第35話 崩壊する世界
ダンジョン発生から五十二週が経過した現在八月十三日
ダンジョンを攻略できたのは【D19】までであった。
それ以降のダンジョンは討伐される事は無く、世界中で次々とスタンピードを発生させていく。
世界はモンスターが蔓延る世界へと変わった。
せめてもの救いは各国が早い段階で、ダンジョンからの資源の活用法を研究し、人類が生き抜いて行く事だけは出来ていた。
皮肉な事に現時点で世界で一番安全な場所は、世界で一番多くのダンジョンが集中する場所【D特区】内部である。
【D6】【D13】を除く【D1】から【D19】までのダンジョンは、全てこの特区内に集中している。
そこでは、今なおIDCOを通じて各国から戦力強化のための人員が送り込まれ、ある程度の対処が出来るれbるになるまで鍛え上げられた後に、国に戻り防衛活動をするサイクルが出来上がりつつあった。
スタンピードが始まりだした当初は、ダンジョンを壁で覆いモンスターの流出を防ぐ事が検討されていたが、現在となっては高い壁で囲まれた中で人類が暮らしていく状況となっていた。
その状況下であっても最低限のライフラインが維持されているのは、【DIT】による魔導発電機からの電力供給や、ポーション類の製造が行われているからに過ぎない。
各国に点在するダンジョンからは、スタンピードを起こした場合は、周囲のあふれ出たモンスターを狩る事で、スタンピード前のダンジョンに関しては、それぞれが適正な階層で狩をする事で資源を回収し、それを【D特区】へ持ち込み、魔導具の開発、生産へと活用するサイクルへとなっていた。
そのモンスター討伐を担うのは、ダンジョンギルド【DG】所属の探索者たちだ。
【DG】カードを持たない人は討伐をしても換金手段が無い為に、必然的に探索者は【DG】に登録をして活動する。
世界の流れとして国軍はダンジョン討伐のための組織、資源集めは主に探索者が行う事になってきている。
現在世界中で【DG】登録者数は十万人に及ぶ。
置かれた状況に変化が訪れた為に、当初行われていた講習は希望者のみへと変更され、カード発行だけでの受付が可能となったので、大幅に処理能力が向上している。
更に【D特区】内には、【IDCO】所属各国からの直通転移門が設置され、海外からの【DG】カード登録者もかなり増えてきた。
鹿内の担当していたダンジョンエステは、安全に最低限のレベル5まで上げてもらえる事もあり、探索者にも非常に人気の高いコンテンツとなっている。
世界の流れとしてダンジョンは討伐できれば、討伐者の所属する国へ帰属させる事も可能だと言う認識になっているが、現時点では【DIT】以外のダンジョン討伐は達成されていない。
当然【IDCO】を通じて協力関係を確立した国以外へは【DIT】からの出動も、討伐部隊の強化支援も行われないので、比較的容易に討伐できるはずの【D6】【D13】は手が付けられていない状況であった。
現在【D52】まで出現。
【D46】までがスタンピードを起こしている。
◇◆◇◆
「達也、そろそろ【D20】の討伐をやりたいと思う」
「四体目の中ボスがネックなんだよな。レベル三百キマイラか…… 強さ的にはいけるんだが、同時に頭部、尻尾、胴体の核をそれぞれ破壊しなければ、直ぐ再生しちまうからな」
「達也の【波動龍砲】のスキルレベルはいくつまで上がったんだ?」
「今で8だ、恐らく10まで上げればいけるとは思うが。ポイントで95必要だな」
「備蓄分のポイントボールを使って上げてしまおう。他の攻撃スキルを獲得している【PU】の各隊長たちも、スキルレベルを最大にしてもらい攻勢に出るぞ」
◇◆◇◆
現在自衛隊は各地の防衛都市の壁建設が主要任務になり、相川が指揮する【DIT】の【PU】に所属する人数も総勢三千名まで増えている。
上田の指揮する【DPD】に置いても防衛都市内に必ず【DPD】の支局が設置され、全国で五千名の局員を抱えている組織になっていた。
最前線の攻略班には、初期【DIT】の【PU】メンバーであった三十名
サポートチームのメンバーであった、東雲、坂内、鹿内それに島、斉藤、相川が加わる。
【IDCO】から派遣された各国のチームリーダー
アメリカ
グリンベレー出身 マイケル・ギルバート
イギリス
UKSF出身 ハリー・スミス
フランス
レジオン出身 アンリ・ゴダール
ドイツ
KSK出身 エッカルト・アッヘンバッハ
イタリア
CO・F・S出身 プラチド・シモーネ
インド
SCTU出身 ルドラ・バクシ
彼らは常に高い上昇志向を持ち、瞬く間にトップクラスのレベルを獲得するにいたっている。
