第58話 同窓会【後編】

 沙耶香は金子の店を知っているみたいで「こっちよ」と言って先導してくれた。

「ここから五分くらい歩けば着くけんね」と言って妙に引っ付いてくる。

「お前酔ってるだろ?」


「博多の女子があれくらいで酔うわけなか、まだまだ宵の口やけんね」

「ばってんがくさ、お前ちょー近かろーもんが」


 何か久しぶりの博多弁で喋られると、こっちも自然に博多弁が出た。

 何か楽しいな。

 颯太から念話が入った。


『理、助かった借りにしとく』

『貸し多すぎて回収のめど立ってねぇぞ』


『酒と焼酎で200年ローンだ』

『おう』


 金子の店に到着して、中に入るとみんなは既に盛り上がっていた。


「お、やっと来たバイ、何か二人でエロイ事でもしよったっちゃなかとや?」

「俺がドンだけ早撃ちやと思っちょるとや、まぁ早撃ちは否定出来んばってんが」


「まぁ折角の再会やから、今日は何でもありでよかろーもん」


 そして酒が進んでくると当然愚痴も出てくるわけで「ダンジョンのせいで子供が奪われた」


「大口の取引先が崩壊して、連鎖倒産で勤務先がつぶれた」などの世知辛い話も入ってくる。

「理は、今何処に住んでるんだ?」


「あー俺は今は【D特区】だな」

「まじかよ、あそこはどんなにコネがあろうと、新規で住民になるのは不可能な地域だぞ、何でそんなとこに住めてるんだよ?」


「元々の家があそこの地域内にあったからな、運がよかったのかな」

「あそこに居たらさ、【DIT】の東雲さんや鹿内さんとか出会う事もあるんだろ? いいよな」


「まぁよく見かけるな、ってかさ東雲さんや鹿内さんって人気が出るほど知れ渡ってるのか?」

「当然ばい、今は下手なアイドルよか全然凄い人気だぞ」


 身近に居すぎて全然気付かなかったぞ。

 元の鹿内さんなんて綺麗ではあったが歳相応の人だったしなぁ…… それに性格がちょっと怖いし。


「まぁ俺も今は普通の仕事するより、モンスター狩って魔核で稼ぐほうが金になるからたまに【D特区】のダンジョンにも潜りに行ってるんだ。今度行った時に連絡していいか? 飯でも食おうぜ」

 と、明が言ってきた。


「おぅ居る時だったらいつでもいいぞ」

「お前ニートなら、いつでもいるだろ?」


「ニートなりに忙しいんだって」


 沙耶香はずっと俺の隣に引っ付いている。

 そして二次会もお開きになった。


 今はやっと二十二時を過ぎた所だ。


「まだ何も聞いてないから帰さないよ?」

「じゃぁ残れるやつ捕まえて三次会に行くか?」


「ダメ! また聞けなくなるから三次会は二人きりでね」

「しょうがねぇな、どっかいい店知ってるか?」


「独身アラフォー女の選ぶ店は、とってもハイクオリティだよ?」

「おぅそれぐらい何とかなる」


「ニートなのに?」

「ニートでもな」


 それから、高級ホテルのラウンジで、ちょっと小洒落た雰囲気の中、色々聞かれた。

 俺もやばくない範囲では答えた。


「もうちょっと、岩崎君の事教えて?」

「例えば?」


「早撃ちの速度とか?」

「下ネタじゃねぇかよ」


「もうすっかりその気だよ」

「いいのか?」


 結局その日はバーの従業員にチップを渡し、ホテルのスイートルームを取ってもらって二人で泊まった。

 久しぶり過ぎたんでちょっと暴発気味だった。

 そして回数でカバーした……


 ◇◆◇◆ 


 翌朝、沙耶香と別れD特区に戻った。

 転移で戻ったので一瞬だ。

 また連絡をくれるとは言っていたが、どうなるのかな?


