第8話 【Dungeon Investigation Team】
駅に着いた俺はカフェに入り、放送されていたニュース番組に目を向ける。
D2の事を放送している。
突然現れ被害者を出し、また突然消えていった巨大な地下空間の謎を、所謂コメンテーターと呼ばれる人達が、何の根拠も無い理論で自信たっぷりに論じている。
なんだか滑稽だが一週間前までの俺なら間違いなく、この有名人や専門家と呼ばれる方たちの意見なら、無条件で受け入れていたと思う……
これが大衆心理なのかな?
◇◆◇◆
現場では機動隊に囲まれた中に、昨日潜入したSATのチームが集合していた。
誰にも状況は理解出来ないが、何もしない訳にはいかないので取り敢えず集合しているだけである。
現地における責任者である管理官からの指示を待つが、管理官自身も何を基準に判断すべきなのかが決められないので、本庁とのやり取りを電話で続けているだけだ。
首相官邸における内閣総理大臣執務室では、大泉、斉藤、島の三人がダンジョンの消失の一報を受け、対策協議のために集まっていた。
大泉が呟く。
「何も解らないままに消えてしまったな」
「このまま終わりになるとは到底思えません」と島が返答する。
その返答を受け大泉が決断する。
「そうだな。俺の意見も同じだ。昨晩の閣議で決まった方針及び計画はこのまま続行する。初動として動いた警察庁の中に対策チームを発足させ、各省庁の中から選抜したメンバーを本日一二○○時に集合させるように。現場の直接の舵取りは、颯太に任せる。当面必要になりそうな事は即断即決で、支出に関してはすべてを官房機密費で賄う事とする」
「了解しました総理。全力で任務に当たらせていただきます」
十二時を迎え、警察庁内に設けられた七十名ほどが座れる会議室で、各省庁から選抜された五十名程のメンバーが待構えていた。
各省庁からの思惑も背負わされているのだろう。
他の省庁からのメンバーとは目も合わせない。
メンバーは
キャリア組以外では、昨日出動したSATのメンバー十五名
防衛省からの陸上自衛隊レンジャー部隊から十五名が参加している。
十二時を三分ほど過ぎた頃、前方の入口が開き島官房長官が姿を現した。
そのまま正面に登壇すると、そこに居た全員が起立して注目をする。
号令がかからないと行動出来ないようなメンバーでは、このチームで到底やっていける訳が無い。
集まった全員を見回す様に眺め、声を発した。
「内閣官房長官の『島 颯太』です。本日付を持ちましてこのチームの責任者を兼任させて頂くことになりました」
参加しているメンバーは、一応内閣直轄の部署になるとは聞き及んでいたが、現役の閣僚が直接のチームリーダーになるとは想像もつかなかったので、ごくりと息を飲み込む音があちこちで聞こえた。
「総理からは、このチームでの執務を最優先にして行動しろと言われておりますので、これからは基本的に常にこの場所に居るものと思っていただいて結構です」
「皆さんの立場は、SATとレンジャーからのメンバー以外は、全員が私の直接の部下になり、中間管理職的な立場の役職は存在させません。SATとレンジャーのみなさんは、各三名の班長を決めさせて頂き、その三名は今までの階級に関わらず私の直接の部下となります」
「他省庁からの出向者との比較で考えて頂くと、班長は自衛隊組織に当てはめると二佐、警察組織に当てはめると警視相当の立場となります。SAT及びレンジャーの隊員に関しては、自衛隊組織に当てはめると2尉、警察組織では警部補相当の立場が保障されます。このメンバーに関しての命令権は、私とレンジャー及びSATの班長以外は有しません。ここまでで何か質問は御座いますか?」
挙手をしたのは二名。
一人はこの中では比較的年配な男性で、四十代の半ばから五十代にさしかかろうかと言う見た目であった。
かなりがっちりした精悍な顔つきである事が印象的だ。
もう一人は三十代にはなっていないであろう女性で、温和そうな見た目である。
まず男性のほうから指名をする。
「警察庁から参加しました上田です。階級は警視正です。私の立場からもSATからの参加メンバーに対しての直接命令はできないと言う認識で、間違いないのでしょうか?」