各国のリーダーたちの中からステータス上位六名で1チームの編成となる。
始まりのダンジョンが出現してちょうど一年、八月十五日に【D20】は漸く討伐を果たされた。
これにより【D24】までの討伐はめどが立ったと言えるであろう。
◇◆◇◆
中国全域で猛威を奮い続ける【D6】ダンジョンだがここに来て状況の変化が訪れた。
【D52】ダンジョンは再び中国北京に現れたからだ。
指導部共産党もここに来て自国だけでの対応は不可能と判断し、日本国首相、大泉に対して救援要請を行った。
それに対して大泉は約束出来るのは【D6】の討伐のみである事。
【IDCO】に加盟する事を条件に出した。
【D52】の対策は自国で事前に準備してもらうためだ。
◇◆◇◆
八月十六日
CH-47チヌークに搭乗し、上海に向かった相川を作戦リーダーとする【PU】部隊は、周囲にあふれ出たモンスターを一掃しながら【D6】討伐を完了して帰還した。
街は完全に壊滅しており、復興までは長い歳月を要するであろう。
◇◆◇◆
八月十六日 十二時 福岡
「おーい翔、【DG】カードはもう取得できたんだろ? 一狩りいこうぜ!」
俺の友人、原田省吾が声を掛けてくる。
「まだ満足な装備も無いのに危険だろ?」
俺の名前は『松尾 翔』高校2年生だ。
両親は【D30】小倉ダンジョンのスタンピードに巻き込まれ亡くなった。
今は八幡防衛都市内で一人暮らしをしながら生活している。
国がダンジョン被害者や遺族に対して手厚く保障をしてくれるので、身寄りの無い俺でも高校生を続ける事が何とか出来ている。
俺の両親は再婚だったので、本当の親父はどこかで生きているのかもしれない。
今年の四月以降は全国の小、中学、高校では運動系の部活動はすべて廃止されている。
ダンジョンでのレベルアップと言う現象があるため、運動能力を競う事自体が無意味になったからだ。
逆に格闘系に関してはモンスターと戦うための護身術として大流行しているが、これは学校ではなく町の道場やスポーツジムが主流になっている。
ダンジョンギルドへの登録は十六歳以上で出来るようになり、カード登録費用の一万円は痛いが各防衛都市内に設置してある転移門から、【D特区】へは移動できるので交通費や時間的な負担は無い。
防衛都市には必ず転移門が設置してあるので、もし防衛都市がモンスターに襲われても【D特区】へ避難が出来る。
現状考えられる最大限の対策らしい。
そんな状況だが、今日俺はやっと【DG】カードを取得してダンジョン探索者への一歩を踏み出した。
現在ランキングは、十二万四千八百六十五位だ。
頑張ってせめて三桁順位くらいまでは行きたいよな。
話は戻る。
「武器とか防具って、あてはあるのか?」
「任せとけって、兄貴の使ってるのを借りてきたぜ。最初のうちは剣みたいな斬撃タイプの物より棒とかハンマーみたいな打撃タイプの方が使いやすいらしいぞ。防具は取り敢えずシールドだけだが、ダンジョン産以外の防具はスライムの溶解液で簡単に溶かされるから、普段着でも変わらないさ。防具は高いもんな」
そう言ってどう見ても金属バットと鍋のふたにしか見えないものを渡してきた。
「お前の持ってるのとなんか差が無いか?」
「変わんないって!」
「スライムからでも五分の一くらいで魔核が出るし、一個十ポイントだから千円で売れるからな。ポーションでも出てくれれば一本三万円だぞ」
「そりゃ頑張らなきゃな」
◇◆◇◆
八月十七日 九時 【DIT】本部
「間違いないのか?」
「以前から調査していた内容と合わせましても間違いありません。昨日【DG】に登録しに来たのは岩崎さんのお子さんですね」
「どうするのが、いいのかな?」
「お袋さんや、再婚相手も亡くなってんだろ。颯太が面倒見ればいいじゃねえか」
「達也でもいいだろ」
「俺は一応既婚者だぞ。嫁さんに痛くない腹探られるじゃねぇか」
「あのぉ…… 岩崎さんの家もそのままだし、私では駄目でしょうか?」
「いいのか東雲?」
「大丈夫…… だと思います」
「高校二年の男の頭の中なんて、女の裸の事しか考えてないぞ?」
「今の私を何とかできる男が居るなら、逆に喜んで捧げちゃいますよ」
「そりゃそうだな、攻撃力世界ランキング二位、実質トップだもんな」
「では早速コンタクトを取ってみます」
「頼んだ」
「もし理の順位がランキングカードから消えるような事があれば、実質個人では世界一の大富豪になる少年か。ひねくれてなきゃいいけどな」
「まぁなるようになるさ、青少年の教育は大人の義務だ」
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