第49話 年末年始の過ごし方

十二月二十六日 八時


 昨日のアメリカは最高のクリスマスプレゼントを貰ったと、国を挙げて大騒ぎになったみたいだ。


 昨日ダンジョンに潜ったグリーンベレーのチームには、今日大統領から勲章が授与されるらしい。 

 【DIT】にも打診があったが、そこは丁重にお断りして自国の英雄を立てて貰う事にしたと颯太は言っていた。


 これで、またマイケルの照れた顔が見れるな。


「俺達はただマラソンしていただけで終わったから実感が全然わかないし、これで勲章貰えるとか誰にも本当の事が話せないぜ」って言ってたけど世界はこんな時代だからこそヒーローを求める。


 そのヒーローは出来る事なら自分の国から現れて欲しいと思うのは、一般大衆の共通の願いだからな。

 大衆心理を大きく反映するダンジョンのシステムは、人々の思いが強いほどより強力なスキルやJOBが誕生すると思って間違いないから、こういうイベントは大事なんだぜ!


 朝から翔達はダンジョンに潜りに行くみたいで、リビングは賑わっていた。


「おはよう、高校生が四人も居ると流石に騒がしいな」

「おはようございます翔君のお父さん。昨日はご馳走様でした」と、萌が挨拶して来た。


「あー俺は何も用意してないから、御礼は東雲さんや、桜のお母さんにするだけでいいぞ」

「私は、お仕事としてお給料貰ってやってるので、御礼はいいですよ」と、桃子さんが言った。


「いやいや、そういう訳にもいかないさ。家の中をいつも綺麗にしてくれて、美味しいご飯を用意してくれるなんて、十分に感謝に値しますよ」

「それと同じですよ、翔君のお父さんのこの家があるからこそ、みんな暖かい気分で朝を迎えれるんだから、感謝に値しまーす」と、桜に言われた。


「父さんは、今日は東雲さんと土地の確認だったよね? 何時くらいまでかかるの?」

「どうだろう? 東雲さんと澤田さん次第だな。澤田さんは開発の事話し始めたら止まらなくなるからな、範囲も広そうだしまぁ適当に切り上げたいとは思うけどな」


「今度俺たちも一度連れて行ってくださいね。見てみたいです。どんだけ広いのか」

「まだ、壁も作ってないところが多いからある程度囲い終わったらだな」


「楽しみにしてますね」


  九時前になり、澤田さんもやって来たので、東雲さんと三人で【G.O】に乗り込み早速出かける事になった。


 東雲さんが、澤田さんに確認をする。


「澤田さんおはようございます。昨日、島長官が仰ってたんですが、日本中の防衛都市以外の復興計画があるんですよね? それは防衛都市以外の土地は、一度全部岩崎さんに取得させて行くってことになるんですか?」

「そうですねぇ、それだと国土の九割が岩崎さんの個人所有物になるので、その辺は開発をする地域ごとに順を追って、開発前の土地と開発後の土地を交換していくような形で進めたい所ですね」


「おいおい、話がでかすぎるだろ。国土の九割とか俺はそんなに働く予定は無いぞ? ダンジョン攻略に協力するくらいで精一杯だ」

「そんな事言いながら、気が付いたらさらっとやってたなんて展開が見えますよ?」


「まぁあれだ。手の届く範囲でならな。期待はするなよ」


 先ずは現時点で、理の名義になっている土地を、ぐるっと一周回る事にした。

 東は静岡県御前崎市から遠州砂丘一帯で、西は渥美半島の先端、伊良子岬までに及ぶ直線で八十キロメートルを越す長大な土地だ。


この区間には出現ダンジョンも、浜松の【D50】しか存在しておらず比較的隔離もしやすい。


「こんな広い土地を個人で持っても使い道なんてねぇよな」

「すでに現状で【D特区】が世界の中心的な役割を果たして居ますので、安全面の確保さえ出来れば使い道はいくらでもあります」


「世界中の防衛都市は既に直接繋がってますし、【DIT】の本部も世界中からの研究機関を受け入れるには、少し手狭になってきているので、計画的に拡張をしたいとこですね」

「まずこの土地の開発を完成させることが重要です。国内の荒廃した土地も【DIT】に任せれば何とかなる事を実際に見せれば、各自治体も協力的になるのは間違いないですし」


「解ったよ。取り敢えず今日は渥美半島を終わらせちゃおうか。境界線が解らないから、澤田さんもちゃんと付き合ってくれよ」


その日一日をかけ、防波壁まで完全に整え、結界を自動修復で張れる魔導具も備えつけられた。

現状国内では一番安全な土地が【D特区】から西側三十キロメートルに渡り完成した。


澤田さんの試算によると、この状態では、取得した価格の五十倍以上の値段で、取引されるであろうという事だ。


「それ一体幾らになるんだ? 」

「今日の整地した地域は取得に掛かった費用が八百億円くらいですね」


「桁がが多すぎて計算できねえよ……」


「まぁそういう事ですね。世界で一番安全で、交通の便も国内はもとより、世界中に一時間掛からずに行ける土地の価値としては妥当でしょう」

「なんかため息しか出ないな。一年半前まで俺は時給千二百円の派遣だったんだぜ」


「こちらの土地の利用方法は、【DIT】に任せて頂けるという事でよろしいでしょうか?」

「あー好きにしてくれ、今日はこれで帰ろう」


「了解です、お疲れ様でした」


 ◇◆◇◆ 


 家に戻ると既に翔たちも戻って来ており、みんなで晩御飯を食べながら今日の出来事を報告しあった。


 翔は今日テイムをして来た。

 見た目はどう見ても狼だが、テイムの影響なのか従順で賢そうに見える。


「名前は決めたのか?」

「『ウル』って名前にしたよ、特技は身体強化だから結構強いよこいつ」


「毎日ちゃんと構ってやると、実力以上の力を出すからな」

「解ったよ」


 しばらくすると、颯太と達也もやって来た。


「年内にまだスタンピードを起こして無いダンジョンを二つ討伐完了させたいが、大丈夫か?」

「あー大丈夫だ。まだ五日あるから、ちょっと駆け足になるが問題は無いぞ」


「理、今日一日で渥美半島の土地終わらせたらしいな、澤田から連絡が入ってすぐに協議を始めて、早速各省庁が移動してくる予定になったぞ。【DPD】と【PU】の本部もそこに移転する事にした」

