第38話 帰りたいのに

 前の世界の日付では十月三十一日か。


 早く帰って、うまいビール飲みたいな。


『ナビちゃん。ちょっといいかな』

『いかがなさいましたか? 理様』


『このダンジョンは何番目なの?』

『【D61】でございます』


 結構大きな数字だった。

 早速討伐しちゃおう。

 強さ的には楽勝なはずだしねー。


 そう思ってた時期がありました……

 なんなのこのダンジョン。


 敵は決して強くない、敵を倒すと100%で階段が出現する。

 ここまではいい。


 だがここのダンジョンは、極端に敵の湧きが少なく、三十分に一匹くらいしか湧かない。


 階段に当たり外れがあって外れると、入り口まで戻るのだ。

 最初からやり直しになる。


 まぁ同じ階層は当たりの変化もないので、ちゃんと記録していけば、其の内最下層までは辿り着けるのだが、とにかく時間がかかる。

 一週間を費やして、やっと二十層だった。


 無理にこの時間がかかるダンジョンクリアするより、他のダンジョンに向かった方が早いかも知れないなーと思い始めた。


 俺のレベルだとドロップが出ないのもキツイ。

 よし、ちょっと食糧を仕入れに行って、国外のダンジョンに向かおう。


 そう思い、人のいる街を探す事にした。

 安土桃山時代の文化でも、米と醤油や味噌などはきっと手に入る筈だしな。


 この辺りだと、大阪方面に向かうのが良いかなと思いクルーザーで向かう。

 大阪に近づいた所でモンスターと戦ってる侍姿の一団と遭遇した。


 やっと人の姿を発見出来たな。

 と、思い様子を見てると全然力負けしてる。

 この国の人達ってもしかしたら、JOBの事とか理解出来てないのかも知れないな。


 しょうがないから助ける事にして、TBと雪と一緒にモンスターを倒した。

 お侍さん達のリーダー的な人にお礼を言われ少し話しを聞く事にした。


 名前は、木下藤吉郎さんだった。

 俺の居た世界では、後の豊臣秀吉さんの名前だな。


 この世界が同じ流れになるのかは解らないけど、小柄で猿顔の所も歴史小説なんかで描かれる姿に似てるよなーと思いながら話しを聞く。


「京都に変な洞窟が現れてから、この国は大きく変わってしもうた。

最初のうちは中に入りさえしなけりゃ、大丈夫じゃったから放っといたら、その内中から化けもんが溢れ出す様になってのう、都の人達はみんな襲われて食われてしもうた。

残った者たちは、命からがら大阪の町に逃げのびたんじゃ。

それでものう、今では大阪の町にもさっきみたいに化け物が襲って来るようになってのう、儂ら侍衆で何とか闘ってはおるがどうにも分が悪いんじゃ。

このままじゃ、ここも時期に住めなくなりそうじゃ。

おみゃあ様はさっきの戦い振りといい、あの化け物共を倒す術を持っておるんじゃろ? どうか力を貸してくれ。

今まで争ってばかり居た周りの国の連中も、今では化け物を倒す為に力を合わせて戦う様になった。

これで化け物が討伐出来ればきっといい国が作れる。

民、百姓が笑って暮らせる国が作れる良い機会なんじゃ、頼む、この通りじゃ」


 と言って頭を地面に擦り付けるように、見事な土下座をかましてくれた。


 あちゃー、俺これ断れないよ。

 目に入るもの、手の届く事、出来る事を放って置くのは自分で決めた生き方に反する。


 とんだ寄り道になっちゃうがしょうがない。


「木下さん、条件がある」

「どんな条件じゃ? 」


「うまい飯食わせろ! それで俺が、木下さん達が化け物達と戦えるだけの力を手に入れる方法を教える。これ以上化け物が出て来ない様にあの洞窟は討伐してやる。後は自分達で何とかしろ。さっき言ってたように、民、百姓と言われる人達が安心して暮らせる国を作ってくれ」


