第6話 D2の出現
ダンジョン出現から数えて六日目
俺は日課の【D1】での狩りを行っていたが、もうこのダンジョンでは俺が経験値を獲得する事は難しい感じだ。
以前あったような同士討ちからの飽和状態を作り出しても、基本の経験値は素体からの倍率らしく、0にいくつをかけても、0だったと言う事だ。
経験値の減少に伴いドロップ率も低下しており、このダンジョンでの討伐活動は俺にとって、素振りをする事と同じ行為になってきた。
そうなると、やることも無いので街に出てみる。
今までは、基本ユ○クロしか私服は持っていなかったのだが、ダンジョンによるダイエット効果で、服のサイズも合わなくなった事もあり、私服を一式買い揃えた。
まだまだ暑い日が続くが、基本ダンジョン生活をおくる事になるから、キャンピング用品系のショップで頑丈そうな物をチョイスした。
それから俺は、日本全国に発生するダンジョンに向かうことを考えれば、ベースとなるのは車だろうと思い、今の十年落ちの軽自動車では厳しいと判断した。
そこで4WDのワゴン車、後部座席がフルフラットで寝れる感じ、のイメージで車を選ぶことにしたが……
結局予算的にも二百万円前後で考えていたので、
国産のワゴン車でディーゼルエンジンの物をチョイスした。
人気メーカーの車種で五年落ちで五万キロの走行であれば比較的綺麗な外観でもあり、十分なコストパフォーマンスを感じた。
納車まで一週間かからないとの事だったので、その点もプラスだ。
翌週の水曜日に納車をお願いして家に戻った。
◇◆◇◆
明日は木曜日、D2の出現する筈の日だ。
ダンジョンの出現自体は午前11時11分で間違いないだろうが、果たしてその出現に気付かれるタイミングはいつなのだろうか?
そしてどこに出現するのだろうか?
出来る事なら二階層の探索が一週間可能な状態にしたい。
レベルアップの為に、スキルの成長、武器防具の開発のために……
◇◆◇◆
そして翌日。
今現在、十一時を五分程過ぎたところだ。
おそらく速報ニュースが一番早く伝わるであろう某国営放送にチャンネルを合わせ、パソコンでも大手検索サイトのトップページを開いた状態にして、ダンジョン発生の一報を待ち構えている。
十一時十一分になった。
まだ何も情報はない。
十一時三十分、まだ普段通りの番組を放映している。
ネットにも何の動きも無い。
そのまま昼を過ぎた頃だった。
突然テレビの画面が切り替わり、東京渋谷のショッピングセンターの入り口の横に二メートルほどの穴が開いている状況が映し出された。
速報では現在穴の周辺では、ロープを張り、一般人が進入しないように警察が警備を始めた所のようであった。
突然穴が出現して、すぐ傍を歩いていた一般人二人が穴に落ちたようだ。
二人とも女性で年齢など詳しい事は解っていないらしい。
消防隊のレスキューらしき一団が到着し、穴の中に向かう様子が映し出されている。
レスキューって武器になるような物持ってるのかな?
と、少し的外れな心配をして画面に見入っていると、すぐにレスキューの一団が穴から戻ってきた。
背中に誰か担いでいる。
良かった無事に救助されたようだ。
しかしレスキューの一団は凄く焦ったように警備をしている。
警官に向かって、しきりに叫んでいるようだが、ここからでは何を言っているかも解らない。
二人目の救助者も担ぎ出されているようだが、凄くゆっくりと慎重に引き上げられている。
全体が見えたと思った瞬間、画面がスタジオ内に切り替わった。
俺の普通よりは優れた動体視力が、瞬間認識をした状態では、二人目の救助者には両足共に膝から下が無かった。
ここから渋谷へ向かうには、車よりも新幹線のほうが早いな。
いつでも出かけることが出来るように、必要な物は、すべてアイテムボックスの中に納まっている。
すぐに最寄の駅へ向かい渋谷を目指した。
途中スマホで情報収集した内容では、重傷者一人軽傷者一人としか表示されておらず、詳細は何も伝えられていない。
現在SATが現場に向かって対処を始めたようだ。
三時間をかけ俺は現場に到着した。
当然、周辺は機動隊が出動しており、ダンジョン内に入り込むのは無理そうだ……
ただし普通ならだ!
