第7話 D2討伐完了

 地上ではSATの隊員達によるミーティングが行われていた。

 まずは現れた魔物、スライム、ゴブリンを倒した決め手の確認だ。


「スライムに関しては、薄い水色の物体の中にある、ほんのり赤く光る部分を破壊する事で、霧に包まれて消滅で間違いないな」全員が肯定をする。

「次にスライムからの攻撃を受けた者の状況確認だ。C班の橘巡査長どうだ?」


「はい。粘液状の物をかけられ、ブーツ及びズボンが損傷致しました。強い酸のような感じで白煙が上がった為、すぐに脱衣することで身体への損傷は回避できました」

「そうか、おそらく最初の女性被害者はその粘液攻撃を直接素肌に浴びてしまった結果だろうな」


「身体が損壊するほどの攻撃だから、今後の探索に関しては、必ず全身二重の防護服を着用した上での行動とする」

「また入らなければならないのでしょうか?」


 つぶやく様に若手の隊員が口に出した。


「現状では警察庁の管轄での対応を行うように、上からの指示が出ているので、当然その可能性は高いとしか言えない」

「続けて二足歩行の魔物ゴブリンだ。こちらは武器を所持していた。五体の討伐を行ったが、頭部及び心臓部分が弱点のようだ。心臓部分にはスライムと同じような赤い核状のものも確認された」


「死体が残らないため研究材料が不足ですね」


「次に所謂ドロップ品と見られる物の存在だ」


「葉っぱのような物、瓶に入った赤い液状の物、錆びたナイフのような武器。この三点だが意見はあるか?」


 若い隊員が手を挙げ、発言を求めた。


「青木巡査発言しろ」

「自分的にこの状況は、ゲームやラノベと呼ばれる小説の、所謂ダンジョン物と呼ばれる分野の状況と全く同じだと考えます。そこから考えると、薬草、ポーション、ダンジョン産武器と言った物のドロップと見て間違いないと思います」


 ゲームやラノベに関わった事があると見られる半分以上の隊員が首肯をした。


「研究所に回す事で、成分などの調査をする必要があるな」


 先程の青木巡査が再び発言を求める。


「恐らくではありますが、調べても何の成果も上がらない筈です。現代医学では考えられないような、それこそ四肢欠損でも直してしまう効果のある物も今後現れる筈です。日本の法律で薬品として流通させることは、不可能に近いと思えますが、どうすることが正しいのでしょうか?」

