第57話 同窓会【前編】
一月六日 八時
今週と来週は別次元の世界で討伐したダンジョンだから、こっちには出ない。
スタンピードを起こすのは、今週がマカオ、来週は松山だ。
今週中に二つくらいのダンジョンを討伐しちゃえるかな。
今日から桜のお母さんに加えて、萌のお母さんも家で働いてくれる事になった。
マンションの敷地や共有部分の清掃などが仕事に加わるため、一人ではとても無理だからだ。
住居のある敷地での仕事だから、小さな子供の居る萌のお母さんでも安心できるし、仕事をもらえる事を喜んでくれた。
省吾の家族は、みんな北九州に戻る事を望んでいるらしく、現在は若松防衛都市の開発関係の仕事に従事してるそうだ。
朝ごはんを桜のお母さんが準備してくれて、翔と食べていた。
「今までいつも人がたくさん居たから、急に父さんと雪とTBだけになると寂しく感じるな」
「この家、無駄に広いからな。桜のお母さんに朝ごはん毎日作ってもらうんだから、桜もここで一緒に食べるようにしたらいいんじゃないのか?」
「そんな事させて頂くとお給料貰って働いている私が恐縮してしまいますので、それは遠慮しますわ。桜は萌ちゃんのうちで、省吾君も一緒にご飯食べるらしいですよ」
「そっか、それなら安心だな」
「父さん。俺もマンション一部屋貸してもらえないかな? 魔導具や装備を作りたいけど、父さんがいるとどうしても意識しちゃうからさ」
「いいぞ。部屋はたくさん余ってるから、元々俺一人だしな」
「家賃はちゃんと払うからね」
「解った。いいの出来たら俺にも見せてくれよ」
「ごちそうさま。じゃぁ早速俺も引越しするね。ありがとう」
翔が足早に部屋に戻り荷物をまとめに行くと桃子さんが話しかけてきた。
「こんなに広いお家だと一人になると寂しいですよね。岩崎さんはまだ再婚とかされないんですか? 随分もててらっしゃるようですけど?」
「俺は、結婚二回も失敗してるからまだ考えられないですね。基本甲斐性無しですから。今は雪とTBをモフモフ出来ればそれでいいですよ」
「……そうなんですね。少し相談があるんですけど、私と萌ちゃんのお母さんも少しダンジョンで狩りをしたいと思ってるんですけど、こちらのお仕事の時間を萌ちゃんのお母さんと調節して行ってもいいですか?」
「全然構わないですよ。大体うちの場合基本的な勤務時間なんて決まってないから、汚くない程度に掃除してある状態が保ててたら、自由出勤で構わないですよ。でもなんで狩りをしたいんですか」
「鹿内さんの話を伺って、私と萌ちゃんのお母さんも同年代ですから、まだ頑張れるかな? って、二人とも旦那亡くしましたから寂しいですし、次のお相手探すためにも若返ろうと思いまして」
「……なんて言うか…… 女性の人って逞しいですね」
「精一杯の強がりですよ。いつまでも悲しんでても誰も幸せになれないですから。岩崎さんも私達でよければいつでもお相手しますよ?」
「あー、今のところ大丈夫です」
◇◆◇◆
東雲さんが迎えに来て、一緒に【DIT】の本部に向かう。
北九州の殲滅作戦を早速実行するためだ。
今日は、達也は拘留している外国人を本国に送還する件で一日【IDCO】に詰めるらしく、颯太、東雲さん、鹿内さん、坂内さんで北九州に向かった。
【PU】からも部隊を出して一万人体制で、区画をしらみつぶしにして行く。
昨日提案した作戦は圧巻だった。
一キロメートル四方の建造物を収納バッグに納めると、生物のみがその場に残る。
それを取り囲んだメンバーで殲滅する。
建物がなくなった場所はあとの整地も楽だから、一石二鳥の作戦だ。
これは少し頑張ってURのバッグを増やしたほうが効率上がるな。
今日帰ったら作ろう。
この日は結局一日かけて、八幡西区部分の殲滅戦を終えた。
建造物の残骸を一まとめに置いた小山が何箇所か出来上がっている他は、見渡す限り何も無い土地が広がりなんか荒野って感じになってる。
「本当に凄い効果だな、これなら日本全国の開発もそう難しくないな」
「環境問題を担当する藤崎さんが言ってましたけど、防衛都市以外は自然回帰をさせたほうが、国土のためには良いという意見が大勢を占めてきてるらしいですよね」
「今までと違って交通網という概念がなくなりましたからね、線路も空路も必要が無い状態だと、機能的な街部分と、それぞれの生産に特化した部分を開発すれば、残りの部分は自然環境に任せるのがいいのかもしれないですね」
「でもモンスターのいる世界だからな、このモンスターたちが勝手に進化して、手に負えなくなる危険性も無いとは言えないぞ?」
「その辺りはまだ、検討しなければならないな。日本はまだ戦力的にも恵まれているが、外国では戦力も防衛都市も何もかも足らないから、日本の様に人口を増やそうとか言う発想まで辿り着けない状況だからな。明後日までに北九州の殲滅作戦は終了させて、国内の残りのダンジョンを討伐完了させて行きたいが問題はないか?」
「俺は構わないぞ、時間が空いたら遠州大砂丘沿いの土地を、囲んで行くくらいの予定しか無いからな」
◇◆◇◆
一月六日 二十時
今日はスマホでメールの確認をしてたら、高校時代の同級生から安否確認の意味も含めて同窓会の誘いが来ていた。
ダンジョンの出現以降、一度も同級生との連絡とか取ってなかったしな。
俺も消息知りたいやつもいるし、顔を出してみるか。
日付を確認すると今週の土曜日だったので、出席すると返事を返しておいた。
でも、三日前とかに連絡して何人都合つくんだろうな?
