第61話 理攻略される
四月四日 二十一時
「【D85】で生産が出来るようになったじゃないですか、それで一つお願いがあるんですが」と、真壁さんにお願いをされた。
「ん? なんだ?」
「今はこうやって毎日全国の特産品を送ってもらいながら、何を育てていくべきか模索中なんですけど、環境を整えて新しい事をするためにはマスターの権限が必要なんですよ」
「あー確かにそうだな」
「毎日岩崎さんに頼むように成っちゃいますけど、いいですか?」
「まぁ設定変更する項目を書き出しておいてくれたら、俺がナビちゃんに頼むだけでいいし、毎日メモを晩御飯の時にでもくれたら良いさ」
「了解しました」
「それで、全国の特産品が届いてたんだな、ちょっと役得だな」
「これくらいはいいだろ?」
最近全国からの特産品が、毎日のように食卓に並ぶのを見ながら、颯太と達也が話してる。
その会話を聞いていたフランスレジオン出身のアンリが口を開いた。
「私の国の美味しい物も沢山あるので、是非ダンジョンで作って欲しいです」
「フランスの研究班の方からも、同じ事頼まれてますから、順番にはなりますけど叶える事は出来ると思いますよ」と、真壁さんがまじめに返事してた。
森さんが思い出したように話題を振ってくる。
「向こうの世界の言語体系はどういう風に、なってるんですか?」
「普通に大阪では日本語でしたね、あ、でもおかしいですよね。こんな複雑な言語が、別の世界で同じように発生するなんて」
「そうなんですよ、ベースに成る物を与えられた後で発展していかない限り、別の次元の世界で同じような文化や言語が、育つわけが無いんです」
「という事はこの世界も、向こうの世界も、同じ存在が元になる文化を与えたって考え方になるのか?」
「どんな存在なんだそれは、ダンジョンの発生も、その存在の意志なのか?」
「その答えに辿りつくにはまだ時間が掛かるな。【D155】まで辿りつけば、ある程度は見えて来る筈だ」
◇◆◇◆
「ねぇ岩崎君。今日藤崎さんと澤田さんに頼まれたんだけど、東京を中心とした都市圏一帯を復興させる話が出ているけど、私のほうである程度話を聞いていて大丈夫かな?」と、沙耶香が聞いて来た。
「おぅ、まぁ澤田さん達から言って来る話だったら問題ないぞ、【DIT】を通さない話は全部断ってくれ」
「今日はこの後の時間は私にくれるのかな?」
「……程ほどに頼むぞ」
◇◆◇◆
四月五日 九時
昨日と同じメンバーで向こうの世界の大阪に到着し、慶次たちと合流した後にサンクトペテルブルグに向かう。
【D132】の討伐をスタートする。
理のスキルのお陰で、一層からドロップが落ちるようになったので、三十人で隊列を組み現れた敵はすべて殲滅しながら、順調に攻略を重ねていく。
スタンピード済みのダンジョンなので、いきなり強い敵が現れる事も多々あるため、気を抜けない。
しかも久しぶりにチョット面倒くさい階段出現条件だ。
各階層でレアモンスターを倒さないと、階段が出ない。
他の階層からモンスターが上がってきてる所は、それで条件クリアとなるが、それでも結構な数を狩らなければならない。
まぁ一日三十層ずつ無理をしない程度で下りていくしかないな。
「そういえば慶次。お前の職業ってもう覚醒してるんだよな? 何が出てるんだ?」
「良くぞお聞き下された。俺の覚醒職業は『豪槍撃師』って言うのが出ました。槍を突き出すと衝撃波が飛んでいくので便利ですぞ、意識せずとも常に発射されるような感じですぞ」
その後こっちの世界のメンバーに一通り聞いてみると、斬撃を飛ばせるメンバーが多く、これならかなり楽に進めるな。
魔法系は使用者が少ない。
官兵衛と三成と光秀くらいだな。
探索系の特技は、幸村と正宗が取得している。
元々の殿様が多いから軍団指揮に関わる、バフ系の効果を持つ人も多くデバフも豊富に揃ってる。
この人たちは潜在能力が高いよな。
ただこの世界ではゲームの知識やラノベなんていうのが流行っていなかった為、殿様とかやっていた人以外では、初期職業では圧倒的に想像力の不足で、通常の職業しか出てないのがマイナスだ。
初日の討伐を終えて、大阪の町に戻る。
城の天守閣から望遠鏡を使って少女の表情を観察しながら、ニマニマしている藤吉郎に「何か困ってる事とかないか?」と聞く。
「わしの生きてるうちはいいが、その後の世界が心配じゃ、わしにはまだ嫁も子供も居らん。別に自分の子供に継がせたいとかは思うておらんのじゃが、次のこの国を纏める存在が私利私欲に走らんという保障も無いからの、そこだけが心配じゃ」
意外にまともな藤吉郎の意見に俺は少しびっくりしたが、そういうのは颯太が詳しい筈だと説明は任せた。
「議会制の選任君主国家を作っていくしか無いだろうな。王政国家だとどうしても、王が私利に走ったときに歯止めが利かなくなる。国の民に自分たちを率いる人間を直接選ばせる制度を作っていく事が望ましいな」
「言葉が難しゅうてよー解らんな。それは学べる物なのか?」
「ここでは学ぶ事が難しいかもな、誰か信頼できる人物を俺たちの世界へ学びに来させるのはどうだ? どうせ藤吉郎さんは直接政治に関わろうとかしないんだろ?」
