第三章 俺の守りたいもの

第48話 ちょっとがんばらなきゃ

十二月二十五日 八時

 

 やっと無事に家に帰ってきた俺は、久しぶりにみんなの顔見ることが出来た事や、成長した姿の息子との再会を喜び、追い詰められた状況になりつつある世界の様子を聞いて憂慮し、自分の財産がとんでもない事になってる状況に驚愕し、そして、自分を待ち望んでくれた人が居た事を素直に嬉しいと感じた。


「こりゃ俺らしくは無いが、ちょっと頑張らなきゃいけねぇかな」


 東雲さんは、俺が戻ってきた事により再び今日から、派遣秘書官として勤務をする事になった。


「岩崎さんおはようございます。早速なんですが色々お願いしたい事が山のように溜まっちゃってるので、申し訳ないんですが、このまま島長官の元へ同行していただいてもよろしいですか?」

「おう、いいぞ。流石に昨日ちょっと話しを聞いただけでもかなりやばい状況だってのは理解できるから、優先順位決めてもらってさっさと片付けちまおう」


 東雲さんと、書斎で話していると翔がやって来た。


「父さんおはよう。お願いがあるんだけど、これからダンジョンを討伐に行くなら、俺も連れてって貰えないかな? 出来れば仲間と一緒に、当然危険なのは解ってるし、無理なお願いしてるとも思ってるけど、俺強くなって母さんと暮らした街を取り戻したいんだ。頼むよ」

「おう、別に危険でもないぞ。向こうの世界でもレベル二十くらいのやつ連れて百層くらいまでは良く潜ってたしな、強くなりたいなら強くしてやるさ。誰でもって訳には行かないがな」


「俺、今五人でパーティー組んでるんだけど、みんな一緒でいいの?」

「おう、一人も五人も同じだ」


「岩崎さん【DIT】からはどの程度連れて行ってもらえますか? 出来れば少しでも多くのメンバーを育てたいので」

「今こっちの世界は【D71】までが出現したはずだよな? 藤崎さん呼んでくれたら、【D71】までの討伐済みダンジョン設置しちまうから【PU】の連中はそこで鍛えてもらうように頼む。颯太や東雲さん達は俺に付き合って貰って、手っ取り早く上げちまおう。俺は出来るだけ早くサボりたいからな」


「了解しました。何か全てがまったく変わってないですね。安心しました」

「父さん、リビングに俺のパーティーメンバー揃ってるから、改めて挨拶させてください」


「翔。まぁあれだ。堅苦しい喋り方は禁止な。それが嫌だったら連れていかないぞ」

「解ったよ、じゃぁみんなと会ってくれよ」


「おう」とだけ答えて、リビングへと向かった。


「よう、みんなよろしくな。翔と友達なんだって? ありがとうな。俺が全然構ってやれてなかったし、ひねくれたとこもあっただろうけど、友達になってくれてありがとう。あれ? 一人友達って言うにはちょっと年上の人いるな俺と同じ年くらいか?」

「嫌だよ、解んないかい? 向かいの家に住んでた婆ちゃんだよ私は」


「ええええええええええええ、向井の婆ちゃんか? 何なんだよその見た目、詐欺じゃん」

「あんたに言われたくないよ、どう見ても翔君のお兄さんくらいにしか見えないじゃないの」


「でもなんでまた、婆ちゃんがモンスター狩ったりしてるんだ」

「乙女の秘密だよ」


「……まぁいいや、腰とか痛くないのかい?」

「お陰さまでピンピンしてるよ。でもよろしく頼むね」


 みんなで朝ごはんを食べてから【DIT】の本部に向かった。


「翔、お前の父さんなんか凄いな。全然偉そうなとことか無いし、素直に尊敬できそうだぜ」

 と、省吾が言うと萌と桜も理への感想を口にする。


「私もなんか、圧倒されちゃってる」

「確かに雰囲気とか翔君に似てはいるんだけど、全然お父さんに見えないよね」


「俺も実際は八歳の時から一度も会ってなかったし、なんか普通に話せるのか結構ドキドキしてたんだけどな、悩んだのが馬鹿みたいな感じだった」


 ◇◆◇◆ 


 十五分ほど歩いて【DIT】の本部に着いた。

 そのまま颯太の執務室に向かい部屋に入ると、大泉総理と達也も一緒に居た。


「よう理。無事に戻ってきたな、待ってたぞ」

「総理、俺なんかを待ってたって言ってくれてありがとうございます」


「沢山話したいことはあるが、今日からまた借金返済の為に毎日ビール抱えて行くから、話はその時だ。今は片付けなきゃならない事がいっぱいあるから相談に乗ってくれ」

「俺もこんな時代になったから中々手に入れるのも大変になったが、酒と焼酎はあらゆる伝を使って揃えてるからな。この為だけには躊躇せずに立場も権力も使ったぞ」


 と、達也と颯太はまた今日から毎日家で酒盛りする気満々だな。


「今日から取り敢えず出現してるダンジョンは、バンバン討伐していくぞ。優先順位を書き出して同行する人員を決めてくれ。移動は基本俺の船で行くからこっちが東雲さん入れて九人だから、二十一人以内で頼むな。後さっき東雲さんには言っておいたけど、【D71】までで俺が討伐したダンジョン設置するから、藤崎さんと澤田さん呼んでもらえるかな。【PU】と【DPD】の強化に使えるだろ?」