 でも、沙耶香もやっぱり女性だよな。

 鹿内さんの事を本当に神のように思ってる感じだった。


 俺の容姿の事も、昨日の事件から推測してた。


「恐らく高レベルの探索者なんでしょ? 私にも効果があるのかな?」


 と、興味深々で聞いてきたので、容姿の事はちゃんと成りたい自分をイメージしながら、ダンジョンでレベルアップを重ねると可能だと教えた。


 不思議な事に、フィールドでレベルを上げていってもこの効果は現れない。

 もしくは気付けないほどの効果しかない。


 純粋にダンジョンでイメージをしっかり持って取り組むと、レベル5くらいに成るとはっきり効果が現れる。


 そして今日は討伐の予定も入っていなかったので、澤田さんを誘って【G.O】で遠州大砂丘に防護壁と防波壁を作って廻った。

 

 内部には、多くは無いがモンスターも入り込んできていたので、ついでに狩っておいた。

 んーどうしても低レベルモンスターを相手にすることが多いから、ドロップが勿体無いよな。


 常に新しい低レベルの人連れて回るわけにも行かないし、ちょっとスキルで良いの無いか探してみるか。


 スキルはある程度の期間が開くと、見たことの無いスキルが現れていることがある。

 これは探索者が増えてきて、こういうのが欲しいって言う要望的な意志を、誰かもしくは何かが判断して現れるんだろう。


 この世界の意志を操る存在は誰なんだろうな?


 十五時頃に昨日同窓会で合った、探索者をしていると言ってたやつ、『高山純一』から電話が来た。


「理、お前の家【D特区】なんだろ? 俺な、今日【D特区】にパーティメンバーと荒稼ぎに来てるんだけどよ、お前も狩りに参加しろよ。稼がせてやるぜ。その替りといっちゃ何だが、今日はお前んちにパーティメンバーで泊まらせてもらえないか? 男二人、女二人だけど」


 ちょっと迷ったが、一般探索者の狩りがどんな風なのかに興味が沸いた俺はOKを出した。

 空いてるマンションの部屋にでも、泊めてやりゃいいしな。


 そして午後四時に待ち合わせ場所に指定された、【D6】ダンジョン前で待ってると、高山とあんまり上品な感じはしない三十代前半くらいの三人が来た。


「一般探索者で【D6】に潜れるやつは、そんなに居ないんだぜ。今日は理に狩りかた教えてやるからニートなんて言ってないで、探索者やってるって言えるように成れよ」


「おう、解った。色々教えてくれな」


「ひょろい兄ちゃんだねぇ、ダンジョンのモンスターにチビルんじゃないよ」

「高山さんの同級生って言うから我慢するが、邪魔だと思ったら置いてくからな」


「まぁそう言ってやるなって、俺がちゃんとフォローしてやるから安心しろ」

「随分スタート遅いが、いつもこんな感じなのか?」


「昨日飲み過ぎたからな、頭痛くてこの時間からに変えさせた」

「毒消し飲めば一発だろそんなの?」


「お前物を知らないな? ポイズンキュアいくらするのか知ってるのか? 七万五千円だぞ? 俺たちの一日平均日当は、五万円くらいだから、そんなの飲んでたんじゃ赤字になっちまうよ」

「そうなのか? 知らなかったよ」


「討伐者としての常識は、まぁゆっくり教えてやるよ。モンスター毎に弱点があるから、それをうまく攻撃すればお前でも少しは倒せるさ。まぁ弱点は教えてやっても良いが、これは俺たちの飯の種だから有料だ。死ぬよりは良いだろ?」

