第41話 D特区の変貌

八月二十日 八時


 今日はダンジョンの発生日だから、東雲さんは朝早くから【DIT】本部に出かけていった。


 しかし昨日は本当にびっくりする事ばっかりだったな。


 俺に渡してくれた刀は、東雲さんが父さんに貰った刀を、島長官に複製してもらった物らしい。


 完全にお揃いの武器だった。

 槍も父さんの作品だと言う事だ。


 【DIT】のお姉さんたちは「翔君はめちゃくちゃお金持ちになるから、変な女に騙されたりしたら駄目だよ? 我慢できない時はお姉さんたちが相手してあげるから言っておいで」とからかわれた。


 でも実年齢はしらないけど、見た目はみんな若くて綺麗で本当にお願いしたいぜ。


 【DIT】の澤田さんが、地図を広げて父さんの所有する土地を説明してくれた。

 海岸沿いに八十キロメートル以上に及ぶ長大な土地だった。


 現在は、島長官の判断でその所有地全体を【D特区】として開発しているそうだ。

 

 父さんは便利な土木練成と言うスキルであっという間に開発できてたらしいけど、現在は、JOBによる建築師や錬金術師が現れた人や、土属性魔法を使える人がチームを組んでD特区及び、各防衛都市の外壁を築き上げてる。


 結界に関しては、賢者や結界師というJOBが発現した人が、道具師、付与術師というJOBを持つ人達と協力し合ってチームで設置して行ってるそうだ。


 今の時代のトレンドは建築系のJOBが発現すれば職に困る事はないと言う事だ。


 もう一つの人気職業は、薬師、白魔術師系統のJOBだ。これもJOBレベルが上がれば凄くお金になるらしい。

 モンスターに襲われる事件は、毎日数え切れないほど起きているので、当然と言えば当然だが、しかしこれも万能薬やエリクサーは、未だに父さんが残していった物しか出来てなく、島長官による複製でしか作り出せないらしい。


 複製は莫大な魔核ポイントが必要なスキルらしく、優先順位的に転移門などを作らなくてはならない為に、中々高位の薬品が出回る事はない。


 その中で昨日も家に来てくれていたが、坂内さんは聖女JOBを獲得していて、このJOBは世界中で坂内さんだけにしか確認されていないらしい。


 70ポイント職だけに中々JOBレベルは上がらないらしいけど、恐らく最終的にはエリクサー並の効果が予想されているらしい。


 【DIT】の人達は、みんなレベルも高く、珍しいJOBを取得している人が多いのだが、異彩を放っているのは……


 聖女の坂内さん

 剣神の東雲さん

 教祖の鹿内さん


 の三人のJOBで、それぞれが、世界で一つしか確認されてないらしい。


 島長官と斉藤ギルマスも凄いJOB持ってるらしいけど、公表はされていないと言う事だ。


 俺はこれから、どうして行くのがいいのかな。

 きっと希望すれば【DIT】に所属する事も出来るのかもしれない。


 でも俺は、きっとそうしないと思う。

 自分の力で可能性を探してみたい。

 かつて父さんが一人で強くなっていったように、俺にもできれば…… いいな。


 ◇◆◇◆ 


 十時過ぎに省吾がやって来た。

 午前中は向井さんに槍を習うためだ。


 昨日同席してくれたお陰で、斉藤ギルマスから「翔と一緒に行動するなら、そこそこの装備揃えないとな」と言われて、これ使っとけと防具一式を貰ってめちゃ感動してた。


 向井さんは、とても教え方が上手だと思う。


 まずお手本を見せてくれて、コツを言葉で説明してくれる。

 それから実際にやらせてみせて出来た事を凄くほめてくれる。


 出来なかった事を決して怒らない。


「こういう風にしたらもっといいよ」と言って、また見本を見せてくれる。


 充実した時間だ。

 昼からは実際に省吾と二人でダンジョンに潜る予定だ。


 【D1】だけどね!


