第55話 小倉ダンジョン討伐完了

一月四日 七時


 今日は【D30】小倉ダンジョンの討伐だ。

 今となっては【D30】では、危なげなく討伐を成し遂げる事ができるだろう。


 昨夜作った新装備は、これまでの装備とは隔絶した性能で、まさに神話級と言えるものだ。

 しかし、武器や防具の融合を行えるJOBは、まだ魔導鍛治師しか確認できていないよな。


 まぁ魔導鍛冶師はJOBポイントは70のJOBだし、単純に考えると勇者や聖女と同じランクの職業なんだよな。

 そう考えると他のJOBでは難しいだろうし、後はスキルで獲得するくらいしか無いかもしれないな。


 俺以外だと、翔が持っているだけか。

 そう考えると結構あいつもチートなのか?


 血縁があるからだけでは無さそうだが、JOBの有用性を考えるとそれに特化した成長をさせたほうがいいのかもな?


 俺だけでみんなの武器を作る事なんて無理だし、あいつの目標は母さんの敵を取って小倉を開放する事だったから、今日で一つのゴールを迎える。

 次の目標をどこに持ち、どうして行きたいのかを、一度ゆっくり話してみるか。


 あいつのパーティメンバーだって頑張ってはいるが、単純に成長するだけなら討伐者をやるより【DIT】に所属したほうが確実だしな。


 俺に付き合わせてると、命を縮めるだけの結果になりそうだ。


 まぁ向井さんは別だがな、あの婆ちゃん何なんだろう。

 レベル250そこそこで装備もまだ大した事ないのに、レベル450を超えている討伐班の連中を凌駕する動きしてるからな。


 やはり槍神のJOBが影響しているのか?


(翔SIDE)


 今日は、俺が待ち望んでいた日だ。

 母さんと義父さんの敵を討ち、小倉の町を取り戻す。


 正直、こんな短期間でここまで辿り着けるなんて思ってなかった。

 省吾、萌、桜、向井さんと一緒に必死に頑張ったつもりだけど、父さんが居なかったら何も進展していなかっただろうな。


 俺達のパーティが討伐班と一緒に行動できるのなんて父さんのおまけで、しょうがなく参加させて貰えてる何て事は解ってる。


 今日、目標を達成してしまえば俺たちは今まで通り、普通の探索者をやって行く事は省吾とも話して決めてある。


 それにこの一週間、父さんの作り出すアイテムや装備を見る度に胸がときめくんだ。


 俺の持っているサマナーのJOBは、実は戦闘より内政向きのJOBだった事も解った。


 父さんのスキル程滅茶苦茶じゃないが、精霊をうまく使えば土地の整備くらいは全然困らないし、装備への属性付与や本格的な鍛治だって出来る。


 特技だけで作るよりリーズナブルに安定した品質の武器が作れる。

 ダンジョン内の開発にも役立てると思う。


 向井さんは元々東雲さんからも誘われていたし、レベルの差を埋めたりするために俺たちのパーティに参加していただけだから、今後も討伐班で活躍出来るだろう。


 ◇◆◇◆ 


 八時に【DIT】本部に集合して北九州に向かった。


 今日は【PU】と【DPD】は戸畑区から小倉北区をを目指して、昨日と同じように絨毯作戦で進む。


 討伐班は、【G.O】とチヌークに分乗して小倉ダンジョンへ向かう。

 向井さんが俺に話しかけてきた。


「岩崎さんは気付いてるかい? 翔君たちのパーティは今日で討伐に参加するのは辞めるそうだよ」

「そうか。俺もそのほうがいいと思う。討伐は俺と【DIT】に任せておけばいいさ」


「私は、もう少し若返って恋愛をしてみたいから、まだ着いていくわ」

「婆ちゃん……頑張れ」


 そして、颯太達が無双をしながら、最終三十層に到達。

 昨日と同じように、俺がマスターを押さえ込み、颯太が【アイテム複製】を発動した。


 最初は十万ポイント、二回目はやはり一千万ポイントの表示だった。

 一度だけ複製をしてマスターを倒し地上に戻る。

 まだ十四時半だ。


 颯太に頼み、澤田さんを呼んでもらって翔たちのパーティメンバーと東雲さん、澤田さん、俺とTBと雪の十人で、【G.O】に乗り込み北九州特区になる場所の周りを廻った。


 その他の討伐班は【DPD】と【PU】の応援に廻った。


 一周廻ってみたがかなり広いな。

 でも壁だけなら今からでも出来るか。

 【G.O】の中で翔が話しかけてきた。


「父さんありがとう。俺たちの目標は今日で達成できたよ。今からは自分たちだけで出来る事を見つけて、父さんに負けないように頑張ろうと思う。省吾と萌と桜も賛成してくれて協力もしてくれるって言ってくれた。鍛えるのを辞めるわけじゃないけど、次の目標が決まったらまた言うよ」

「おう、解った。取り敢えずは無事に目標を達成出来て良かったな。中々目標を立て、それを達成すると言う事は難しいからな。これからも自分の手の届きそうな目標を立てて、確実に達成する様に行動すると、モチベーションの維持はしやすいぞ」


「全然手の届きそうな目標じゃ無かったですけどね!」

「でも、私達って凄い強くなっちゃったじゃ無いですか? 普通の生活って出来るのかな?」


「普通の基準なんて、人それぞれだから、気にしなくていいんじゃない?」


 と、翔のPTメンバーの子達がそれぞれの感想を言ってくれた。


「貴方達なら、力を合わせればなんだって出来ますよ。置かれた環境なんかはね、上手く使ってナンボの話だから、お父さんが岩崎さんだったとかそう言う事は何も引け目を感じず、じゃんじゃん利用すれば良いのよ。ダメな人はそう言う事を気にして、目の前にあるチャンスをただ眺める事しか出来ないから、それが出来る人を妬んだりするだけなのよね」