モンスターに襲われて死んだ奴とか多いだろうし、まぁ久しぶりに会える奴が何人かいるだけでもいいか。
◇◆◇◆
一月九日 十七時
そして同窓会の当日を迎えた。
メールで参加人数の確認をしたら意外と多く、クラス四十名のうち、二十八名が参加するそうだ。
東雲さんが「岩崎さん見た目が凄く若いから、同窓会とか行ったら、きっとメチャクチャモテちゃいますよ。これ以上ライバル増やさないで下さいね」と、言ってたが「そんな事知らんがな」だ。
まぁ高校時代にそれなりに憧れてた女の子とかもいたし、会ってみたいって気持ちはあるよな。
転移門から、博多防衛都市に向かった。
俺が、学生の頃過ごした博多の街の雰囲気とは、随分変わっていた。
それでも、この街はダンジョンの討伐が早かった為、被害もそんなに大きくは無く、国内では最大級の防衛都市になっている。
早良区、城南区、中央区、博多区、東区の一部に掛けて、広域の防護壁を設置してあり、人口も百二十万人に及ぶ。
安全性が高い地域のため、更に区域を拡げる予定でもある。
俺は、会場に指定されていた中洲の居酒屋さんまで、天神の福岡駅跡に設置された転移門から、歩いて向かう事にした。
こうやって博多の街を歩くのは十五年振り位だな。
地元の野球チームの優勝パレードの時に、まだ幼かった翔を肩車して歩いたのが懐かしい。
十分ほど歩いて、那珂川を越えると中洲に入る。
ここではまだ飲食店も沢山の店舗が営業している。
今の日本の流れから考えると稀に見る繁華街だ。
そしてメールで指定のあった会場になっている店に到着する。
まだちょっと時間には早いが、一応覗いて見るかと思い店に入った。
入口で予約名を告げると「もう既に何名かいらっしゃってますよ」と言われたので店内に入った。
大きな掘りごたつ式の座敷で個室になっている部屋に入ると、既にあちこちで会話がされていた。
「お、お前、理だよな? 何なんだ全然ふけてないじゃねぇか、他のやつはみんな誰か解らんぐらい見た目が変わっとるのに」と、声を掛けられた。
「って誰だよお前。頭が薄くて髭生やした知り合いなんて俺には居なかったぞ」
「佐々木だよ『佐々木 明』俺のほうが普通なんだよ、異常なのはお前だ」
「明かぁ随分久しぶりだなぁ、二十年ぶりくらいか? 大学四年の歳の同窓会の時以来だもんな」
「他のやつらは解るか? 向こうから信也に浩二、浩一郎、健吾だ。女子の方は、奥から恵に晃子に恭子に日向、それとお前の初恋のマドンナの沙耶香ちゃんだよ」
「馬鹿野郎いきなり言うなよ、俺の大事な思い出を」
「お前卒業まで結局告る事も無く終わったもんな。まぁガキの頃の思い出なんだから笑い飛ばせ」
その言葉に紗耶香が反応して話しかけてきた。
「えーそうだったの? 全然OKだったのに、何なら今からでもOKだよ? おばちゃんだけど」
「って結婚してるだろ、浮気はダメだぞ」
「さーどーだったかな? 私結婚してたかな? そう言う岩崎君はどうなの? 結婚してるの?」
「俺は結婚はしていた。だな。過去形だ」
「そーなんだぁ。じゃぁ全然いいじゃない私も一人だよ」
そこそこ盛り上がりながら、開始予定時間の五分前には参加予定者は全員集まった。
久しぶりの楽しい一時を過ごしていたが、ここでお約束展開なんだよな。
「お前らさぁ、今何の仕事してんだ? 今のこの時代はダンジョン関連の仕事してないやつはみんな負け組みだぞ? 俺は探索者やっててさ、今は月収で百万を切る事無いぞ」
「探索者なんて、いつ死ぬか解らんような危険な仕事出来るかよ。俺みたいに防衛都市の役所で働いてるほうが勝ち組だろ、今度抜擢されてDITの本部で勤務する事になりそうなんだぜ」
「俺はダンジョンギルドの博多支部で買取査定の責任者やってるぞ。めちゃ高待遇で仕事は楽だからいいぞ」
「俺は飲食関係で、複数店舗のオーナーだ。この後二次会は俺の店に連れてってやるからな」
「私は旦那が会社経営だから、悠々自適だよ」
「私はネイル系のショップで独立して結構稼げてるわよ」
など、自慢できるやつらは、口々に自分が今どれだけ凄いんだって自慢してた。
「理は何やってるんだ? 前に電話で話した時は派遣だって言ってたじゃん。今でもそうなのか?」
「あー派遣は辞めたな。今はニートだぞ」
一瞬廻りの俺を見る目が、優越感に浸った感じになった空気を感じた。