 あー言っちゃった。

 早く帰りたいのに……


 そして俺は、ご飯と味噌汁と漬物だけの食事を腹一杯食べさせて貰った。


 だがその間他のお侍さんや木下さんは食べてなかった。

 きっと自分達の食べる分、なけなしの食事を俺に食べさせてくれたのだろう。


 胸にグッとくるものがあった。


 そして俺は、まず大阪の町を木下さんに案内して貰った。

 近畿辺りの生存勢力は殆どがここに集まってるらしく、それでも町民を合わせて十万人にも満たないと言う事だ。


 俺はまずこの町を壁で囲む事にした。

【土木練成】を使い大阪一帯をD特区と同じようにぐるりと囲んだ。


 これだけで一週間かかった。

 その工事が終わる頃には、自然と木下さんを中心とした俺を担ぎ上げる勢力が出来上がっていた。

 これならダンジョン攻略後の統治も木下さんが問題なくやってくれるだろう。


 次は戦える勢力を引き連れて京都に向かう。

 総勢五千人規模で京都に上った。

 その道中で出会うモンスターは当然全て殲滅していく。


 そして、レベルアップやJOBの事を説明し、京都に着く頃には立派に三層程度までなら戦える軍団になっていた。


 ただ、JOBとかレベルなんていう言葉が存在しない国なので、職業、位階とかいう言葉で説明したのだが……


【JOBオープン】であれば【職業開示】

【ステータスオープン】であれば【能力開示】


 と言う具合だけど、この言葉でも問題なく機能が使えたのは新発見だった。

 そして、木下さん達には低階層で徹底的に鍛えてもらう事にして、俺はこのとてつもなく面倒くさいダンジョンを再攻略する事にした。

 

 毎日うまいご飯とうまい味噌汁だけは、律儀に用意してくれて俺はなんか頑張れた。


 木下さん達は当然狩をすれば、ドロップもあるので肉類を中心に食生活も改善され、大阪に向けて食糧支援なども始まっていた。


 転移門や収納バッグも使ってもらったので、輸送の手間も無く大阪の町も見る間に活気を取り戻していった。



 それから二ヶ月、十二月十五日にやっと【D61】の討伐は完了した。


 大阪の町の人達はとても暖かく、俺に残ってくれるように言って来たが、俺には他にも守らないといけない物があり、護らなくてはいけない人達が居る。


 その頃には木下さんはこの町の代表となっており、これから日本全国を開放して行き、一つに纏め上げ、この国の全ての民が笑顔で暮らせる世の中を作ると、事ある毎に口にするようになっていた。


 やっぱこの人秀吉さんだよな。

 と思いながら、俺は大阪の人々に別れを告げ次の目的地に旅立つ事にした。


 ◇◆◇◆ 


『ナビちゃん。ちょっといいかな』

『いかがなさいましたか? 理様』


『あのね、前に見たときよりもマップ上のダンジョンの数が少し減ってるような気がするけど、これって討伐されてるのかな?』

『素晴らしい質問でございます理様』


『ダンジョンの数が減ったのは、理様の世界において該当のダンジョンが討伐された結果でございます』

『そうなんだ。颯太たち元気に頑張ってるんだな。あれ? って事はさ、俺がこっちの世界でダンジョン討伐したら向こうの世界で該当ダンジョンはなくなるって事でOK?』


『その通りでございます』

『それじゃぁダンジョンはどんどん討伐して、少しでも颯太たちの手助けしてやんなきゃだね』


『そう言えばさ、無事に【D61】コアは融合できたの?』

『まだでございます。理様が一度も【D61】コアと会話もされてないので、少し拗ねていらっしゃいますので』


「げ……」


『【D61】コアいるかい?』

『ここにおりますわ』


『ほったらかしにして御免ね。俺に協力してほしい。【D1】コアと融合をしてくれ』

『かしこまりました。一つだけお願いをしても?』


『なんだい?』

『私に名前をいただけますか? それで心置きなく融合を果たせます』


『解ったよ、君の名前は『雅』でどうだい? 京都の美しさをイメージしたよ』

『ありがとうございますご主人様。雅は【D1】コアと融合致しますそれでは』


『【D61】コアと融合を果たしました。現在コアLV182でございます』


「さぁ次の目的地だ。隣の半島国家にマークが出てるからそこに向かうよ」


「了解にゃ」

「かしこまりー」


 TBと雪も元気よく返事をした。


 魔導クルーザーに乗り込み、次の目的地半島国家に出発した。

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