「早く行かないともう日が暮れちまうよ。取り敢えず放り込んで死なない程度に助けてやるで十分でしょ」


「そりゃ怖いな、死なない程度には頑張るよ」


 側で会話を聞いていた【DIT】の職員が噴出しそうなのを必死でこらえていた。

 俺は高山たちに見えないように、指を口に当て職員達に黙っているように伝えた。


 そしてダンジョンに入る。

 一層はいつも通りのスライムとゴブリンだ。

 最近は探索者も増え、【PU】や【DPD】の訓練でも使うので全ダンジョンが出現数MAXに設定してある。


「スライムは、溶解液が危険だからな。近づき過ぎないように倒すのがコツだ。中心部分に赤い光ってるのが見えるだろ。あれを壊せば倒せるからやって見せるな」


「高山さんのやり捌きを見せて貰えるなんて、兄ちゃん恵まれてるな。普通じゃお金払ってお願いするような事だよ」


 高山は槍で三回ほどスライムに突きいれ、三回目でようやく核を壊した。


「三発で倒せるなんて俺もますます強くなってきたな、このペースで行けばそのうちランキングも【PU】の連中なんて簡単に抜かしちまうぜ」


 理は、こいつら大丈夫か? と思いながら鑑定をかけてみた。

 高山がレベル三十五、他のやつらがレベル二十五から二十八だった。

 まぁ昨日の中洲の立て篭もり犯よりは強いんだな。

 でもそのレベルだとスライムなんて一撃で倒せるだろ普通。


「理もやってみろよ、最初は十発以内で倒せるようになるのが目標だな。溶解液飛び散らかして、俺らに掛かったりしないようにしろよ、装備溶けたら弁償させるからな」

「解ったやってみるぞ」


 プルート出すわけにもいかないしどうするかな、あ、ゴブリンナイフがあるなこれでいいや。

 次に出てきたスライムの核を目掛けて、ゴブリンナイフを突き刺す。


 当然一撃で倒せた。


「ビギナーズラックだな、たまたま核に当たったから良いが、そんな短い武器じゃ下の階層だと役に立たないぞ」

「あー気をつけるよ」


 そして、俺は高山たちの後をのんびりついていきながら、狩りを眺めていた。こいつらの狩り方で日当五万円なら、討伐者ってぼろい仕事だよな? と思いながら……


 そして四層まで下りてきた。


「この下の階層には中ボスが居るからな、まぁ俺に掛かれば大した事は無いから安心しろ」


 俺もここまでに、五匹ほど倒したが当然ドロップが出ない。

 それを見た高山のパーティメンバーが言って来た。


「おい兄ちゃん。お前、運のパラメーターが低すぎる見たいだな、全然ドロップ出ないじゃねぇか。勿体無いから止めはささなくていいぞ、俺たちは運が上がるように、生産系のJOBを取得しているからな、生産系のJOBで運があがるとか知らなかっただろ? まぁ情報量は特別サービスで一万円にしといてやるから後で払えよ」


 そして、五層の中心部。

 【D6】は始めて入ったが中ボス何が出るんだろ? と思いながら神殿に入っていく。

 

 扉を開けるとアラクネだった。

 蜘蛛の下半身に、人間の女性の姿をした上半身。


 以外におっぱいでかいな。


「やばい、レアボスだ。これは俺たちじゃ無理だ。脱出するぞ」


 へぇレアボスなのかと思いながら、まぁ脱出するって言ってるならそれで良いか。


 高山たちが必死に扉を開けようとするが、びくとも動かない。


 アラクネが糸を吐きパーティの女性に巻きついた。

 あっという間に包み込まれる。


「あー、もうあいつは無理だ。あいつを喰ってるうちに俺たちは逃げるぞ。理も必死で扉を開けろよ」

「お前何言ってるんだ? 仲間じゃねえのか? 何で簡単に見捨てれる?」


「出会い系のサイトで拾っただけの赤の他人を助けて、自分が怪我をするとか馬鹿な選択をするわけねぇだろ」

「お前はゴミ以下だな」


 取り敢えずプルート改を出し、蜘蛛の糸を切り裂き女を救出する。


 それから一撃でアラクネを縦に切り裂き、そのまま【エスケープ】を使って助けた女を連れて外に出た。


 高山たちは、まぁ自力で戻ってくるだろ?


 そのまま電話も着信拒否にしたから、その後、高山がどうなったのかは解らない。


 助けた女には「仲間は選べよ」とだけ言って入口で別れた。


 んー後味悪いな。

 ちょっと沙耶香に慰めてもらうかな。

 電話をしてみると「会えるよ」と言ってくれたので、すぐに転移で福岡に行った。

 

 昨日のホテルで待ち合わせ、また朝まで頑張った。

 悪い感情をすべて吐き出すように何度も。


 そして朝になって、沙耶香は仕事があるからと先に出て行った。


 俺はホテルのフロントで支配人を呼び、スイートを一年間借りっぱなしの契約をしてもらった。


 一億五千万円だ。

 まぁこんなもんか。

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