「何か色々パワーアップして戻ってきたみたいだな。理の土地なんだが、かなり広くなってるだろ。あれもざっと開発してくれれば、また国が買い戻す事も出来るから暇を見てやってくれよな。国が開発するには資金も手段も足らないが、開発してある土地なら税金を思い切って投入できる。今国内の荒廃した土地をその手段で片付けていけば、日本はそう時間をかけずに以前の、いや以前より更に進んだ機能的な都市を有することが出来る。頼むぞ」


「総理、あんまり期待したら俺逃げ出しちゃいますよ? 俺の目標はニートなんですから、毎日このTBと雪をモフリ倒して過ごせれば満足なんですよ。まぁそれを邪魔する要因があれば叩き潰しますけどね」

「そうか、早くダンジョンを片付けてしまって、理の目標が叶えばいいがな」


 藤崎さんと澤田さんがやって来たので、指示に従ってダンジョンの設置を終えた。


「澤田さんちょっと頼みがあるんだが聞いてもらえるか?」

「何ですか、改めて?」


「さっき颯太に聞いてきたけど、俺の家の周りってまだ畑のままになってるじゃん。そこも俺に貸してくれって言ったら了解してくれたからさ、周りの畑500坪分使ってちょっと建物建て増ししたいんだ。翔のパーティーメンバーたちも、その家族も居るし、俺の手の届くとこに在る物はとことん守りたいしな。そこにちょっとしたマンション建ててそっちに住んで貰おうと思う。図面引いて資材だけ用意してくれたら俺がスキルで一気に建てるから、急ぎで図面と資材を頼みたいんだ」


「了解しました。今は設計の専門家も大量に【DIT】で確保してますので、三日以内に図面を上げて、資材は正月を挟むので十日見てもらえれば揃えます。希望の間取りとかありますか?」

「そうだな、ちょっとだけ余裕見て4LDKの広さで十階建てにして貰おうかな。1フロアは一部屋だけにして、一階はエントランスと東雲さん用の事務室で、二階は全部会議室にして三階から上が住居で頼む」


「解りました。その内容で早急に図面を起こします」


 ◇◆◇◆ 


「颯太。この船なかなかイカしてるだろ? 次元航行艦『グラビティオーディン』だ。G.Oって呼んでくれ。俺しか使えないけどな。普通にこの世界で使う時は、マッハ5の速度まで出せるぞ。何処から解放して行く?」

「かっこいいな。俺が使えるようなやつも作ってくれよ。今日は世界中にアピールしときたいから、海外から片付けたい。付き合い上アメリカの【D40】ニューヨークダンジョンをやりたい。【IDCO】を通じて派遣されてるグリーンベレーのメンバー連れて派手にやりたいがそれでいいか?」


「政治的な判断は俺の出る幕じゃないから、颯太がそうしたいならそれでいいさ」


 早速N.Yにグリーンベレーのメンバーと颯太や翔達の主だったメンバーを連れて転移門で移動した。


 討伐自体は圧巻の一言だった。

 他のメンバーはただマラソンをするだけで、全てのモンスターとマスターはTBと雪の二人で片付けた。


 四十層のダンジョンを僅か八時間で討伐し終え、帰りはスキルの転移で【DIT】本部へと戻った。


 グリーンベレーのマイケルが声を掛けて来た。


「その非常識なペットは一体どれくらいのレベルなんだ?」

「あぁTBが千三百八十で雪は千四百二十だな。今だと百層まではよっぽどの事が無い限り遅れは取らないぞ」


「俺たちでもそこに辿りつけるのか?」

「俺も普通のおっさんだし、やる気次第じゃねぇかな」


「俺はOSAMUと行動を共にしたい」

「いやいや、男臭い連れが増えて欲しくないから無理だ」


 きっぱりと断ったぜ! 俺はNOと言える日本人だからな‼


「酷えな、理」と、達也に突っ込まれたが、ここは譲れない。

「マイケルはもう総合ランクも二十位まで上がってるから、討伐には基本参加させるし、それでいいだろ? それにこれでアメリカ国内はダンジョン無くなったんだから、国内のスタンピードで溢れたモンスターの殲滅がまだ忙しいだろ」と、颯太がフォローを入れてた。


「今日【D71】まで【D特区】に設置してるから、その下層で狩が出来るようになれば、ここのスタンピードで溢れた敵なんか簡単に倒せるぞ」

「解った。取り敢えずダンジョンで、俺のチームと一緒に鍛える」


「無理はするなよ」

「マイケルとメアリーはこのままテレビに出て国内の討伐が完了した事を発表して貰う。自分の国を守ったって言う方が受けが良いからな。猫と狐の話は抜きで頼む」と、颯太が指示を出していたが、マイケルはちょっと嫌そうだったな。


