったな。


 現状、ダンジョンの討伐はなされておらず、理の世界で討伐されたダンジョンが消えて行っているのみである事。


 ダンジョンの消失した地域では【理教】の布教が一気に進み、各ダンジョンが存在した場所には大阪の町にあった物と同じ銅像が建てられていって、信仰の中心になっている事。


 スタンピードを起こしているダンジョンの周辺は人が住めなくなって行き、大阪と同じように防衛都市で人々が暮らしている事。


 などが伝えられた。


 世界中はアメリカ大陸を除きほぼ藤吉郎が掌握し、各国は藤吉郎の圧倒的な武力の前に悪政を敷く国はほぼ無くなり、復興に向けて毎日のようにこの大阪の町で話し合いの場がもたれている。


 ある意味理想の国家だよな。


「単一宗教国家の結束は、想像を絶するほどに固いですからね」と鹿内さんが囁いた。


 現状を把握し終えた理たちは、まずこちらの世界の高レベル者を十二名チームに加える事にした。


前田慶次 LV980

山内一豊 LV870

上杉謙信 LV865

武田信玄 LV865 

伊達政宗 LV850

徳川家康 LV848

明智光秀 LV840

黒田官兵衛LV838

真田幸村 LV832

加藤清正 LV830

石田三成 LV828

島津義弘 LV825


 慶次が、ずば抜けて強いな。


 だが他のメンバーも、颯太と同等のLVだ。

 スキルを持ってないことだけが若干不安要素だが、簡単に死ぬようなレベルではないな。


 このメンバーにはまず理の作ったSRの防具と武器を与えた。

 そしてこの装備は、後のこの世界で神から使わされた聖遺物として信仰対象になる。


 【DIT】のメンバーにも同等の装備を与えてある。

 マイケル達外国人のメンバーは、みんな国が見栄を張って、マスター装備を颯太から買っていた。


 颯太は勿論国の人間だから、個人収入にはならないけどな。


次にマップの確認だ

ユーラシア大陸   25箇所

アフリカ大陸    5箇所

オーストラリア大陸 2箇所

グレートブリテン島 2箇所

北アメリカ大陸   15箇所

南アメリカ大陸   15箇所

南極大陸      1箇所


 俺が前回来た時に討伐したD86以降のダンジョンが5つあるから、ほぼこれで間違いないな。

 だが、一目でピンと来たが、D155は南極だろう。

 今日の所は確認を終えたので明日から潜る予定にしている。


 ロシアのサンクトペテルブルグに向かうと、周囲にはかなりのモンスターが溢れ出してるな。

 ここはランク高そうだぞ。


 中に入るとナビちゃんに確認する。


『ナビちゃん。ちょっといいかな』

『いかがなさいましたか? 理様』


『ここは何番目かな?』

『【D132】でございます』


『ありがとうねナビちゃん』


 よし、予想通り高レベルダンジョンだな。


「今日は転移門だけ設置して帰るけど、明日からみんなよろしく頼むよ、敵が強いから気を抜かないようにね」


 そして大阪城で慶次たちをおろして、俺たちは自分の世界に戻った。


 マンションに結構広いスペースの空き地があるので、そこから毎日直接出発する事を決める。

 そして今日のメンバーは全員で俺の家に来た。


 マイケルとハリーとアンリが俺の家を見てここに住み込みさせろと言って来たが、まぁ別にいいかと思い許可してやった。

 俺のマンションの空き部屋が五つあったので他の外国人メンバーと【PU】のメンバーで使わせる事にした。

 和也は達也の部屋に居候。

 森本さんだけは一室全部使ってもらい、エッカルトとルドラで一室、熊野、桑田、三浦で一室だ。


 森本さんが「これは私もハーレムメンバーの仲間入りなの?」と聞いてきたが「ハーレムとか作ってませんしその予定も無いです」と答えた。


 東雲さんが「別にもうそれでいいじゃないですか?」とほざいた。

 東雲さんもなんか洗脳されてる?


 ◇◆◇◆ 


四月四日 二十時


 今日からは晩御飯のときは基本討伐班の十五名と女性陣達の計二十二名が一緒に集まる。

 毎日がパーティーのような賑やかさになるな。


 まだまだ桜も満開だ。

 

「俺も行きたかったな。安土時代の世界文化とほぼ同等なんて、歴史オタクにはたまらない環境だな、しかも同行者の名前も、みんなその当時のこっちで実在してた人物と同じ名前じゃねぇかよ」と、達也が残念そうに言った。


「不思議だよな。西暦なんていう概念が無いから比べようが無いが、藤吉郎が作り上げてる世界は、一つの完成を見せていると思うぞ、理が神様なのは吹き出したが」

「私はOSAMUが神な事はまぁいいですが、『イエスロリータノータッチ』とみんなが銅像の前で唱えてる事が不思議でした」


 颯太とマイケルもそれぞれの感想を言う。


「何なんですかその展開? 面白すぎるじゃないですか」と、向こうの世界に行って無い山野さん達も興味津々で聞いてくる。


「実際一度は見る価値があるわよあれは。藤吉郎さんが差別の完全撤廃と、身寄りのない少女の厳重な保護を打ち出してるから、大阪の町中が世界中の人種の混ざった少女で溢れてるのよ。圧巻だったわね。まだ制度が始まったばかりだから完成はしてはないけど、世界中に教育制度を一斉導入して、しかもそれを全て国が面倒を見るとか、これは逆に独裁国家じゃないと成し得ない偉業なのかもね」

「国家名を付けるなら『理聖教国』かな?」


「まさにその通りだわ、私もあの国でなら聖女やってもいいと思ったくらいですもの」

「私もあそこでなら布教してもいいわよ」


 と、同行した三人の女性陣がそれぞれに思った事を口にした。


「辞めてくれ、俺の精神が持たん」


 そして今日は熊本から凄く新鮮な馬肉が届いていた。


 見事な桜色をした桜刺、フタエゴといわれるばら肉の部分、コウネと呼ばれる鬣部分のアブラミを刺身で楽しむ。


 薬味はわさびも良いがにんにくが良く会うな。

 レバーも綺麗な小豆色をしていて、これも刺身でごま油に塩を添えた物をつけて食す。


 内臓類を味噌味で煮込んだモツ煮込みもメチャクチャ美味しい。

 一緒に届いていたカラシ蓮根の辛さに外国人勢はみんな涙を流していた。

 あの辛子味噌の辛さは本当に凄いもんな。


 そしてその料理に合うのは、熊本の米焼酎だ。


「焼酎は料理を選ばないから本当にどんな料理でも口がさっぱりするな」


「米焼酎は、減圧蒸留のものが主流だから癖も少なくて本当に飲みやすいよな」

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