「その判断は我々には行えない。公務として獲得することがある以上、すべて定められたルールの中での提出となる」


「しかしそれで確実に助かる命があったりすれば、その判断は必要としている方に死刑宣告を突きつけるのと同じ判断だと言えるのではないでしょうか?」

「それでもだ。我々は決められた枠組みの中での活動しか出来ないのだ」


「現状では取得した物質が何であるかを確認する術も無い。不確実な物を使用など出来るはずも無い」

「今後の流れの中で、より良い方向に向かえばいいな……」と締めくくった。


 ◇◆◇◆ 


 国会議事堂では臨時閣議が行われていた。

 それぞれの参加者が、それぞれの思惑で好き勝手な意見を述べていた。


 一番強気で発言していたのは、経済産業省の大臣で70代の老人である。


 内容的には自分の省庁への利益誘導。

 そのまま自分の息がかかった企業への利益誘致。

 イコール自分自身への見返りのみを求める発言だと、ここに居る誰が聞いても理解できる程度の内容だ。

 声高々に同じ発言を繰り返す。


 その他の閣僚も程度は違えど似たり寄ったりだ。

 一通り発言が終わった後で防衛大臣の斉藤が発言をした。


 渋谷に現れた『ダンジョン』と思われる場所に関しては、日本政府の直接保有地として存在理由、内部探索を徹底的に行う事。

 各省庁からの選りすぐりのメンバーを招集して、『内閣総理大臣直轄チーム』として今後の在り方を考える事が提案された。

 一瞬シーンと静まった中で、総理大臣の大泉が発言を始めた。


「私と致しましては、防衛大臣の意見を採択して決議としたいと考えます」


 そこで尚も食い下がる経済産業省の大臣が、先程と同じ様な自分個人への利益を優先させる発言を目を血走らせながら行った。


 そこで……


「内閣総理大臣である私『大泉 洋二郎』の決定事項として、経済通商産業大臣あなたを罷免します」


 その一言で全ては決まった。


 その後その他の大臣は発言することも無く、ぽっかり一つ空いた経済通商産業大臣の椅子を『明日は我が身』かもと、眺めていた。


 その間に防衛大臣と官房長官の主導で各省庁への通達が行われ、緊急対策チームが召集された。


 チームのメンバーとして選ばれる基準は、何故かRPG系のゲーム、ラノベと呼ばれる小説に興味があることが盛り込まれていた。


 ◇◆◇◆ 


 D2ダンジョンの中では、ようやく十二時間の時間を費やして三十匹の討伐を終えた理の姿があった。


「こんだけ時間かけて、ドロップも経験値も0って虚しいよねぇ」と、暢気のんきにつぶやきながら、出現した階段を下りていく。


 二十メートル程は降りたと思うが、降りきって振り返ると上り階段の入り口はあるが、上に伸びる階段は見当たらない。


「出たよぉ謎仕様。これはある意味凄いよねぇ。物理の法則はどこに行ったんだろ」


 二階層はどうやら森林エリアだ。

 

 強さ的にはどうだろう? 肌に感じる雰囲気では、D1ダンジョンで成長融合させた時の状況とほぼ近いかな。


 ここは、ほぼモンスターが沸ききっていた。


 角のあるつり目のウサギ型モンスター『一角うさぎ』

 半魚人のような人型のモンスター『サハギン』

 木に止まって上方から襲ってくるクワガタ型のモンスター『ワイルドスタッグ』


 の三種類を鑑定で確認した。


 一通り倒していく。


 サハギンが水魔法を使ってきた以外は、目新しい攻撃も無かったが、出現する敵のレベルは六から二十と幅広かった。


 六十匹程を倒した所でダンジョン中央部分に光の柱が現れた。


「恐らくボスだよね」


 と呟きながら光の柱を眺める。


 やっぱり『命大事に!』は基本だから久しぶり(と言っても二日だが)に上がったレベルの確認とステータスの調整を行うことにする。


 岩崎理 


 LV28 


 JOB 


【剣士】  LV14 

【シーフ】 LV14 

【黒魔術師】LV14


【鍛冶師】 LV6

【薬師】  LV5


 ポイント85


 HP330

 MP540

 攻撃力62

 守備力33

 敏捷性47

 精神力47

 知力33

 運73


 所持スキル 


【アイテムボックス】LV3

【鑑定】LV5

【転移】LV4 

【エスケープ】LV2


【身体強化】LV5

【回復】LV4

【錬金】LV4

【生活魔法】LV5


【メイク】LV1


 やっぱり素のステータスだと防御系弱すぎかな。

 防御上がりそうなJOBは今獲得できるのだと騎士か。

 でも身体強化と防具つけたら現状困らないし、どうするべきだろう。

 何よりポイント使うしね。


 装備のチェックもしておこう。


 武器【直刀R】     攻撃力+50 重量 10

   【極彩棍棒R】   攻撃力+100 重量100

   【麻痺匕首HQ】   攻撃力+30 重量 3  麻痺の効果


 防具【魔鋼の小手HQ】  防御力5 重量3

   【魔鋼の胸当てHQ】 防御力7 重量5

   【魔鋼の鉢金HQ】  防御力2 重量1

   【魔鋼の具足HQ】  防御力3 重量2

   【雷光の靴R】    防御力3 重量2 雷蹴


 こんな感じだ結構鍛冶頑張ってるんだよ。雷光の靴だけはドロップ品だ。


 各装備にある重量は、そのまま敏捷が-補正を受けてしまう。


 武器に関しては身体強化を行えば、棍棒を普通に振れるようになって来た。

 現状相手によって使い分ける感じだね。


 魔法に関しては黒魔術師が最初から使えたファイア

 以降JOBLV5でエアカッター

 JOB LV10でアイスボールを覚えた。

 次は15で覚えられるかな?