「颯太こいつらが拗ねるから、ちゃんと名前で呼んでくれ」

「すまん了解した。TB、雪、ゴメンな」


 ◇◆◇◆ 


十二月二十五日 二十一時


「遅くなっちまったな、早くビール飲もうぜ」と俺は声を掛けた。

「直ぐ料理も用意しますね」


 鹿内さんと坂内さんと東雲さんの三人がキッチンに向かった。


「マイケル、ガチガチじゃねぇか上がり症なのか?」


 テレビニュースでは、インタビューを受けるマイケルとメアリーが照れ臭そうに映っていた。


「今日は最初だから一日で終わらせたが、次からは少しペース落として一日二十層くらいのペースでやるぞ。そうしないとドロップとか勿体ないし、翔たちの訓練にもならんからな」

「で、翔は今日どれくらいレベル上がったんだ?」


「出発前がレベル四十四で今が六十五だよ」

「まぁ三十人パーティだとそんなもんか。前に五人連れて【D101】に潜った時は、帰ってきた時にレベル六百二十まで上がった奴らがいたからな」


「そりゃ凄いな」

「そう言えば聞いて無かったが、翔のJOBはどんなのがあんだ?」


「テイマー、サマナー、召喚術師と鍛治師、それに剣が剣王までだよ、あとまだ取れないけど魔導鍛治師くらいかな」

「サマナーはどんな感じのJOBなんだ?」


「精霊を召喚して、特技を使って貰うって感じだね。テイマーはまだテイムしてないんだよね、今の所一体しかテイム出来ないみたいだから強いモンスターの方がいいのかと思って」

「元の強さは関係無いぞ。自分と波長が合うって言うか、こいつと一緒に居たいって思うのをテイムした方がいい。TBなんて普通の野良猫だったからな」


「そうなんだね、俺のはモンスター限定だから明日にでもテイムしとくよ、今日召喚魔法も取得したけど、これもJOBLVが伸びて来ないと呼べるのが弱いみたいだね」

「召還魔法はきっと最終的にはすげぇことなるぞ。俺も今は一番強い攻撃は召還だからな」


「父さんのはスキル?」

「特殊な入手条件のスキルだな。そのうち見せてやるよ、マジで小便ちびる位すげぇぞ」


「明日は討伐は休みだから、まだ、こっちへ帰ってきて全然ゆっくり出来てないだろうし、自分の敷地の確認でも『G.O』で回ってきたらいいぞ。無断で勝手に理の土地使ってるとこも多いが許せ」と、颯太が言ってくれた。


「まぁそれくらいは隣の土地貸してくれたからチャラでいいぞ」

「私はお供しますね。後、澤田さんもきっと着いて来ると思います。ちょっと邪魔だけど」

 東雲さんは付き合ってくれるみたいだ。


「東雲も最近、鹿内並みにズバッと来る時あるよな」と、達也が言うと、鹿内さんが「私は、わが道を行くですから! そろそろ教祖JOBもレベル五十に届きますしね」と言って来た。


「教祖はどんな効果あるんだ?」

「主に魅了とか、洗脳系の特技を覚えているわね、味方に発動すると島長官の軍師のバフより強力なバフがかかるし、重複効果もあるから結構凄いわよ」


「私の聖女の特技も今日なんか凄いの覚えましたよ。聖水シャワーって言うんですけど浄化の効果があるみたいです」と、坂内さんが言った。


「その名前さ、結構危なくねぇか? 一部マニアが熱狂しそうだな」と、俺が言うと他のメンバー達が、微妙な表情をした。


「父さん…… 俺達一応まだ高校生だし、下ネタ系は勘弁してくれよ」

「ああ、すまんな。でも、下ネタって理解できてる時点で、変わんねぇぞ」


「そんな事言うと天罰下りますよ?」って、坂内さんに言われちゃったぜ。


「坂内と鹿内に関してはJOBの特徴から宗教関係が狙ってる気配もあるんだよな」と、達也が教えてくれた。


 宗教はいつの時代も、どの世界でも面倒臭い事この上無いよな。

 実際ダンジョンが現れるまでの世界情勢でも、戦争の90%以上の原因は宗教間の争いだったしな。


「颯太の覚醒JOBも教えてやれよ」と、達也が言った。


「笑うなよ? 結構気に入ってるんだから。『スーパーヒーロー』だ。勇者を物理特化にして自分に強力なバフがかかるような感じだな」


「すげーカッコいいじゃん、夢が叶ったじゃないか」

「馬鹿野郎、これでラスボス倒すまでが夢のワンセットだ」


「ラスボスって理だろ?」

「そりゃ無理だな」


 久々の家での飲み会はやっぱり楽しいな。

 まぁ昨日もクリスマスパーティはあったんだが、今日の飲み会は漸く日常が戻って来たような安心感があるぜ。

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