俺は周辺の野次馬たちから情報収集を始め、大体の現在までの流れを掴んだ。
重傷者の女性の状態は、千切れたと言うよりは溶かされたような症状であったらしい。
恐らくスライムの溶解液だろう。
もう一人のほうは外傷的には目立たなかったらしいが、ショックでガクガクと震えながら何かうわ言の様に叫んでいたらしい。
はっきりと自信を持っては言えないがと、注釈をつけられたが『モンスター』と聞こえたらしい。
間違いない…… D2はここだ。
『ナビちゃんちょっといいかな?』
『いかがなさいましたか? 理様』
『今D2に到着したんだけどさ、基本的に一階層は、D1と同じだよね?』
『間違い御座いません』
それなら問題ないと思い【シーフ】LV5で発現した特技【隠密】を発動する。
この技能は決して透明になったりする訳ではないのだが『そこに居る』と意識して視ない限りは認識できないのだ。
俺は堂々とダンジョンの入り口に向かって進んだ。
誰に止められる事無く進入した俺は、ダンジョン内を見回した。
似てるが違う。
D1よりも大幅に足場の悪い空間が広がっていた。
モンスターの姿は見えないが、SATのチームは確認できた。
五人編成ほどの団体が三箇所に散らばり行動していた。
【身体強化】を使い聞き耳を立てる。
「一体どうなっているんだ。渋谷にこれ程広い地下空間があるなど考えられない」
「地上との連絡も、まったく取ることができない」
他の若手であろう隊員からは……
「これってどう考えてもダンジョンですよね? 先ほどから倒した魔物? も携帯小説やゲームに登場する、スライムやゴブリンその物ですし」
「一度地上に戻って対応を協議したほうがいいな」と、リーダーらしき人物からの発言があり、速やかに撤収を始めた。
撤収中のリーダーのつぶやきが聞こえる。
「地上本部の許可を取る事無く、結構な数の実弾を発砲してしまった。何を言われるやら……」
俺は(公務員って大変なんだなぁ)と、少し可哀想に思いながらSATの部隊が撤収していくのを待った。
総勢十五人程の隊員が出て行く姿を【鑑定】をかけながら眺めていたが、誰一人レベル2にさえ達していなかった。
何故だ?
ダンジョン発生から六時間は経過している。
D1と同じ条件であれば一時間に十匹で六十匹以上のモンスターが沸いたはずだ。
ここには今現在…… あぁ沸いたな一匹だけ……
まぁまだ距離があるから放置でいいか。
仮に今まで沸いた六十匹を十五人で倒したとしても、一人辺り四匹。
十分にレベル2には上がれるはずだ。
ここはやっぱり……
『ナビちゃん。ちょっといいかな?』
某国民的人気アニメの猫型ロボットのような頼られ方だ。
『いかがなさないましたか? 理様』
『このダンジョンのモンスターの沸き方ってD1と同じではないの?』
『お答えいたします。まずD2では二階層まで御座いますので、どちらかのフロアに現れることが一点。次にD2ではモンスターの出現サイクルも設定出来るようになります。先ほどスライムが現れたので次のモンスターが出現するまでの時間がわかれば、大体設定時間もわかるはずです』
ふむふむ、まぁ大体予想通りの答えだったかな。
それじゃぁD2初討伐行って見ようか!
