第39話 新しい日常
八月十九日 八時
「東雲さん。おはようございます」
「ちゃんと眠れましたか?」
「あ、はい。ベッドがふかふかで凄い気持ちよく眠る事ができました」
「それは、ベッドを選んだメンバー達も喜ぶよきっと。今日は何か特別に用事があったりする?」
「別に無いですけど、お昼は友達とモンスターを狩りに行く予定です」
「翔君用の装備を一式用意しておいたから、後で確認しておいてね。使いやすいのを選んであげたから、きっと気に入ってくれると思うわ」
「ありがとうございます。超嬉しいです。あの、ここって友達連れて来たりしても大丈夫何ですか?」
「翔君の家だから、全然気にしなくても大丈夫だよ。今日は夕方から、長官とギルマスが翔君の顔を見たいって言ってたから、それまでには帰って来て欲しいかな」
「うわぁ国の大臣さん達と会うなんて、めちゃくちゃ緊張してしまいます」
「心配しなくても大丈夫だよ。二人とも堅苦しい所は無い人達だから」
今まで普通の高校生だったのが、余りの環境の変化にビックリする事の方が多過ぎて、俺これからどうなるんだろう?
流されちゃうしか無いのかな?
九時前になって、向井さんがやって来た。
「おはようございます。今日からよろしくお願いしますね」
「おはようございます向井さん。こちらこそよろしくお願いします」
「婆ちゃんでいいよ。翔君のお父さんも、私の事は婆ちゃんって呼んでたからね」
「見た目母さんより若いくらいの人に、婆ちゃんなんて呼べ無いですよ」
「嬉しい事言ってくれるねー、じゃあもっとエステに行って、翔君の彼女に見えるくらいに頑張ろうかねー」
「それちょっと怖いです」
「私は仕事に行って来ますね。向井さん。よろしくお願いします」
それから東雲さんの用意してくれた装備をチェックしてみた。
買ったらいくらするんだろこれ。
なんかメチャカッコいいし、省吾に自慢してやろう。
「向井さん。俺も出かけて来るね。家の事よろしくお願いします」
「行ってらっしゃい。狩をするなら気をつけてね」
俺は転移門を使って八幡防衛都市までやって来た。
転移門の側にある【DG】の買取所で省吾と待ち合わせている。
買取所に行くと何か今日は人に見られる。
何かおかしいのかな? この装備も全然変ではないと思うんだけど。
「ちょっといいですか? 君のその防具って理ブランドのR装備ですよね? 凄いなぁ本物始めてみました。一体いくらしたんですか? 本物なら今オークションで五百万円以上はするはずですよ」
知らない人にいきなり話しかけられて、俺の装備を見ていきなりなんかとんでもない事言い始めた。
「ええっ、これってそんな高級品なんですか? 一緒に住んでる人に用意してもらったから値段なんか全然解んなかったです」
「ちょっと武器も見せてもらえませんか?」
と、聞かれた所でやっと省吾が現れたので、すいません約束の時間があるのでと言ってその場から逃げた。
「省吾おせーぞ、何か知らない人に話しかけられて、めちゃ困ったじゃんかよー」
「なんて話しかけられたんだ? ……てか翔その装備ってもしかして理ブランドか? しかもR装備じゃんかよ」
「お前もかよ、そうやって話しかけられたんだ。これそんなに凄いのか?」
「探索者やってるやつならみんな欲しがるほどの、すげえ装備だよ。普通だとDITの班長クラス以上の人がつけてるくらいのな」
「何でそんなに詳しいんだ?」
「逆になんで知らないんだ。それって東雲さんが用意してくれたんだろ? やっぱ世界ランカーの人は違うよな」
「言われてから気付いたけど、理って俺の父さんの名前じゃん。って事はこれ父さんが作った装備なのかな?」
「話の流れからして、それで間違いなさそうだな。俺にもHQでいいから都合付けてくれよ。必ずお金ためて払うからさぁ、理ブランドは基本【DIT】内部でしか出回らないそうだから、手に入れるチャンスなんて滅多にないんだぞ」
「何がそんなに凄いんだ?」
「性能が段違いなんだよ、R装備でも、通常のSR品よりはるかに高性能なんだぜ。ステータスアップの付与効果とかあったりするし」
「それでか、どうも身体が軽く感じると思ったぜ。装備の事は東雲さんに聞いてみるよ。そろそろ狩りに行こうぜ!」
狩りをする為に防衛都市の外に出た。
ここで初めて武器をウエポンバッグから取り出したら「その刀ってさ雑誌で映ってた時の東雲さんが持ってたやつじゃないの?」
特徴のある分厚くて反りの少ない刀だった。
確かにそう言われればそんな気がする。
銘が入ってないしよくわかんないけどね。
「そうかもな、槍も入ってたぞ。これ今日は省吾が使ってみたらいいじゃん」
「いいのかよ? マジ嬉しいぜ。これで今日は目標のレベル5まで上げて、JOB取得だな!」
狩りは凄く順調に行って、昼過ぎには二人ともレベル5を達成した。
「今日さ、俺んち来て見ないか?」
「俺も行ってみたいと思ってた。いいのか?」
「東雲さんも自分の家なんだから、気にしなくて良いって言ってくれてたし大丈夫だ」