 その前に今日は大事なイベントをこなさなければならない。

 JOBの取得だ。


 まず、省吾から取得する事になった。


【JOBリストオープン】


槍術師  5P

シーフ  5P

黒魔導師 5P


槍豪    10P

レンジャー 10P


槍聖    30P

黒魔導師  30P

シーカー  30P


賢者    50P

槍王    60P


やったな、かなり凄いぜ! 昨日の【DIT】の人達の話聞いてた効果かな。


次は俺


【JOBリストオープン】


剣士     5P


剣豪    10P

ビーストテイマー 10P

薬師    10P

鍛治師   10P

 

剣聖    30P

サマナー  30P

錬金術師  40P


召喚魔術師 50P

剣王    60P

魔導鍛治師 70P


 ぉぉ何かよさげだ。

 召喚強そうだなぁ。


 JOBは省吾が槍術師と黒魔術師を取得し、俺は剣士しか選べなかったが伸びに期待だ。


 目標は、レベル十まで上げてテイムがしたいな。


 二人で【D1】ダンジョンに向かう。

 めちゃ人が多い…… これじゃ狩りにならないや。

 【D1】で狩るのは諦めて外に行く事にした。


 それなら転移門で八幡に戻ろうと言う事になって、今は八幡防衛都市の外周から遠賀方面に向かう所で狩をしている。


 装備とJOB習得による効果は格段に高く、二人とも三時間程でレベル8まで上がった。


 今は十六時前だ。

 急に俺と省吾のスマホからアラートが鳴り響く。

 結界が最高レベルで発動されるらしく、至急防衛都市に帰還する事を促すアラートだった。


「何が起こったのかな?」

「こんなアラートが鳴るのは小倉のスタンピードの時以来だから、同規模かそれ以上の事が起こったと考えるべきだろうな」


 俺たちは急いで八幡防衛都市に戻った。

 防衛都市に戻ると凄く町がざわついていた。

 転移門の側にある街頭テレビで六本木の惨劇が報道されていた。


 【PU】の部隊が壊滅し、多数の犠牲が出たそうだ。

 今までも被害が出る事はあったが、部隊が壊滅したのは始めての出来事だった。


 俺は、東雲さんたちが心配になり、すぐに【D特区】に戻った。

 凄く心配しながら、家で東雲さんの帰りを待つ。

 向井さんも今日は気を使って残ってくれている。


 二十時を過ぎた頃に、東雲さんが帰ってきた。


 良かった……


 東雲さんは表情が暗かった。

 第一次の【DIT】メンバーでは始めての殉職者が出てしまい、急に死を身近に感じてしまったみたいだ。


 話しかける事が出来ない俺に、向井さんが言った。


「みんなやるべき事をして、護るべき人を文字通り命をかけて護ってくれたのよ。今は安らかに眠れるように祈ってあげる事しか出来ないけど、意志をついで護れる人になれる様に頑張りましょう」