「国が整備済みの土地を買い取る形になったが、値段は少し安めにしてもらった。済まんな」


「原価割れしてなきゃ文句は言わないぞ、幾らだ?」

「そう言ってくれると助かる。まあそれでも冷静に判断して今世界中で一番価値のある土地になってるからな、二兆円だ」


「そんな額もらっても使い道無いだろうから、今一番被害が集中して、住めなくなってる北九州市の土地をほぼ丸ごと買い取る。あそこは再開発すると元は価値のある地域だから良いぞ」

「北九州は、魔導テクノロジーを総動員した国際都市を作る予定だ。完全なクリーンエネルギーを使って、区域内は従来の化石燃料を使用する設備は一切使わない。車なども電池式の物しか利用できない区域にする。外部との遮断は各防衛都市と同じように、壁で取り囲んでしまい管理する形にはなるがな」


「颯太も達也も、その計画って俺が工事する事前程で話してるよな?」

「「当然だ」」


「逃げるぞ?」と、俺が反応したが、華麗にスルーされて、東雲さんが話の続きを聞き始めた。


「範囲的にはどのくらいの範囲なんでしょうか?」

「門司区、小倉北区、南区、戸畑区、八幡東区、西区だな、まぁ若松を除く全域だ。少し理由もあってな、非合法組織の不当な占拠によって、治安もめちゃくちゃな状態になってしまっている。当然今までの所有者が何かをしようにも手のつけようもないから、全てを更地にしてしまえば、非合法勢力も一気に炙り出せる。そこに【DPD】を投入して完全に鎮圧する事で、他の地域で同じ状況へなる事の抑止効果になるだろ」


「ずいぶん思い切った事するんだな」

「ダンジョンによって破壊しつくされたが、人の力によって理想的な再生をする。逆にダンジョンが出来なければ決して出来なかったような、夢の未来都市の実現だ。転んでも只じゃ起き上がらないぜ」


「理ほどじゃないが土木系等の能力持ちは、結構現れてるからな。計画だけはして置いたんだ。そこに理が帰ってきたから、一気に実現したいって言うのが、総理の本音だな」

「一月一日に正式に発表されるぞ。取得は水面下で進んでほぼ完了してる。年末年始の期間に一気にやってしまうことが出来れば、世界も驚愕するぞ。三十一日はスタンピードは無いが【D72】の出現場所は何処なんだ?」


「あー聞いてなかったな。ちょっと待ってくれ」


『ナビちゃんちょっといいかな?』

『いかがなさいましたか理様』


『来週の【D72】ってどこに出るの?』

『山口県、下関防衛都市でございます』


「下関だってよ。こりゃ年末年始はガッツリ北九州辺りに居る事になるな」

「父さん小倉と八幡は俺たちも必ず連れてってくれよ」


「言われなくて連れてくさ、母さんの敵討ちも出来るな。頑張れよ」


 ◇◆◇◆ 


十二月二十七日 八時


 今日は【D67】成田ダンジョンの討伐だ。


 【DIT】本部庁舎の屋上ヘリポートに朝から集合して、俺、颯太、達也、東雲さん、鹿内さん、坂内さん、翔たちのパーティーは【G.O】で、他のメンバーはチヌークで成田空港を中心に作られた防衛都市に向かう。


 総勢六十名に及ぶ部隊だ。


 高レベルの敵はTBと雪が殲滅し、それ以外の敵は【PU】と翔たちのパーティも頑張っていた。


「海外組は流石に強いな、レベルでは表せない強さを持ってるよな。戦闘のプロって感じだ」


 二十層まで進むと敵も強くなったので、前線を交代して、俺も攻撃に加わった。


「俺が向こうに居た時に作った武器とか使って見せるな、開発の参考にでもしてくれ」


 ヒュペリオンで属性を切り替えながらガンガン敵を倒していく。


 そして四十層に達した。


「今日はこの階層までで終わりだな。残りは明日にしよう。取って置きのを見せてやる」


 スキルを発動した。


 【神龍召還】


 六十メートルサイズのヴァハムートの一撃は一緒に居た者を驚愕させるには十分すぎた。


 帰りは転移門で四十層と【DIT】の本部を直接繋いで戻った。


「おいラスボス。あれは反則過ぎだろ。まったく馬鹿げてるにも程があるぞ」

「まぁ達也のカ○ハメ波の上位互換だからな、でも手加減が出来ないから外では使えないとか結構不便だぞ。一日一回しか呼べないしな」


「ヒュペリオンはURか? 複製するにはどれだけポイント食うのかちょっと試していいか?」

「いいぞ、高そうだよな」


 颯太がスキルを発動した


【アイテム複製】


 ヒュペリオン


 必要魔核ポイント 十億ポイント 成功率30%


「うわひでぇな、URだと成功率まであるんだな。SRまでは魔核ポイントは高くても、成功は確実だったから使えたが、現在の魔核の買取価格で一回二千億円使って30%の成功率とか流石に国の予算では無理だ」

「まぁ参考にする程度で自分たち用のを開発すればいい」

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