「それなら遠慮なく寄らせて貰うぜ」
ちょっと時間は早かったが、買取所でアイテムを納品して、家に帰る事にした。
今日は二時間ちょっとで、二人で二万円も稼げたぜ。
D特区の自宅に省吾を連れて行くと、口が半開きになって沈黙が続いた。
「どこまで旅立ってるんだ。早く現世に戻って来いよ」
「あ、あぁ、お前マジかこれ…… こんな所にあずさ様と一緒に住んでるとか反則過ぎるだろ。俺にもそんなチャンス巡って来ないかなぁ、てか翔はもうモンスター狩って小遣い稼ぎする必要無くねぇか?」
「それは違うぜ省吾。俺はさ、母さんと義父さんをモンスターに奪われた。この事実は何があっても変わらないし、俺は小倉の街を必ず取り返すって決めたんだ。それにはさ、強くなるための環境も必要だから、ここに居る事で目標に早く辿り着けるんじゃないかと思ってる。目標を遂げる為に利用できる事は、利用させて貰おうって打算だな」
「お前普段あんまり感情表に出したりしないけど、結構ちゃんと考えてんだな。まぁ俺はお前の連れだし、いいじゃん。小倉取り返すの付き合うぜ」
向井さんがお昼ご飯を作ってくれたので、省吾と一緒に食べた。
何か本当に久しぶりの家庭の味で、こんなご飯が毎日食べれる様になるとか、ちょっと前の俺から考えれば、信じられない幸せだ。
もうこの幸せを誰にも崩されたくない。
だから強くなる。
ご飯を食べ終わってから、省吾と装備の話をしてたら、向井さんがやってきてどんな武器を使うのか聞いてきた。
「今日からこれを使ってるんです」と言って刀と槍を見せる。
「いいの使ってるんだねぇ、私は昔薙刀やってて、これでも道場の師範代までなったんですよ」
と言って、槍を掴むとかっこよく振り回して構えて見せた。
すげぇ決まってる。
すると……
「師匠。俺に槍の使い方教えて下さい」と省吾が、がばっと頭を下げた。
「お仕事の合間でよかったら、ここで教えてあげるよ」と言われ……
「翔。俺時間ある時ここに通ってきてもいいか?」と聞いてきた。
「別にいいぞ、俺は刀使うんだけど刀の扱い方とかは向井さんは詳しいですか?」
「型を見てあげるくらいなら解るけど、もっといい人が居るじゃないの、東雲さんは刀に関しては世界一の実力者だそうですよ」
と、教えてくれた。
身近に居すぎて失念してたが、東雲さんやっぱ神だよな。
でも、向井さんも十分に凄かった。
レベルも俺たちの三倍だし基本が違う。
それから夕方までみっちりと、槍の基礎を教わった。
十八時を過ぎて向井さんが帰って行った。
省吾が「じゃぁそろそろ俺も帰ろうかな」と言ったが……
「今日だけもう少し居てくれないか、何か今日は人が来るみたいで、一人だと心細くてさ、頼むよ」と、省吾に頼みこんだ。
「しょうがねぇな、あんまり遅くなるようなら途中で帰るぞ」と言いながらも残ってくれる事になった。
十八時半になり、玄関が騒がしくなった。
東雲さんが「ただいま」と言って入ってきて、それに続くように総勢二十名ほどの人達が入ってきた。
びっくりして東雲さんに「何事ですか? こんな大人数で」と言うと……
「みんな一目、翔君を見ておきたいって着いて来ちゃった。騒がしくて御免ね、ちょっとみんなで夕飯の準備するから、リビングでゆっくりしててね」
女性陣がキッチンで手馴れた感じで準備を始めると、男の人達がそれぞれ挨拶してくれた。
みんな【DIT】の創設メンバーの人たちで、お父さんのファンだと言ってた。
料理の準備が出来る頃に、再び玄関に人が訪れた。
「こんばんわ、【DIT】長官の島です。初めまして、君が翔君か。会えるのを楽しみにしてたぞ」
「ぉ、確かに理に雰囲気似てるな。ギルドマスターの斉藤だ。よろしくな」
「は、初めまして、よ、よろしくお願いします」ちょっとどもった。
省吾は隣で固まっていた。
それから広いリビングでみんなで食事をし、俺が知らない父さんの話を色々聞かせてくれた。
やっと金縛りから開放された省吾も、なんとか付き合ってくれた。
「島長官もギルドマスターも、なんでそんなに俺を気にしてくれるんですか?」と聞くと、
「俺と颯太はな、理に十億づつ借金してるからな、利息代わりだ」
ブッと飲んでた紅茶を噴いた。
「十億づつですか? 凄い額ですね。こんな家があるからお金もちななんだろうなとは思ってたけど、十億とか聞いてもピンと来ないですよ」
「お父さんの総資産はな、今だと3兆円は越えてるぞ。居なくなって以降もお父さんの開発したアイテムを俺が複製して、今の世界は何とかやっていけてる状況だからな」
「ちょっと頭が付いて行かないです」省吾は再び固まっていた。
「まぁお金はこっちで勝手に周りの土地をどんどん買わせて貰ってるがな。興味があったら東雲にどれくらいの土地があるか教えてもらったらいいぞ」
「なにかあったら俺と達也を頼れ、お前は俺たちの息子と同じだ」
と言って貰えた。
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