第51話 神様?

十二月二十九日 八時


 【DIT】本部ビルの屋上に集合して【D68】つくばダンジョンへ向かうために搭乗を開始する。

 【G.O】とチヌークに分かれて出発した。

 今日は四十層までの予定だ。


 【G.O】の船内で鹿内さんが話しかけてきた。


「昨日私も行ったら良かったなぁ。装備のおねだり聞いてあげたんでしょ? 私も急がないけど、魔法発動デバイスの効率化が出来る様なのを、作ってもらえないかな。勿論ちゃんとお金は払うよ。私の身体で払ってもいいけど」

「そう言うのは人前で言われても、返事に困るから却下だ。発動デバイスの方は作ってみるぞ」


「一歩前進したわ、人前じゃない時に頑張るね」


 それを横で聞いていた坂内さんも、頼み込んで来た。


「私もお願いしてもいいですか? 私はメインが回復サポート系にシフトしてきたから、MPの絶対量がもっと欲しいわ。今の装備は+百とか直接数値で上昇する付与効果じゃないですか? 割合上昇の装備って開発できたらいいですよね」

「ふむ。割合上昇か。イメージを強く持てば出来るかも知れないな、参考にしてみるぞ」


「颯太と東雲がニヤニヤしながら武器と見詰め合って気味悪いがどうするよ」と、達也が言って来た。

「あぁあれは俺でもきっとそうなると思うから、しょうがない。作った俺が言うのもあれだが会心の作品だ。きっとヒュベリオン並の複製費が表示されると思うぞ」


「空母一隻分の値段なら、ステイツから見れば無理な値段じゃないです。俺も欲しいです」と、マイケルも言い出した。


「あーアメリカなら言いそうだな確かに。だが断る。流石にそこは颯太と達也たちの判断に任せるよ。アメリカだって最新鋭機を国外に売ったりしないだろ?」

「OSAMUって俺には冷たいですね、島長官や斎藤マスターの様にもっと親しくしてほしいです」


「まぁ付き合いが長くなってきたら、考える事も有るかもな」


 颯太が、おもむろに俺に向かって告げて来た。


「理。こいつの名前決めたぞ【ヴォルカノ】だ」


 そう言った瞬間にヴォルカノは一際、剣身を輝かせ更に鮮やかなルビーのような色へ変わった。


「綺麗ですね」

「本当、吸い込まれそう」と、女性陣達からの声が聞こえる。


 そして東雲さんも「私も決まりました貴方の名は【すみれ】よ」


 こちらも刀身を輝かせ、深いアメジストのような色あいの刀身へと変貌した。


「大切にしてやってくれ、きっと応えてくれるぞ」

「はい、ありがとうございます。私。一生を岩崎さんに捧げて付いていきます」


「だからその重いのりは禁止だって」

「東雲さんも自重が無くなって来たわね。私ももっと積極的に出ようかな」と、坂内さんも言い出した。


「誰が翔君のお母さんになるのか楽しみです」と、萌が興味津々で目を輝かせると、翔が「お前の発言も十分危険だ」と突っ込んでた。


「私かもしれないよ?」と、向井さんが言い出した。

「婆ちゃんだけは勘弁してくれよ、幾ら今は綺麗だからと言っても俺は腰が痛いって、いつも言ってた婆ちゃんの頃を知ってるんだからな」


「師匠……応援します」

「省吾、お前が婆ちゃんと付き合えばいいじゃないか、見た目だけならそんなに違和感ないし大丈夫だ」


「ぅ、それは、俺には恐れ多くて無理です」


「私はもっともっと若返って、そのうち見返してやるからね」


「俺は何も聞こえない。そろそろ着くぞ」


 ◇◆◇◆ 