「その認識で間違いありません。後から発表させていただきますが、SAT、レンジャーという名称自体使用いたしません。上田さんに関しましては、様々な事態における警察庁との折衝が主任務であり、直接、部隊に対しての命令権は存在しません」
通常ありえない事態だが、上田にはこの状況を即座に理解し従う、柔軟性を持ち合わすだけの状況判断能力が備わっていた。
「了解しました」
その一言で任務を受け入れる。
そしてもう一人……
「総務省から参加させて頂いた音羽です。このチームと言われる組織の目的と立ち位置を、明確に表して頂けますか?」
「この組織の目的は昨日渋谷に突然現れ、本日早朝には消滅したダンジョンの解明をする事が主目的です。各省庁からの精鋭である皆さんであるならば、最短で原因の解明、また対処が可能だと信じています。また立ち位置としては、いかなる組織からの介入を受ける事もありません。外部からの要望等に関してはすべて一元的に私の元に集め、対応させていただきます。この組織に命令、指示を下せるのは、内閣総理大臣のみとなります」
「了解いたしました」
と、返事を返して音羽も着席した。
「挙手は二名だけでしたので先に進行します。まずはチーム名の発表です。実働部隊、サポート部隊を含め統一呼称として
【Dungeon Investigation Team】
通称【DIT】和訳で言うとダンジョン究明チームです。今現在の情勢では、活動規模がどうなって行くのかは予想も出来ませんが、まずは渋谷の現場の調査が仕事始めになります」
島が全員の顔を見渡しながら、話を続ける。
「このチームに加わっていただく為の選抜条件に、RPGゲーム、ライトノベルズといわれる分野に関しての造詣がある事。という条件が付いていた筈ですので、ダンジョンに関しての基礎知識は皆さんが、お持ちになられているものとして進めていきます」
参加者たちが頷く。
「早速ですが上田さん。ダンジョン発生の二十四時間前まで
「了解しました」
「続いて実働部隊のみなさんには、渋谷の現場に向かっていただきます。重機を使って、現場を一度掘り起こす手筈が既に整っていますので、十分な護衛体制を整え、装備はMP5を基本装備として向かって下さい。人物以外への発砲に関しては許可の必要はありません。現場の判断で行って下さい」
「「「了解」」」
◇◆◇◆
(H&K MP5は、ドイツのヘッケラー&コッホ(H&K)社が設計した短機関銃(SMG)。第二次世界大戦後に設計された短機関銃としては最も成功した製品の一つであり、命中精度の高さから、対テロ作戦部隊などでは標準的な装備となっている )
◇◆◇◆
事態は動き出した。
その後わずか一年足らずのうちに、DITを中心としたダンジョン討伐を目指す組織は、日本全国に及んで行き、探索者の育成や素材の収集、装備の開発等で、日本が世界を巻きこむ騒動になるとは、現時点では極一部の人間にしか予想できなかった。
◇◆◇◆
その極一部の人間、理は新幹線に乗って中部地方の地方都市にある、自宅に戻っていた。
「さぁちょっと時間かかっちゃったけど、人に見られる可能性考えると、やっぱり外出先では報酬とか受け取れないよね」
『D2ダンジョンのコンシェルジュさんっているのかな?』
『コンシェルジュ? 私はD2のダンジョンコアだよ』
ん? 何か違和感が……
『ナビちゃん。ちょっといいかな』
『いかがなさいましたか? 理様』
『D2ダンジョン攻略して話しかけたら、私はダンジョンコアだよ。って言われたんだけど、どういう事かな? もしかしてナビちゃんもダンジョンコアなの?』
『その通りで御座います理様。より丁寧に理様に接していきたいと考え、コンシェルジュと名乗りました』
『何そのイメージプレイ。私は普通にコアでいいよ』
『まぁいっかD2コアちゃんでいいのかな?』
『それでいいよ』
『早速討伐報酬をもらいたいんだけどいいかな?』
『もうD1討伐してたんなら、そのままスキル選べるだけだよ。オーブと違って討伐報酬の時は受け渡しが出来ないから、ご主人様? だけしか選べないけどね』
何か随分あっさりした感じだなぁ…… 最初の時は八個も選べたけど、今度は何個だろ?
