第40話 どんどんいこうぜ
俺の居た世界では十二月十六日
日本でのダンジョン討伐も終わり、大陸へ向けて旅立った。
木下さんならきっといい国を作ってくれるだろうな。
と、猿顔の男の人を引き込むような笑顔を思い出す。
「おかずなんて全然無かったのに、ご飯が美味しかったよな。やっぱり気持ちの入った食事は贅沢なだけの食事より全然美味しいんだな」
醤油や味噌とお米は結構な量を餞別に持たせてくれたので、しばらくは困らないな。
これで討伐も頑張れるぜ。
「そろそろ次の目的地に着くぞ」
「解ったにゃ」
「はーい」
マップ上では俺の居た世界のソウルにあたる場所に該当する。
目的地に近づくとモンスターの姿を見かけるようになってきた。
あーこの様子じゃ人はもう誰も居ないだろうな。
一面に広がる廃墟の光景の中、ダンジョンに到着し、早速中に入る。
『ナビちゃん。ちょっといいかな』
『いかがなさいましたか? 理様』
『ここは何番目かな?』
『【D53】でございます』
五十三番目か、階段出現条件が特殊じゃなきゃいいけどな。
と、思いながら中央部を目指す。
さぁ問題の階段出現条件はなんだろう。
【鑑定】
同種のモンスターを連続して倒さず五十体の討伐。
良かった、比較的楽な課題だ。
京都と違って、湧きもそこそこありそうだしな。
◇◆◇◆
結局ここは、大きな問題も無く二週間で討伐を終えた。
ドロップの無いダンジョンは、モチベーション維持するのが一番大変だよな。
と、思いながらダンジョン外に転送される。
『【D53】の討伐が確認されました。報酬をお受け取り下さい』
スキルじゃないとクリアできないような事が起こる可能性が高いから、それまではストックだな。
『【D53】コアいるかい?』
『お初にお目にかかりますご主人。既に【D1】コアとの意思の疎通もでき、私も賛同します。よき未来を築き上げてください。それでは』
『【D53】コアとの融合を果たしました、現在コアレベル235でございます』
なんかあっさりと終わったよな。
さて次だ! どんどん行こうぜ‼
◇◆◇◆
八月二十日 十一時十一分 【DIT】本部
今日は【D53】出現予定日だ。
一報を待つ。
しかし国内では無かったようだ。
警戒態勢を解き、国外からの情報を待つ。
だが世界中の何処にも、ダンジョンが発生した気配がなかった。
ここまで一年間毎週欠かさず日本時間の木曜日午後十一時十一分に登場し続けたダンジョンは、現れなかった。
『【D3】コア、聞きたい事がある』
『なんなのじゃ?』
『今週のダンジョンが何処に現れたのか解らないのだが、何か理由があるんだろうか?』
『恐らくなのじゃが現れてないのじゃ。前の世界で討伐されてしまってじゃ、再設置も行われて無い状態であればじゃが、次の世界では現れない事も有るのじゃ』
「島長官【D47】六本木ダンジョンのスタンピードが、勢いがあり過ぎて現地が混乱しています。飛行系のモンスターが多く、周辺の防衛都市も危険状態です。指示を願います」
「周辺の防衛都市は、至急【D特区】に退避命令を出す。魔法職中心の迎撃部隊を現地に向かわせる。私も六本木に向かう」
六本木に到着すると、既に大量のモンスターにより街は、壊滅状態であった。
スタンピード自体は事前に解っていたので、人的被害は比較的少ないが、スタンピードの初期対応に向け、配置していた【PU】の部隊には、かなりの被害が出ている。
「西山中隊長の率いる第三中隊が壊滅し、中隊長も所在確認できておりません。現在第一、第二、第六の三個中隊で捜索及びモンスターの殲滅を続行中です」
◇◆◇◆
西山 翔
LV195
【DIT】所属 【PU】第三中隊中隊長
【D9】ダンジョンマスター
【スキル】フレアバースト所持
ランキング総合9位
藤崎 ジョージ 第11班長 LV180 ランキング 総合20位
速水 遊星 第12班長 LV179 ランキング 総合28位
石黒 龍二 第14班長 LV180 ランキング 総合25位
の各班長と共に八月二十日【D47】ダンジョンのスタンピード迎撃作戦において殉職。
第三中隊全体で三十名に及ぶ犠牲を出した。
◇◆◇◆
【DIT】第三中隊の壊滅が確認されると、順次各中隊も隊員を引上げさせ国内は第二段階の厳戒態勢に突入した。
国内各防衛都市は結界の起動を行い、転移門以外から一切の出入りが封じられた。
これにより、日本国内は【D特区】をハブタウンとして相互移動する以外の移動手段が無くなった。
各防衛都市、国内百二十箇所の結界維持や発電用の魔核調達を行う為に、魔核の買い取り額を100%アップにした事もあり、それから一週間で国内だけでも、探索者登録数が百万人を超えた。
更に各国も日本と同じ状態に陥ってきた為に、結界機能を擁した防衛都市は世界中に作られていく事になる。