 新しい装備を身に纏った三人は、四十階層まで問題なく敵を殲滅できたので、四十五階層まで進むことにした。


「そろそろ達也は厳しいか? ヒュペリオンは精神力依存だからなJOBが身体能力系の多い達也だと相性が今ひとつだったかな?」

「そうだな。俺のJOB構成だと精神を上げるのが効率悪いな。発勁なら攻撃力依存でパワーを上げれるからそっちの方向性で行く方がいいかもな」


「それならヒュペリオンは私に最適じゃ無いですか? 精神力はずっと二位キープしてますし」

「じゃぁヒュペリオンは鹿内さんに渡して達也には、攻撃力依存のタイプを作ろう」


「この武器の価値って、五千億円相当なのよね…… 流石に私でも、手が震えますわ」

「鹿内さんにそれだけの価値があると思えばいいさ」


「貴方に相応しい、良い女になるわね」

「まぁ、頑張れ」


 ◇◆◇◆ 


十二月二十九日 二十時


 今日は、前田さん、真壁さん、藤崎さん、鹿内さん、坂内さんのメンバーで来ている。


「今日の討伐で解った事は5ポイント職は、島長官のような成長チートがない場合大体レベル五百でカンストするって言う事ですね。私と、鹿内さん、斉藤ギルドマスターが明日LV500を迎えて覚醒JOBにも手が届くはずです」と、東雲さんが言った。

「戦力的には楽しみな状況だな。俺から少し提案があるんだけどいいかな?」


「なんだ?」と、颯太が聞き返して来た。

「今のペースで行くと三月頃にはこの世界で出現しているダンジョンの発生に対して、攻略が追いつくだろ? それでなその後は先手を打って、俺が飛ばされてた世界のダンジョンを討伐していこうと思うんだ」


「こっちの世界にダンジョンを発生させないことが、一番効果があるのは間違い無いから、異存は無い」

「向こうの世界だとダンジョンは全て出現しているから、せめてレベル八百くらいは無いと連れて行ってやらないけどな。討伐部隊はこっちのダンジョンでレベル八百を目指してみんな頑張ってくれるように頼んでおきたい」


「理、達也から少し聞いたが、ダンジョンにはまだその先があると、理は思ってるんだよな?」

「あーそうだな。恐らく今の俺が百人居ても届かないかもしれない謎がある筈だ。その為に今できる事、俺のダンジョンマスターとしての格を上げる為に、融合を繰り返させてもらってる」


「理抜きでは成り立たない話になるから、そこはしょうがないさ」


 ◇◆◇◆ 


「今日は、私また思いついたことがあったからお願いに来たんですよ」と、前田さんが言った。

「前回のど○でもドアの発想から作った転移門は、結局今一番役に立ってるからな。何を思いついたんだ?」


「転移門のサイズ調整が出来る様にならないかなと思いまして。大量の避難の時なんかに今のサイズだと一列に並ばないと通れないので、八幡スタンピードの時には悲惨な事故も起きました。その教訓を生かして何とか出来ないかの相談です」

「なるほどなぁ、その話は俺も聞いたけど、それなら単純に数を増やすという考え方も成り立たないか? 予備の転移門を【DIT】で百個も抱えておけば、災害時に臨時設置すれば使えるだろ?」


「間違いない意見だが予算の問題がある。転移門一個複製するのに掛かる魔核ポイントが一千万ポイントだ。金額にすると今の魔核の買取価格で二十億だ、今はまだ世界中からの設置要請にも対応しきれてないんでな、金額その物よりも保有魔核ポイントが不足してくるんだよ」

