第53話 あけおめ
一月一日 八時
「明けましておめでとうございます」と翔が挨拶してきた。
「おぅあけおめ。何年振りか判んないけどお年玉だ」
「父さんありがとう。ってこれUR素材とSR素材じゃん。一体いくら分あるの?」
「十億円くらいかな? パーティ全員分の武器素材くらいはあるだろうからみんなに作ってやってくれ」
「ああ…… まぁ…… なんて言ったらいいか、わかんないけど、ありがとう」
「鍛冶頑張れよ」
今日は朝から初詣に行こうと言う事になっており、岩崎家のリビングには人が集まりつつあった。
昼の十二時から総理の演説が始まる事もあり、達也と颯太は東京に行っている。
今日はさすがに討伐は休みにしてあるが、モンスターには正月など関係ない。
各防衛都市の外では、凄惨な事態も起きるんだろうな……
年末までに【DG】カードの登録者数は世界中で一千万人を超えている。
この流れは更に加速しており、今年中には五億人規模の組織になる予想だ。
翔たちのパーティと、【DIT】の初期メンバー、雪とTBを連れて豊川防衛都市内の稲荷神社に向かった。
みんなでお参りして、おみくじを引く。
本当に平和な日常の光景だ。
「日本人ってさ、無宗教の人が圧倒的に多いじゃん。なのにお正月の初詣は、殆どの人が行くのは何でなのかな?」と、気になった事を口に出すと、鹿内さんが答えてくれた。
「あら、認識が甘いわね岩崎さん。日本の初詣は世界で最大の宗教行事ですよ」
「えー? そうなの?」
「色々な宗教もあるし、信者数なんかで見たらイスラム教の足元にも及ばないですけど、正月三が日と呼ばれる期間の集金能力は世界一ですね。メッカの大巡礼と言われるイスラム教の最大のイベントでさえ、参加者は二百万人程度ですが、日本には三百万人規模で初詣が行われる場所だけでも五箇所程ありますから、客観的に見ると異常なほどの宗教国家ですね」
「最近よく岩崎さんも口にするワードがあるじゃないですか【大衆心理】これを巧みに操っているんですよ。何も強制しない事で結局一番人を集めてるんですね。殆どの人は信者として訪れては居ないけど、宗教的な組織に対して、お金を捧げる行為は立派に信者ですよ」
「言われてみれば、確かにおかしいよな。でも初詣にくると、なんとなく気分がよくなるのも事実だからまぁいいや」
お昼前には家に戻り、みんなでおせち料理をつつきながら、お雑煮を食べた。
十二時になり、テレビには大泉総理と、島長官、斉藤ギルドマスター等閣僚が並び、総理の演説が始まった。
「みなさん、あけましておめでとうございます。
今世界が抱える問題、日本のおかれる状況は大変厳しく、心が休まる事のない生活を強いられている方も多いと感じております。
しかし、この問題に立ち向かわず、歩みを止める決断をする事は、何のプラスにもなりません。
今この時だからこそ出来る事。
世界の平和を目指して、世界中の人々が繋がり、協力し合い、新たなる世界の創造を共に成し遂げましょう。
手始めとして、まず本年度中に、昨年壊滅的な被害を受けた都市、北九州市の再生を行います。
世界最先端の、テクノロジーを産み出す国際都市をここに作り上げます。
また、現在世界が抱えるもっとも大きな問題、人口の減少に歯止めをかけ、ダンジョン発生前以上の人口水準を目指す為に、当面今後二十年間に渡る人口増加計画を発表させていただきます。
国民が子供を育てるための、標準的な額を国が負担致します。
結婚をされ、世帯を持てば一律毎月十万円の補助。母子家庭、父子家庭においても世帯に対して十万円の補助となり、子供が産まれれば、一人当たり十万円の追加補助を未成年の子供に対して行います。
ただし、これまでの制度にあった生活保護、保育所の負担は無くなります。
これにより、国民の皆さんはどうぞ育児に専念して下さい。
日本の未来は、まず国民が居なくては成り立ちません。
もちろん、働けばその分だけの余裕が家計に生まれるはずです。
その余裕は趣味であったり、よりランクの高い生活であったり、自由に消費されて下さい。
心の余裕こそが、国の発展には不可避です。
国民一人一人が、生活に必死なのでは無く、人生を心から楽しめる社会を作り上げましょう。
この制度は、本日から適用されます。
詳細は、各防衛都市役所か政府ホームページでご確認ください」
総理の演説が終わると東雲さんと鹿内さんが話し掛けて来た。
「生活の不安が無くなると、笑顔は増えますよね」
「それでも新たな不満や、妬みを産み出してしまう人も、当然いるんでしょうけどね」
「明日からは北九州の解放だな。ダンジョンの討伐より【DPD】の担当する部分の方が、圧倒的に難易度高いよなー」
「モンスターが普通に街に生息している中で、どれだけの不法滞在者がいるのか、想像がつかないですね」
翔は、いよいよ始まる北九州の攻略を前に、少し力が入ってるみたいだ。
「父さん。俺たちのパーティも既にレベルは二百を超えているから、出来るだけ戦闘にも参加させて欲しいんだけど」と、話し掛けて来た。