さっきまで俺のこの中では若い見た目で側に寄って来ていた女性たちも、その発言の後から自然に離れて行った。
まぁそんなもんだろうな。
それとやはり、ダンジョンのスタンピードに巻き込まれて亡くなった人数も十名居た。
まだ逝くには早いよな……
そしてそれなりに楽しかった同窓会も一次会が終わり、さっき俺の店に連れて行ってやると言ってた男『金子 勇次』のやってると言うバーに会場を移す事になった。
この時点で男女とも半数以上が帰る事になり「また偶には集まろうな」と全員で連絡先を交換した。
俺は今日は付き合うつもりで来ていたので、二次会の会場に向かっていると、【DPD】が二十名くらいの人数で包囲をしている現場に出会った。
集まっていた野次馬に「何があったんだ?」と聞くと、不法滞在の外国人が追い詰められて、飲食店の店舗に人質をとって立て篭もってるらしかった。
まぁ達也がはっきりと拘束をして強制送還の方針を打ち出したから、あいつらも必死なんだろうな。
ちょっと取り囲んでる【DPD】の連中に【鑑定】をかけてみる。
「ありゃこいつら一番レベルが高い隊員でも十しかないぞ、大丈夫なのか?」
俺は心配になったので、二次会に行くメンバーに先に行っておくように伝える。
「ちょっと先に行っててくれないか? 俺もう少しこの状況がどうなるのか見てみたいから」と、言うと金子が「物好きだなあ、じゃぁ先に行ってるから終わったら電話してくれ」と言って他のメンバーを連れて先に行った。
何故か沙耶香は「私は、ちょっとどうなるのか見てみたい!」と言ってこの場に残った。
俺は店の大きな窓から中を伺うと、内部には客が三十名程居るみたいで中央に集められていた。
普段モンスターを狩っているのであろう外国人たちは、大降りの刃物で人質を脅して【DPD】に対して、逃走経路を確保する事を求めていた。
犯人は五人か、レベルはどんなもんかな? ぉ、高いやつは三十あるぞ、一番弱くても十八か、これは【DPD】のこの面子じゃ無理だな。でしゃばるのも変だしなどうしようかな?
とりあえず颯太に念話した……『颯太、俺だ』
『理か、どうした? 同窓会だろ?』
『あーそうなんだが、今中洲で起こってる立て篭もり連絡入ってるか?』
『ちょっと前に聞いた。今現場なのか?』
『そうだ、犯人のレベルが三十あって、ここにいる【DPD】は一番高いのでもレベル十だ。無理だぞ?』
『そうか困ったな、理ちょっと頼まれてくれ、今からお前のスマホに電話するから、【DPD】の責任者に代わってくれ』
『めんどくさいがしょうがないか、解った』
理のスマホに直ぐ颯太から着信があった。
電話に出ると上田さんも一緒に居たらしく、上田さんだった。
『岩崎さんお手数をかけますが、ちょっとそこの責任者に代わってください』と、言われたので、電話を持って【DPD】の連中の所に向かった。
俺は「【DPD】の上田さんから電話が入ってますから、責任者の方に代わって頂けますか?」と言ってスマホを渡した。
「どの上田だ?」と言って取り敢えず電話に出た責任者は、いきなり直立してハキハキ喋り始めた。
電話が終わると「ありがとうございました!」とキビキビした動作を崩さずに電話を持ってきた。
「どうなったの?」と聞くと「とりあえず岩崎さんに拘束してもらえ、との指示でした」
「丸投げかよ!」
しょうがねぇな、じゃぁちょっと目立ちたくないから静かにしててくれなと言って【透明化】を発動して店内に潜入、五人を即時に気絶させて拘束して引き渡した。
すると責任者であろう隊員が聞いて来た。
「あの、岩崎さんですよね? 本官は坂内美穂とは警察大学の同期でありましてお噂はかねがねと」と堅苦しく喋り始めた。
「あーそう言うのはいいから」と遮って「俺同窓会の途中だから行くわ、後はよろしくな」
と言って現場を後にした。
沙耶香が「ちょっと岩崎君。なんかおかしいと思ったけど、今のは何なのよ?」と詰め寄ってきた。
俺は「別になんでもないぞ」と言って先に進む。
「ちゃんと教えるまで今日は帰さないからね」と言って着いて来る。
「あれ? 金子の店どこだっけ? それと今の話はあいつらには内緒な」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます