第52話 年越しそばの為に

十二月三十日 七時


 達也用にアームガードを作ってみた。

 右腕からは、波動龍砲の威力を調節して打ち出す事が出来る。

 左腕からは、範囲を指定した結界を発生させる一対の装備だ。


 勿論URである。

 

 使用者を限定すると意外と簡単にUR装備が出来上がるな。


 もう一つは坂内さん用の装備だ。

 聖女らしくティアラとブレスレットで、ブレスレットは達也より広範囲に、より強力に結界を発生させる。

 知識依存だから達也が使っても微妙な性能だろうが、ティアラは脳の覚醒を促し、魔法構築の並列処理がで出来、更に精神力と知識を150%アップさせる。


「父さんおはよう、俺も魔導鍛治師を取得したんだけど、父さんと比べると、微妙な武器しか作れないんだよな。売ってるのに比べれば十分高性能なんだけど、父さんの作ったのを見た後だと色褪せて感じるんだ。でもね、俺のパーティメンバーの武器だけでも俺が作りたくてさ、少し素材融通して貰えるかな?」と、翔が話しかけてきた。

「そうだな、素材は有料で融通してやるぞ、その方がパーティメンバー達も納得して使える筈だ」


「解ったよ。ちなみにSR素材っていくらくらいするもんなの?」

「【DIT】に納品する値段で、一つがオリハルコンで五百万。ミスリル鋼で三百万だな。卸の値段でいいぞ。【DIT】から買えば2.5倍だしな」


「高いなぁ…… でも頑張って稼ぐよ。みんなと一緒にね!」


 八時には【DIT】本部の屋上に集合し、転移門から四十六層に向かった。

 達也と坂内さんの新武器のお披露目討伐だ。


「名前を付けてやってくれよ」と伝えると達也は、

「一目見て決まったぞ【アルティメットイージス】相棒の名前だ」

 

 その言葉と共に黄金と白銀が絡まりあうように輝いた。


「私も一目ぼれしたわ【パナギアシステム】貴方の名前よ」


 坂内さんの武器は、虹色にも見える幻想的な光を放った。


 四十六層から五十五層までは、新しいUR装備を付けた【DIT】の五名、颯太、達也、東雲、鹿内、坂内の五名で進み、五十六層以降は雪とTBが加わり無事に討伐を終えた。


 さぁ明日は【D72】下関ダンジョンが出てくるな。


 ◇◆◇◆ 


十二月三十日 二十時


 今日は、山野さん、今川さん、村松先生、明石先生、野口さん、水野さんのメンバーで遊びに来てくれていた。


 鹿内さんと坂内さんは討伐の流れでそのまま一緒に参加している。


 女性陣達が料理を用意してくれている。


 今日は翔たちのパーティーは、装備の打ち合わせをするそうだ。

 最近俺が作ってるのを見て、みんな装備の大事さを痛感してるみたいだ。


「村松先生たちは凄い久しぶりですね、お元気でしたか?」

「無事に戻ってこられたのを聞いて、本当に安心しました。こちらは日々研究で忙しく過ごしていますよ。施術自体は魔法を使うか、ポーションを服用するだけなので難しくは無いのですが、事前事後の検査などは十全に行いますから、それなりに時間を要します」


「私はスタンピード以降は心のケアと言う仕事が、凄く忙しくなってしまって、あっという間に一日が終わってしまう感じですね。野口さんと水野さんが手伝ってくれて本当に助かってます」


 村松先生と明石先生が久しぶりの挨拶をしてくれた。


「岩崎さん。今国内で一番大きな問題は何だかお解かりになりますか?」


 と、厚生労働省出身の今川さんに尋ねられた。

 彼は数少ない俺や颯太たちよりは年長者の方だ。


「なんだろうな?」

「人口の減少です。ダンジョンのお陰で平均寿命は恐らく相当に延びるでしょうが、人口の絶対数が増加しなければ、世界の再興は成しえません」


「昨日、食料問題の目処を立てていただいたというお話を伺って、人口問題も何かヒントをもらえないかと思いまして」

「俺に、そんな大きな問題解るわけないじゃん。でも人口増やしたいなら結婚して子供を産んで育てる。それしかないでしょ? 俺ね、結婚二回も失敗してるんだよね。理由は簡単に言うと俺がお金を稼げなかったから。甲斐性なしだの生活力0だの言われて我慢できなくなったって言うところです。何が言いたいかって言うと、普通に仕事してても専業主婦の家庭では生活が厳しいんだよね。だから共働きになっちゃう。当然子供を育てるための時間が無いから夫婦で子供は一人が精一杯。それじゃぁ人口なんか増やせるわけ無いよね?」


「まさにその通りだ。理って意外に政治家も向いてるかもしれないぞ。物事の本質を正確に捉えている」

「理なりの意見があるなら聞かせてくれよ」


 と、颯太と達也が話の続きを促した。


「まぁ素人考えだけど、今ダンジョンのお陰で日本はお金はなんとかなるだろ? だから生活費は国がすべて面倒見るから、国民は家庭を築いて子供を育てる事に専念させるってのはどうかな? 働かなくて困らないだけのお金を、未成年の子供がいる家庭にまず夫婦と子供の人数分支給したらいいよ。一人十万円として、夫婦と子供三人の五人家族なら四十万円を無条件で支給する。それなら生活費は十分だろ? 未来を作る子供を育てるなんて一番大事な仕事じゃん。それで働きに出る人が居れば、その家には生活費以上の収入があって贅沢も出来る。その仕組みを整えたら二十年後には人口は以前の水準に戻るんじゃないかな?」

「納得のご意見ですね。島長官どう思われますか?」


「ダンジョンからの収入があると言うのが前提条件にはなるが、具体的解決策として的を得ていると思う」

「大泉総理と話して、スタートさせるかそれ」


「呼んだか?」と、声が聞こえたので振り返ると大泉総理が立っていた。


「何でいるんですか総理」

「時間、出来たからビール飲みたいと思って来てみたら、話が盛り上がってたし取り敢えず聞いてみた。いいじゃないか今の話。明後日北九州の特区の発表と同時にぶち上げよう」


「岩崎さんお金持ちなんだから、言い寄ってくる女性みんな子供作って上げたらいいのに、もっと効率よく人口増えるよ」と、鹿内さんが俺のSAN値をガシガシ削るような発言をしてくる。


「私は鹿内さんの意見に賛成の上に立候補します」

「じゃあ私も立候補で」と、村松先生に付いて来た野口さんと水野さんが悪乗りして来ると、東雲さんまで「正妻が私ならしょうがないですね」と言い始めて、坂内さんも「私も正妻がいいな」とかもう収拾がつかなくなって来た。


「だから、俺には無理だって」

「もてるとは聞いていたが幅広いな。頑張れよ! 俺はビールも飲んだし今の話を原稿にまとめるから帰るな」と言って総理は颯爽と帰って行った。


「総理っていつも忙しそうですよね、私も当然立候補で」と、山野さんも悪乗りしたけど、すぐに話を切り替えて真面目な話を始めた。

「その話は別として、ポーション関係の話なんですが、かなりの素材も集まって、薬師も登録があるだけで五千人を超えているんですが、未だにSR以上のポーションは製造できていないんです。白魔導師のJOBで、やっとエクスポーションと同等の効果は確認することが出来ましたが、万能薬とエリクサーの効果は無いんです。それで薬製造のヒントが欲しいんですけど教えていただけますか?」

 

「俺も薬師は初期JOBだけなんだが、俺の場合、素材錬金をしてから作ってるな。通常の薬草でも十種錬金すれば、SR素材までは比較的手に入るから、それを五個とか使ってポーション作れば結構な確率で成功する。

まぁ俺は素材も自分で拾ってくるから、全部を金額に換算して作ればそれなりの値段が掛かってるんだろうけどな」


「素材錬金ですね、錬金術師は40ポイントJOBですから極端に取得者は減りますが、居ない訳ではないので、参考にさせていただきます。あと作りためた物があるなら、買取させていただきたいんですが?」

「あーJOBレベル上げるために、かなり必死で作ったから滅茶苦茶在庫あるぞ、万能薬でも三千個くらいあったかな、エリクサーは流石に少なめで百個弱だ」


「……そんなにあるんですね。今引き取らせていただいていいですか? 買い取り金額は明日振り込んでおきます」

「流石ですね。これで大量の治療申し込みに対して対応が出来ます。ありがとうございます」と、村松先生からもお礼を言われた。


 ◇◆◇◆ 


十二月三十一日 十一時


 今日は【D72】下関ダンジョンが現れる。


 既に下関防衛都市からは一時的に【D特区】に避難してもらい、防衛都市内は【DPD】が五万人体制で、空き巣などの発生を抑えるための警備に当たっている。


【DIT】の討伐班も既に下関防衛都市内で待機状態に入っている。

 そして十一時十一分。旧下関駅に隣接するショッピングモールにダンジョンは現れた。


 当然被害は0だ。


「今日は帰って年越しそば食べなきゃいけないから、ぶっ飛ばして攻略する。遅れないようについて来てくれ」

「年越しそばは大事だよな。了解だ」


 理と最大化したTB、雪の三人でどんどん攻略を進める。

 狩りもらした敵を他のメンバーで殲滅しながら進む。


「最近階段出現条件に時間が掛かるのが少ないよな、理由は当然あるんだろうがな」

「ダンジョンが攻略させたがってると言う事か?」


「恐らくな。強さ的には今のダンジョンでは足止め出来ない事を、ダンジョンを発生させる何者かが理解して、次のステップに呼び込んでいるんだと思う」


 そして僅か八時間でダンジョンは踏破された。

 時間当たり九階層の高速クリアだ。

 

 通常の体力では走るだけでも到底たどり着くことが出来ない程の……


 地上に戻り、下関防衛都市の警戒が解かれ、住民も無事に戻ってくる。

 五十万人の移動に対して五十個の転移門を用意して帰還を促した。


 ◇◆◇◆ 


十二月三十一日 二十時


 今日は主だった人達はみんな理の家に揃っている。

 桜と萌のお母さんが、山野さんたち今日出動しなかったメンバーと年越し蕎麦を用意してくれていた。


 テレビでは年末の恒例の歌番組が放映されている。

 今この時は、みんなで平和な気分に浸るのも悪くない。

 俺はTBをモフりながら、雪と並んでTVを見ていた。


 ずっと幸せな気分で過ごしたいぞ。

 もうちょっと頑張ってみるのも悪くないかな。

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