「俺が納品するしかないって事か、今は魔導具創造もレベル十だし、もっといい素材もあるから成功率は90%超えて一台一万ポイントで作れるぞ。必要数を準備しよう」


「それなら一気に現実味を帯びるな! 理は又、大量の現金収入になるから、北九州の次はどこを買わせようか考えとこう」と、達也が言った。

「私からもお願いしても良いですか?」と、真壁さんが聞いて来た。


「なんだ?」

「八幡のスタンピードの際に【魔導ウォータータンク】の有用性は十分に立証されましたけど、現在保有しているのがHQまでしか無いので、出来ればもう少し上のランクの物を作って頂ければ、砂漠地帯の水問題等も解決できると思いまして。それと実験段階ですが、ダンジョン内での農作物の育成が出来ないかと思ってるんです。ダンジョン内では元々生えている樹木類が、伐採されたり燃やし尽くされたりしても、翌日には復活している現象があるじゃないですか? ダンジョン産のフルーツ等にも適応されているのは確認出来ているのですが、地上の農作物をダンジョン内に育成できれば食糧事情は劇的に改善されると思いませんか? 今ネックになってるのは、地上の物を植えようとダンジョンに畑を作っても翌日には畑を作る前の状態に戻されてしまうんです。その問題を解決できるアイデアを提供していただけないかと」


「なるほどなぁ、さすが国のトップの頭脳集団だけあって色々考えるんだね。だけど、それは解決方法あるよ。まだ国内発生ダンジョンでは設定できないけど、向こうの世界に【D101】を設定した時には環境設定が出来たんだ。最初からそういう農作物が育つステージを造ればいいという事だね。明日以降に設置できるダンジョンで【D101】までの間に、環境設定が出来るようになるから、それで問題解決できるよ。それこそ毎日収穫し続けても、翌日にはまた実った状態で復活してるから、麦と米だけ育てても世界の食糧事情は解決するかもね」

「私、今自分のライフワークが簡単に解決されちゃった瞬間になったんですね。わーどうしましょう岩崎さんありがとうございます。今すぐ抱いて欲しいくらい興奮してます」


 ちょっと会話が危険だぜ……


「私が先ですこれは譲れません」と、東雲さんが言い出した。

「いや、どっちも却下だし」


 その様子を見ていた翔が、少し呆れた様な感じで突っ込んで来た。


「父さん、なんかありえないレベルでもてるよな。俺の記憶の中の父さんと別人になったよね」

「別に俺は何も変わってないぞ、昔から出来る事はするし、出来ない事はやらないってだけだ」


「東雲さんの発言もどんどん崩壊してきてるよね、今の発言なんかもうハーレム前提じゃないの。私もそれで全然構わないけど」と、鹿内さんも言い出した。

「だから俺はその気は無いって、まぁ魔導ウォータータンクはURで成功すると恐らく防衛都市毎に一個あれば十分に要求を満たすはずだから、この世界のダンジョンの攻略を終えたら順に作っていこうか」


「私からも、ちょっとよろしいでしょうか?」

「どうした? 藤崎さん」


「私はもし、このままダンジョンを討伐し続けて、すべて終えた時にこのダンジョン産技術という物が残るのか、それとも元の世界に戻ってしまうのかという事に関しての疑問を抱えています。もしダンジョンの消滅と共に魔核が手に入らなくなれば、今の計画が根本的に失われる可能性もあるので」


 彼は環境省の出身で、現実的に物事を捉える事が出来ているな。


「それは俺には解らない。ダンジョンコアの言う大衆の意志が何を望むか。そしてその力を行使できる個人が何を望むかで結果が変わる。としか言えないな」

「大衆の意志は俺や達也、そして大泉総理の管轄だ。これを脅かすのは他国の意志と宗教だな」と、颯太が言う。


「結論は出せないが、今は七十億人居た人類が四十億人まで減ってしまった。ダンジョンと魔物の討伐に向けて、人類がどれだけ力を合わせて対処出来るのかが全てだ。神様の出現でも願うかそれとも神になるかと言う決断まで迫られそうだ」


 鹿内さんが真面目に「岩崎教立ち上げて世界中の人に信仰させればいいかもね、私が教祖として布教するわよ」と、言いだした。


 坂内さんも「聖女としてご神体の岩崎さんをサポートして布教の手伝い出来るわよ」とか言い出すし、もうカオスだな。


「そういう方向性も無しで頼むぞ……」

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