「そうか、だが自分達の身は自分達で守り切れよ。まだまだ【DIT】の攻略班に比べれば、お前たちは雑魚だからな。焦って無理をするような事はするなよ」
「解ったよ」
◇◆◇◆
一月二日 八時
今日は【D57】八幡ダンジョンの討伐を行うが、八幡防衛都市の内部は既にスタンピードも発生して、防衛都市の壁が逆にモンスターを都市内部に閉じ込め破壊の限りが尽くされている。
「しかし多すぎるな。この状態では味方の被害が必ず起こる。一度D特区に避難してくれ。建物ごとヴァハムートで一掃する」
【神龍召還】を発動しヴァハムートを呼び出す。
「できるだけ広範囲に滅してくれ」
「御意」
『波動龍砲【極】』
極太の波動は、前方を半円状に一キロメートルに渡って建物も何もかも蒸発させた。
「見通しもよくなったし、これなら大丈夫だ」
念話で颯太に連絡し、部隊を投入させた。
俺もTBと雪を従え、防衛都市内部の敵を徹底的に殲滅して回った。
一時間ほど経ち、ようやく目に付く敵も居なくなったので、討伐部隊で隊列を整えダンジョン内に侵入して行く。
そこからは普段どおりの討伐となり、三十五層まで進んでその日の討伐は終わりにした。
◇◆◇◆
一月二日 二十時
今日は、上田さんと相川さんが来ている。
「ダンジョン内と違って外に溢れた敵は野生動物のように群れたり、組織的な行動を取る事が多いよな。オークやゴブリンもダンジョンに居た時は、女性を性的に襲う行動など聞いた事も無かったが、ダンジョンの外では普通に被害が報告されているし」
「大体モンスターは、どこから発生してるんだろうな? 大元がダンジョンなのか、それともダンジョンを作った存在が連れてきたのか謎が多すぎる」と、言う会話を俺と颯太がしていると翔が話に入って来た。
「僕たちも前に同じような会話をした事があって、その時気付いたのはダンジョンを登場させたのには、何かの理由があるって事くらいでした。人類の滅亡だけが目的なら、人類に対して恩恵になるスキルやJOBのシステムを使わせる事にまったく意味がないですし、問題は誰が何の目的でこの現象を起こしているのかですよね」
「それなりに考えているんだな、翔の言うとおり目的があるのは間違いないな。恐らく【D155】のマスターと会えばある程度はっきりするはずだ。今この世界に出ているダンジョンを討伐し終えたら、もう一度別次元の世界に渡り究明して行くつもりだ」
「今日北九州市内に【DPD】を五万人投入しましたがモンスターの発生数が多く中々不法滞在者の摘発が進まないのですが、いい手段は無いでしょうか?」と、上田さんが相談して来た。
「不法滞在者たちの、目的は何なんだ?」
「モンスターのドロップから得る事の出来る薬品類ですね、現状【DIT】からの流通はまったく需要を満たしていませんので、特に海外では高額で取引されています。それと放置された自動車や建造物から、価値のありそうな物を取り出しての転売行為も横行していますね」
「非合法組織から見ればダンジョンのせいで、麻薬関係は毒消し草一つで簡単に中毒症状から抜け出せますし、公営ギャンブルやパチンコ産業も、運のステータスが上がるとほぼ負けが無くなってしまったので、カジノも含めてギャンブル自体が今は成り立ちません。残るのは人身売買と、窃盗、ポーション類の密売くらいになってしまったと言う事ですね」
「成程な」と、達也が相槌を打ち、相川さんに指示を出した。
「明日以降は【PU】の部隊も五万人投入して一気にモンスターの殲滅と不法滞在者の検挙を進めていこう」
「直ぐに手配します」
◇◆◇◆
颯太が俺のスキルに関して質問して来た。
「理の土木練成のスキルって建造物は素材があれば建てれるんだよな?」
「正確には図面がないと駄目だな。図面をスキルに認識させてその図面に必要な素材があれば建物を建てる事は出来る」
「それなら、もし図面を認識させた状態で、ビルが崩れた場所に行けばその図面の建物を建てる事ができる可能性が高いということか?」
「恐らくできるな」
「北九州の中核になる物件の図面を急がせるから、一回やってみてくれないか?」
「ただじゃ嫌だぞ?」
「当然、金は払う」
それから今度は達也が、北九州の計画を説明してくれた。
「北九州の計画だがな、ダンジョンを討伐してしまったら、まず外周を壁で囲ってしまいたい。中のモンスターを外に出さずに殲滅出来るしな。それから内部を一度全て更地にする。その際に出た瓦礫を利用できれば瓦礫でかなりの建造物が出来るのか?」
「瓦礫を一切合財アイテムボックスに放り込んでおけば殆ど材料は必要ないかもな。電気配線用のコードとかも勿論必要だが」
「元々建造物として存在したんだから、新しく加える機能とかで無い限り材料はあると思うぞ」
「やってみないと解らないな」
「アイテムボックスに取り込む事の出来るサイズって上限とかあるのか?」
「一応あるが、今は百万トンくらいだな、世界最大級のタンカーで二隻分くらいの容量だと思う」
「滅茶苦茶だな」
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