その全てが、【D特区】をハブとして繋がる事になり、【D特区】が世界の中心と化した。
しかし、【IDCO】に未加入のまま独自の対策を、模索している国も存在している。
大きな犠牲を払いながらではあるが。
◇◆◇◆
八月二十一日 九時
昨日の第三中隊の壊滅を受け重く沈んだ本部内であったが、新たなる問題が沸き起こっていた。
【D9】内部最下層に西山中隊長が現れたとの報告が入ったのだ。
ダンジョンマスターの現実における死が、どういう事態になるのか、疑問に思われていた事実が解明される。
「【D9】内部に現れた西山中隊長とは、意思の疎通は可能なのか?」
「現時点で、確認が取れておりません」
「私が直接出向く、達也、坂内、東雲、鹿内は一緒に来てくれ」
◇◆◇◆
【D9】九層に到着した。
そこに西山中隊長は、ただ佇んでいた。
声を掛けても反応は無い、だが霊体などではなく、実体として存在している。
『どういうことだこれは…… おい、ゴザル。この事態はどういうことか解るか?』
『【D9】コアと融合を果たしておる。今はまだ意識が無いでござるが、徐々に覚醒する筈でござる』
『融合と覚醒はどういうことだ?』
『【D9】コアがダンジョンマスターであった西山殿の細胞を取り込み増殖して再生した状態でござる。要は、【D9】コアが西山殿の身体を使って顕現した状態でござるな』
『意識が覚醒した時は西山なのか? 【D9】コアなのか?』
『どちらの可能性もあるでござるが、恐らく【D9】コアでござる。マスターの意識で覚醒するには、高いマスターのレベルか複数コアの所持が条件となるでござる』
『その覚醒した西山は敵なのか? 味方なのか?』
『融合したマスターの意思を強く引き継ぐ場合が多いでござる』
「みんな聞いてくれ、今ゴザルに話し聞いてたが、この西山はダンジョンコアが作り出した西山とコアの融合体らしい。本人の意識が覚醒するらしいから、このまま連れて返って様子を見よう」
島が転移門を広げ、西山を連れて本部へ戻った。
『俺と達也は複数のコア持ってるから、もし死んだらダンジョンで体が再構築されて、自分の意思で復活するという認識であってるのか?』
『主が弱すぎると乗っ取るのじゃ。概ねあってるのじゃ』
『もし、もう一度やられた場合はどうなる?』
『主の場合【D5】コアにより再度の復活になるのじゃが、それまでに他のコアを獲得できていなかった場合は、【D5】の意識で復活するのじゃ』
『ダンジョンの目的は何なのだ、誰かの意思なのか?』
『権限が無いのじゃ、全てを知りたければ、最終コアと話せば解るのじゃ』
◇◆◇◆
八月二十四日 十三時
西山の身体を持つダンジョンコアが覚醒した。
主治医の村松から島へ連絡が入り、斉藤と二人で診療センターへ向かった。
「西山なのか? 【D9】コアなのか?」
「どちらでもある。私はマスターの意志を引き継ぎモンスターの殲滅をただ行うものである」
「記憶はあるのか?」
「マスターの記憶は引き継いでいない。意志のみを刻み込まれる」
「今の【D9】コアが再び倒されると、どうなるんだ?」
「ダンジョンと共に、ただ輪廻に戻るのみ」
「【D9】コアはどうしたい? 【DIT】で行動するのか?」
「敵対はせぬ。それがマスターの意志故に。だが自由に行動させよ。力を得なければならぬ」
「どうするんだ、ここを出て行くのか?」
「この世界に、湧き出ているモンスターを殲滅しながら力を蓄えたい、来るべき日に向けて」
「敵対をしないと言うなら、自由に行動する事を許可する」
そして西山は去っていった。
「良かったのか?」
「解らない、ただこうしなければならないと感じた。【D9】が特区内に存在するうちは無事だと言う事だろう」
「来るべき日とは何だろうな。ゴザルも教えてくれないし」
◇◆◇◆
俺の居た世界では年も明けた一月一日
次のダンジョンに到着した。
台湾の台北市に相当する場所に出現していた【D58】ダンジョンを一ヶ月。
二月三日から中国、香港に相当する場所に出現していた【D101】ダンジョンを三週間。
二月二十六日からインドネシア、ジャカルタに相当する場所に出現していた【D70】ダンジョンを六週間。
現在四月十五日である。
ナビちゃんのコアレベルは464まで上がってる。
ダンジョン討伐は、強さよりも階段出現条件次第で、攻略期間が変わる。
食料は定期的に藤吉郎の所に転移で移動し補充している。
日本は順調に藤吉郎の統治が進んで行ってるようだ。
レベルアップによって大きく上がった身体能力や、JOBによる特技は凄まじく、戦になる事も無く無血開城による支配範囲の拡大は、住民にも広く受け入れられているらしい。
「早く帰ってビール飲みてぇ」
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