 と、向井さんが流石年の功だなって感じの話をしてる。


「そうですね、俺、実際凄い気にして悩んだりしてたんですけど、やっぱり出来ない理由ばかりを口にする人より、出来る事を胸を張って堂々と出来る様な人になりたいです」


「そのまんま、お前の父さんだな」


「おだてても何も出んぞ」


 それから、その日は十九時過ぎまで澤田さんに指示を受けながら、北九州市をぐるっと取り囲む防壁をスキルで作って回った。


 翔も土精霊のノームを召喚し、かなりの距離の防壁を作ってくれた。


「翔は錬金術も使えたよな? もしかしたら防衛都市の外壁構築は翔が一人で請け負っても出来るんじゃないのか? 金になるJOB構成だな」

「でもそれやっちゃうと、俺他の事何もさせて貰えずに壁職人の未来しか見えないから、まだ他の可能性を色々考えたいと思う」


「そうか、確かにそれだけで一生過ごすとかは嫌かもな」


 そんな話をしてると、澤田さんが話し掛けて来た。


「岩崎さん、【D特区】のマンションの資材なんですが、明日には全て揃いますので、良かったら明日やりませんか?」

「もう揃ったのか? 正月期間なのに良く業者が動いたな?」


「今はこんな時代ですから、物が売れるなら正月も関係無しで動いてくれますよ。決してこっちが急かしたりしたわけじゃ無いですよ」

「じゃあ明日は朝からマンション建てよう。萌のお母さん達もやっと一緒に住める様になるな」


「本当に良いんですか?」

「萌も、省吾も、桜も気にするな。堂々と住めばいいさ。無料だと遠慮するんなら毎月一部屋一万円貰おうかな。それなら遠慮しないでいいだろ」


「新築の高層マンションの4LDKが一万円ですか?」

「おう、それ以上は負けてやらん」


「本当にありがとうございます。妹達と一緒に住めるのは、凄い嬉しいです」

「明日マンション建てる時見ててもいいですか?」


「全然構わないぞ」


「でも、こんなお喋りしながらも、本当に一日で壁全部作っちゃいましたね。凄すぎて何も言えないですよ」

「これ一周何キロメートルぐらいあったんだ?」


「ざっとですが百キロメートルくらいですね。小倉南区の山間部は囲ってもしょうがないので、これでOKです」

「自然の残ってる部分は、出来るだけそのままにしたいけど、それだと確実にモンスターが残って繁殖する危険性があるよな」


「モンスターって繁殖するんですか?」

「するだろ? オークとか普通に女性を性的に襲ってたじゃん」


「そうなんだ……」

「どちらにしても、ダンジョン発生前のようなどこに行っても安全な日本が戻ってくる事はありませんよ。基本的に居住区域は防衛都市内部で、それ以外はモンスターが発生している地域になってしまうでしょうね。必要に応じて防衛都市の拡張、新設を行うことはありますけど」


「当然、日本だけでなく世界中が同じ事になります。広く安全な防衛都市を作れば、それを維持するための、魔核も莫大な量が必要になりますので、モンスターも一定以上の数は居て貰わないと魔核の供給が追いつきません」

「殲滅してしまっても駄目って事なんだな。難しいなー」


 ◇◆◇◆ 


一月四日 二十時


 今日は澤田さんと、女性陣全員が来ていた。

 ボア肉を使った味噌仕立ての鍋を用意して、みんなで盛り上がってる。


 明日マンションの建設を行うために、最終的な部屋割りで女性陣は少しでも上の階がいいようで、くじ引きで部屋割りを決めるらしい。

 男性陣は、みんなどの部屋でもいいという事で、くじ引きには参加しなかった。


 最上階は颯太と達也の部屋で、一階から四階まではエントランスと事務室、トレーニングルームとラウンジになっている。

 居住区域は五階から二十階までに各二部屋ずつで、理は五階から九階までの十部屋を所有する。


 十階から十九階までの二十部屋の中から、好きな部屋を選べると言う事で、女性陣は本当に気合を入れてあみだくじを見つめていた。


 順番にあみだくじに線を一本ずつ書き加えて、名前を書き込む。

 開票が始まる。


 みんなで大騒ぎしながら楽しんでいたが、十九階は鹿内さんと、山野さんが獲得したようだ。


 まぁ女性は全員十五階以上を選んだんだからそんなに違わないと思うけどな。


「さすがにこの争いの中に加わる度胸のある男性陣は居なかったな」

「俺でも無理だぞ」


 と、颯太と達也も少し引いていた。


「若干の間取りの変更が可能だと言ってしまって、私は朝まで付き合わされますよ」と、澤田さんの表情が少し青い。

「それは、口に出した澤田さんが悪いな。自業自得だ。図面がちゃんと変更されないとスキルで認識できないから、そこはしっかりと頼むぞ」


 ◇◆◇◆ 


 今日の戸畑と小倉北区の制圧では、さすがに昨日の八幡の制圧が伝わっていたのか、外国人四百二十人日本人が九十八人の検挙だったそうだ。


 昨日と同じく旧八幡防衛都市内に、留置してある。

 明日は【DPD】が五万人と【PU】は十万人の投入になるそうだ。


 防護壁の設置が終わり【DPD】は門司区と小倉南区の制圧。

 そこに【PU】も半数の五万人が参加する。

 

 防護壁内部の、モンスターを徹底的に壊滅させる為の部隊も五万人体制だ。

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