 次はステータス部分の考察で面白い現象があった。


 鍛冶師、薬師を獲得した当時ステータスには変化が無かったのだが、このJOBで伸びるパラメーターは無いのかなと意識して確認すると、次の瞬間、運の数値が動いたのだ。


 やはり意識すると言う行為が影響すると言うことだ。


 ステータスってさぁLV1の普通の人を鑑定で見ると、必ず全ての人が全ステータスで1なんだよね。

 それはプロレスラーのような人であっても変わらない。


 だから俺の攻撃力62とかは単純に俺がダンジョンに関わる前の状態から六十二倍になってるって計算なんだよね。

 もしプロレスラーの人が攻撃力62になった時は俺より倍以上強いはずだ。


 今となっては絶対値で計れる握力計とか普通に握りつぶせちゃうから、ちゃんと測定なんて出来ないけどね。


 今度機会があったら【メイク】で調整しながら体力測定してみようかな?

 百メートル走とかやばい数字が出そうだしね!

 今言ってみて気付いたことがある。


 早速聞いてみよう


『ナビちゃん。ちょっといいかな?』

『いかがなさいましたか? 理様』


『モンスター達のステータスって【鑑定】すると表示されるじゃん? そのときの数字って何が基準なの?』

『素晴らしい質問でございます理様。各ダンジョンでは必ず一階層に、スライムが出現いたします。スライムのLV1のステータスがオール1でございます。それを基準にその他のモンスターの数値が決まっているのです』


 まぁ恐らくそんな気がしてたんだけどさ。


 確認も終えたので、そろそろボス討伐に行こうかな。

 中央部分に向かい移動を始めると、光の柱の中に人型の姿が見えてきた。


【鑑定】

 D2マスター LV20

 HP400+400

 MP400+400


 攻撃力 40+40

 守備力 40+40

 敏捷性 40+37

 精神力 40+40

 知力  40+40

 運   40+40


 装備


 武器 マスターソード LV2  重量1 攻撃 +40 精神+40

 防具 マスターアーマーLV2  重量1 防御 +40 知力+40

    マスターブーツ LV2  重量1 敏捷 +40

    マスターリング LV2      運  +40


 結構いい感じのステータスだな装備にもレベルが存在するのか……


『ナビちゃん。ちょっといいかな?』

『いかがなさいましたか? 理様』


『マスターって常にこんな感じなの?』

『素晴らしい質問でございます理様。仰るとおりに討伐される前に存在するマスターは名称として、D1からD155のマスターとして存在しており、各ダンジョンレベルに併せたマスター装備を持っています。この装備は基本奪うことも、ドロップする事もございません。ただし固有能力等は各ダンジョンにおいて、独自の能力が発現します。稀にダンジョンの攻略者がマスターとして存在する場合もございます』


 そうかぁ【鑑定】で能力が出ていないから、このマスターにはなさそうだな。


 ん?