「何故そう思う? まぁその通りじゃがの。わしは美しい少女の笑顔を見続ける事さえ出来れば、それ以外のことにはそんなに興味が無い。そう言う政治の事は半兵衛にでも任せておけば、悪いようにはせぬからのぉ」
「それなら、俺たちの世界へ半兵衛さんと他に何人か、勉強しにいかせれば良いんじゃないのか?」
「岩崎様、お頼みしてもいいかのぉ、それでは早急に人を決めましょう。半兵衛おるか?」
「ここに」
「半兵衛の信用できる人間を何人か連れて、岩崎様の国で政治を学んできてくれんかのぉ」
「御意。早速用意いたしましょう。半刻ほどお待ちくだされ」
そして半兵衛が何人かの若者を連れて戻ってきた。
島清興、ヌルハチ、直江兼続、天草四郎の四人だ。
「この者達は、勤勉な上武芸にも明るく、きっとご期待に添えるかと思います」
「清興って、俺たちの世界じゃ、うちのご先祖様だぞ、時代背景はまったく同じでもなさそうだな、年代が若干ずれてるしな」
「まぁ細かい事は気にしなくてもいいだろ。半兵衛さんがこのメンバーで良いなら問題ない」
「向こうの大学で政治を学ばさせる。手続きとかは俺の方で何とかやっておく」と、颯太が言ってくれた。
「週に一度くらいは戻ってくるようにすればいいか?」
「岩崎様がこちらの世界に来ておられる間は、何か問題があれば、岩崎様に相談すればよい事じゃから、問題は無いですじゃ。半兵衛しっかりと学び、この世界を次の世代に無事に引き継げるようにするんじゃぞ」
「しかと承りました」
そして、その日は半兵衛さんたちと一緒に俺達の世界へと戻った。
◇◆◇◆
四月五日 二十時
半兵衛たちが理の住む世界を見て仰天している。
まず最初にマンションを見かけただけでも「この様な城があるなど、どれだけの技術力なのだ」という感じで、見るもの聞くもの全てに感動している。
理の家でテレビを見ると、もう放心状態だった。
まぁそこは、そのうち慣れてもらうという事で……
「今日は、鹿児島からツキアゲを沢山送って来たのでおでん風にしてみました。炙っただけでも凄い美味しいですけど、おでんも中々いけますよ」
一般的に鹿児島県以外では『さつま揚げ』と呼ばれるすり身のてんぷらは、鹿児島県内ではツキアゲと呼ばれる。
「うまそうだなー」
「半兵衛さんたちのこっちでの面倒は基本俺が担当する。よろしくな」と、達也が挨拶をした。
「よろしくお願いつかまつる」
「駄目駄目まずは話し方を、もっと柔らかくするところから始めねぇとな」
「沙耶香、明日は半兵衛さんたち連れてこっちの世界でおかしくない服装とか揃えてやってくれ」
「解りました。ユ○クロとかでいいのかな? もうちょっと高級なとことどっちにする?」
「色々揃えた方が良いから両方で、カジュアルもフォーマルも対応できる程度に揃えてやってくれ」
「了解です」
「何かすっかり岩崎さんの信頼を奪われちゃった感じで、少し妬けちゃいますねぇ」と、東雲さんが少しほっぺたを膨らませた。
「何言ってるんですか、ずっと側に居れる東雲さんのほうが羨ましいですよ。岩崎君。それとこれ渡しておきますね、当番票です。みんなで話し合って、順番に一緒に居れる時間作ってもらう事にしましたからお願いします」
なんか俺の居ない間に、女性陣で勝手に話を纏めてしまってたようだ。
「それって拒否権は?」
「無いわね、諦めなさい。性的な事だけでなくて開発してもらいたいアイテムなんかを話し合う時間も含めてだから大事な事よ」
鹿内さんにばっさりと切り捨てられた……
「男性陣からの要望とかもあるだろ?」
「それは私が伺って、資料とか預かりますから時間のあるときに見てもらえれば良いです。急ぎの案件は斉藤さんか島さんに頼みますから対応して上げてください」
それなら女性陣の要望もそれでいいじゃんと思ったが、火に油を注ぐだけになりそうだから言わなかった。
「理も遂に攻略されちまったな」
「後は日本の国策に適うように頑張って子供を作りまくれよ。金持ってるんだから心配する必要は無いだろ」
颯太と達也が他人事だと思って、勝手な発言してやがる。
「俺はダンジョンなのか? まぁいいけどな。もう成るように成れだ」
「安心しました。でもこれ以上は、増やしてほしくは無いですけどね。順番廻ってこなくなるから」
と、東雲さんもほっとした表情だ。
「俺が積極的に増やしてるわけじゃないからな」
「OhリアルハーレムキングOSAMU羨ましいです」
「マイケルも頑張れば良いじゃねぇか」
「私は奥さんも子供もいますYO、浮気なんかしたら奥さんに殺されてしまうYO」
◇◆◇◆
「今日は私と時間作ってもらいますね」
「東雲さんみたいな素敵なお嬢さんが、本当に俺なんかでいいのか?」
「ずっと思ってましたよ?」
「じゃぁ場所変えるか」
転移で博多のホテルに来た。
「なんか準備万端整えてないですか?」
「一人で考え事とかする時用に借りてる」
「絶対嘘だから! まぁいいですけど、よろしくお願いします。あ、私初めてですから」
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