 と、声を掛けてくれて、帰宅していった。


 東雲さんも少しは気を取り直して「暗い表情しちゃってごめんなさい。もう大丈夫だよ」と言ってくれた。


 どうなるんだろう、これから……


 翌日は朝から特区内は、喧騒に包まれていた。

 日本国内はもとより、世界中から転移門を使ったハブとして特区を使う事になったため、大幅な敷地調整が開始されたためだ。


 父さんの所有する東側の土地を完全にハブ拠点として使う事になった。


 その土地は防波壁まで含めて父さんが整備していたらしく、結界を張るだけで直ぐに転用可能な状況だったらしい。


 各国の大使館や【IDCO】の本部もこの場所に作る決定がされ、意思決定の迅速さが、今までの世界の流れとはまったく異なっている事を実感する。


 ◇◆◇◆ 


 そして、今日も俺は省吾と二人で狩りに出かけてる。


「今日の目標はレベル10達成だよな」

「俺の槍が火を噴くぜ」


「槍は俺のだけどな」

「絶対お金たまったら払うから、この槍譲ってくれよ。翔は使わないだろ」


「まぁそこまで言うなら譲ってやらないでもないけどな。五百万な」

「うはぁぁ高いなぁ。でもネトオクだと理ブランドのR武器は最低一千万超えるからしょうがないな」


「まぁいつでもいいけどな。でたぞゴブリンだ。魔法で牽制してくれ俺は回り込んで狙う」


 ◇◆◇◆ 


 四時間ほどの狩をして帰ろうとしたら、女性の悲鳴が聞こえた。


「イヤーー、来ないで。来ちゃダメぇぇっ」


 と叫んでる。

 オーク二匹に襲われてる女の子二人連れだった。

 この世界で実際には始めて遭遇するが、やはりネット小説でよくある展開のように、オークは性的な意味でも女性を襲う。

 ダンジョン内では起こっていなかった現象だが、地上に進出してからはそういう被害もよく耳にするようになった。


 初心者向けの装備を身につけて、武器は打撃系のロッドを使ってる。

 魔法職かな?


 オークは二層以下の魔物でレベルも十から十五くらいはあるはずだ。

 とても初心者装備の女の子で何とかなるようには見えない。


「これは、見捨てるわけにも行かないよな。行こうぜ」

「あぁ目の前で死なれたらトラウマになりそうだしな」


 省吾がファイアを放ちターゲットをこちらに向ける。

 俺はまっすぐ刀を構える。


 突っ込んできたオークを、そのまま一撃で切り伏せた。

 二匹目のオークは省吾が槍で喉を一突きで貫き倒した。


 やっぱこの武器の威力半端無いよな。

 さっきまでの狩りでレベルも10に上がって居たので、省吾が槍豪、俺も剣豪を取っていたのも良かった。


「大丈夫ですかー?」

「あ、はい助かりました。って原田君と松尾君じゃん。そんなカッコイイ装備つけてるから解んなかったよ」


 同じクラスの子だった。

 名前は


 山口 萌

 梅野 桜


 同じクラスだが、学校で会話をした事はない。

 

「ありがとう助かったよーもう絶対駄目だと思ってたーー」

「こんな街の近くであんな強いのが居ると思わなくて油断してたの、本当にありがとう。御礼に喫茶店だけでも奢らせて」


「俺たちも、もう今日は狩り終わって帰るとこだったから、遠慮なく奢ってもらうかな、翔も大丈夫だよな」

「あー大丈夫だよ」


 それから四人で防衛都市内のファーストフードの店に行って、一時間ほど過ごした。


「本当にありがとう。オークに犯されちゃうかと思ったら、おしっこもらしそうだったよ」

「私もそんな事される位なら、自分で死のうかと思ったよ」


「でも外に出る以上はそんな危険も当然あるんだから、女の子二人だけで出るのは、止めた方がいいと思うぞ」

「二人とも、なんで探索者なんてやろうと思ったの? 何かイメージが違う」


「私も桜も小倉スタンピードで、お父さん殺されちゃってるから、家計の足しと敵討ちかな」

「俺と同じなんだな。でも本当に気をつけたほうがいいよ」


「松尾君達は二人ともずいぶん強いんだね、装備も凄い高そうなのつけてるし。どうやったらそんなに早く強くなれるの?」

「俺と省吾はちょっとだけ訳ありだからな」


「ちょっとだけ、だけどな」


「ねぇ、夏休みの間だけでもいいから、私と萌と一緒にパーティ組んでもらえないかな?」

「私からもお願いします。分け前均等にしてなんて言わないから、せめてレベル10くらいになるまで付き合って下さい」


「俺はどっちでもいいや、省吾に任せた」

「俺たちと一緒に行動するなら、ちょっと守って貰いたい秘密があるけど、それを言わないって約束できるならいいぜ」


「女の子にそんな事言っても、無理だと思うけどな? これは秘密だけどねってみんなに言いそう。取り敢えず夏休みの間だけね。その後の事は二人の行動次第って事で」

「ありがとう約束は守るよ」

 

「明日からお願いします」


 そこで連絡先を交換して帰った。


「なぁあの子達にも向井さんの稽古とかしてもらったほうがいいんじゃないかな?」

「いや、ちょっと様子見てからにしたほうがいいと思うぞ、翔の家とか、置かれてる環境とか聞いたら普通の女の子じゃ、ストーカーになっても不思議じゃない。資産三兆円だしな」


「別に俺のお金じゃないから関係ないけどな」

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