『何個選べるのかな』
『どこのダンジョンでも一個って決まってるよ』
ぇ……
『ナビちゃん。ちょっといいかな』
『いかがなさいましたか? 理様』
『D2コアちゃんが、『討伐報酬はスキル一個って決まってる』って言ってるけど、ナビちゃんの時は八個も貰えたじゃん? 何が違うのかな』
『理様がD1の報酬を受けとられた際には、世界で始めてのダンジョン討伐での報酬が五個と、ネームドダンジョンの討伐報酬が二個で御座います」
『ネームドダンジョンって始まりのダンジョンって言ってたあれかな?』
『その通りで御座います理様。D1ダンジョン以外にも今後呼称の付いたダンジョンが現れる事がございます。その時は報酬も多くなります。D2コアさんが一個と決まっているとお伝えしたのは、ネームドダンジョンのコアと通常ダンジョンのコアでは、与えられている知識量に差があるからでございます』
そっかぁ一個だけなら、今は獲得するの少し待とうかな、他の人がダンジョンに入れる可能性もめっちゃ低いし。
それよりもD2をここに設置できるのかな?
『D2コアちゃん。ちょっといいかな』
『呼んだ? ご主人様』
何かナビちゃんとの温度差激しいなぁ……
『D2ダンジョンの設置はここの庭でも出来るのかな? 既にD1ダンジョンが設置してあるから広さで考えると、干渉しちゃうよね?』
『出来るよー。入口さえあれば中は別空間だからね。ただし、入口と入口が重なったりすると大変な事になるから気をつけてねー』
『解ったよ離れた場所に設置するね』
大変な事ってなんだろ? ちょっと怖いなと思いながらD2の設置を行うことにした。
【ゲートオープン】
D2ダンジョンの入口が作成されました。
マスターによるダンジョン設定を行ってください。
スタンピード ON OFF
モンスター出現数 0から200
出現間隔 六十秒から三千六百秒
同士討ち ON OFF
探索許可 許可制 フリー
よしナビちゃんが言ってた沸き時間の設定も確かにあるな。
スタンピードはOFFで。
出現数は各フロア百って事なら二百で。
出現間隔は三分くらいでいいか? 百八十秒で。
同士討ちはOFF。
許可は 許可制にしとこう。
誰か間違って入ったら大変だからな。
渋谷の事故見ちゃうと、ちょっと可哀相だよな。
それでは探索開始【アイテムボックス】から直接装備を装着して【身体強化】をかける。
沸き待ちをしながら階段が発生する方向に向かうと、そこには階段が既にあった。
一度発生条件をクリアするとずっと有効って事かな。
これって他の人にも有効なのかな?
『ナビちゃん。ちょっといいかな』
『いかがなさいましたか? 理様』
やっぱりこれだよ。
ナビちゃんとの会話のテンポが当たり前で、心地よくなっている俺だった。
『階段の出現条件を俺は満たしているから、階段が使えるみたいだけど、他の人には見えるの?』
『理様少し違います。理様が階段を使えるのは、ダンジョンマスターだからでございます。他の方の場合、許可制にして許可を与えられた方には、無条件で見えますが、フリー設定にして自由に入れる場合は、それぞれに許可条件を満たす必要がございます。条件を満たせる程度の実力がないと、下層階に降りた時に実力不足で行動が出来ない事態も考えられるので、出来れば条件をキチンとクリアした方のみの探索に限定する事をお勧めいたします』
『詳しく説明してくれてありがとう。参考にさせてもらうよ』
さて、二階層に行けるなら、一階層にとどまる意味は無いから早速降りよう。
一つ確認しておきたいな。
『D2コアちゃん。ちょっといいかな?』
『なによご主人様』
『ここで俺に経験値とドロップが手に入るのは何レベルくらいまでなのかな?』
『ここではレベル三十までの成長が出来るよ。ドロップも同じだよ』
やはりそれ位までなんだね、D3登場まで時間はあるから、ドロップ優先で運高めのステータス構成で頑張るか!
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