『ナビちゃん? 攻略者がマスターとして存在するってさ、他にもダンジョンがあるの?』

『この世界にはございません』


『それって他の世界があるっていう事?』

『今はお答えする権限がございません』


 んー…… なんか謎が深まったぜ。


 折角のダンジョンマスター戦だし、ステータスで押切って勝つ事もできそうだけど、ここは少し今後のための勉強をさせて貰おうかな。


 気になったのは常に装備しているはずの、マスター装備によるステータスアップ分が、態々別に表示されているって事だ。


 これは部位破壊的に装備を壊すことで弱体化できるって認識で間違いなさそうだから、攻撃は確実に装備を壊して行きながら、追い詰めて行くのが正攻法だろうな。


 それじゃぁ戦闘開始だ。

 まずは相手の認識の外からの攻撃


【エアカッター】

 頭部を狙って放ったが気付かれて腕部分でガードされた。

 でもノーダメージって訳じゃなさそうだな。


 D2ボスはこちらに向かって、明らかな敵意を持って駆け寄ってきた

 ソードを振りかぶって切り付けて来る。


 攻撃をかわしながらカウンター気味に、抜き胴の様な形で腹部を刀で斬りつける。


 『ガキーーーン』と言う音と共に火花が散る。


 アーマーに傷を入れる事ができたようだ。


 ここで一度距離をとり、素早く【鑑定】をかける。


 アーマーの守備力が半分ほどまで減っていた。

 それに対し本体へのダメージはまだなさそうだ。


 てかさ全身鎧だし普通に攻撃当てると鎧からダメージが入っていくだけなのかも。


 それとも内部に直接ダメージ入れる方法とか存在するのかな?


 ここで最近のお気に入り攻撃!

 D2マスターの頭上にアイテムボックスから直接、極採棍棒を出現させ、素早く発電で電気を纏わせ落とす。


 死角からの攻撃だ。

 それとほぼ同時にアイスボールを打ち出す。


 この魔法はボールと言う名前だが、ある程度は発動時のイメージで形状変化が可能だ。


 アイスボールに反応し避けようとした事で、頭上からの攻撃も直撃を避けられてしまった。


 わざわざ自分で死角からの攻撃の有利つぶしちゃったな。

 

 それぞれアイスボールは腕に当たり、棍棒は肩を掠めて地面に突き刺さった。

 棍棒に纏った電気がD2マスターの全身を包み込むような感じで放電した。


 再び【鑑定】


 D2マスターLV20


 HP350+80

 MP400+400


 攻撃力 40+40

 守備力 40+20

 敏捷性 40+37

 精神力 40+40

 知力  40+20

 運   40+40


 装備


 武器 マスターソード LV2  重量1 攻撃 +40 精神+40

 防具 マスターアーマーLV2  重量1 防御 +20 知力+20

    マスターブーツ LV2  重量1 敏捷 +40

    マスターリング LV2       運 +40



 電撃は確実に装備をかいくぐって本体へのダメージを与えたようだ。

 これなら今後の戦いに向けて作戦を立てていけるかなと、一人納得して身体強化全開でスパートをかける事にした。


 D2マスターはこちらの動きに対応しきれず、瞬く間にHPを削りきり黒い霧に包まれ消滅していった。


 次の瞬間視界は一瞬暗くなり、視界が戻ったと思った時には、渋谷のショッピングセンターの入り口の横に立っていた。


 周りを見回すと、先ほどまでダンジョンの入口が存在したであろう場所を、かなりの数の機動隊、野次馬で集まっていた一般人、報道機関であろう人たちが注目していた。


 しかしそこは、ロープで囲まれているだけの普通の地面が存在するだけであった。


 現在午前八時だ。


 D2に入ってから十六時間が経過していた。


 脳内に待ち望んだ声が響く「D2ダンジョンの討伐を確認しました。特典を選んでください」


 ナビちゃんの声とはちょっと印象の違う、若いかな? と思える声が聞こえた。

 

 この後の展開は大体予想できるので、取り敢えずこの場所から立ち去ることにした。

 装備を一瞬でアイテムボックスに収納し、ゆっくりと歩き最初の角を曲がった所で周囲を確認する。


 コンビニを見つけトイレに入ると、鍵はかけずにすぐに転移を唱えた。


 駅のそばの人目に付かない植え込みの裏側に転移を完了した。

 東京駅に着いてすぐに場所を登録して置いてよかった。


 後は必死で練習した、アイテムボックスからの直接の装備の着脱がやっぱり有用だ。


 D2の現場では確実に全ての人が、突然消失した入口に気を取られていたので、俺の存在に気付いた人は居なかったと思いたい。


 少し自信がないが……

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