即効で先ほど現れたスライムに近づき、直刀で一閃、コアを破壊した。
黒い霧に包まれて消えて行く。
『ミッションクリアで御座います理様。世界で初めて【二つのダンジョンでモンスターを倒した者】ダンジョンポイントは10ポイントで御座います』
ぉ、これもシリーズが続きそうなミッションだな。
ドロップは無かった。
◇◆◇◆
その頃地上ではSATの隊長が、現場全体指揮の管理官にかなり厳しく問い詰められていた。
現場の判断で勝手な発砲を行ったことが主な内容だが、実際にダンジョンから戻って来た隊員達は……
(そこまで言うなら次は管理官自身が、銃火器を持たずに調査に行けばいいのに……)
と、言う気持ちで周りと目配せを行い、意見の一致を確認した。
◇◆◇◆
時を同じくして、首相官邸でも渋谷の事件に関して閣議が開かれようとしていた。
ここでは事態の重大さが、かなり間違った解釈をされているようだ。
集まってくる閣僚たちは、渋谷に巨大な地下街が出現した。
『国の所有物として土地を有効活用すれば、周辺の地価から算出しても巨大な財源として利用できる』と、早くも各省庁の主導権争いが行われようとしていた。
この状況を冷静に判断し、何かがおかしいと感じている人物は三人。
第百代目となる内閣総理大臣である『大泉 洋二郎』
現内閣の防衛大臣である『斉藤 達也』
現内閣の官房長官である『島 颯太』
の、三名だけであった。
閣議を前に事前にプライベートな形で、首相の執務室に集まった三名。
この三人は全員四十代前半であり、政治家としては若すぎるほどだ。
その年齢にして現状のポジションに辿り着いたのは、三人共、優れた人心掌握術を持ち、常に全力で国民の為に奔走する姿勢を自然な形で表現する
「明らかに異常な事態であり、超法規的な対策チームを早急に用意する必要性があります」
と、島が主張する。
それに対して慎重論を説くのは、斉藤と言う図式でミーティングは進む。
そろそろ閣議の時間も押し迫ってきたところで大泉が決断。
「今回は颯太の意見で行こうぜ!」
と、内閣総理大臣とは思えない口調で決断を下す。
「颯太の尻拭いって必ず俺に回ってくるから程々にな!」
と、こちらも先程までの激論が嘘のような爽やかな笑顔で……
「了解いたしました総理。全力で官房長官の計画に協力いたします」
「達也はさ、今回は代案を考えてなかっただろう。当然の結果だよ」
と、島が応える。
「しかしその前に国会の
と、大泉の声が若干トーンダウンさせて響く。
◇◆◇◆
再びD2の中では次のモンスターの出現を待っていた理が……
「やっと沸いたか」と呟く。
時間は二十四分だな。
って事は六時間で一層に出現したモンスターはおよそ十五匹。
(一人当たり一匹の討伐ではレベルが上がらないのも無理はないか)
と、納得していた。
そこでまた疑問が……
『ナビちゃん。ちょっといいかな?』
『いかがなさいましたか? 理様』
『あのさぁダンジョンの中での
『それは認識で御座います。パーティリーダーの立場の人間がメンバーを指定し、それをメンバーの立場の人間が受容れると感情を表すことで自動でパーティが組まれます』
『すっげぇ謎システムだねー』
『個人の意思と大衆の意思で成り立っていますので、当然で御座いますよ理様。次にパーティでの経験値ですが、パーティ内で討伐が行われた場合常に均等で振り分けられます。レベル差が存在した場合は、そのレベルに応じた掛け率がそれぞれ個人の獲得経験値に対して乗算されます』
『ドロップに関しては、そのまま拾った人のものが基本でございます』
『当然社会ルール的に、他人が倒したドロップ品を勝手に持って行ったりすれば、争い事は起こると思われます』
『最後に討伐報酬ですが、パーティで倒した場合でも、もしくは複数パーティが合同で倒した場合でも、一番与えたダメージが多かったパーティのリーダーに報酬が与えられます』
『んー…… まさに謎システムのオンパレードだねぇ』
『個人の意思と大衆の意思ですから』
ざっと見回したけど二層に下りる階段が見当たらない。
出現条件でもあるのかな? もしくは秘密のスイッチとか。
『ナビちゃんわかる?』
『出現条件はダンジョンによって様々ですが、理様の獲得されている鑑定を各フロアの中心地点で行えば解ります。当然鑑定レベルによる上限はございますが』
『それってさぁ鑑定が世界に一つしか無いのなら、俺しか解らないって事なの?』
『シーフなど盗賊系の技能で発現する、ダンジョン攻略に特化した物がございますので、他の方でも可能性はございます』
早速中心部分に行って鑑定をしてみた。
脳裏にイメージが浮かぶ。
このダンジョンの下層階への行き方は、モンスター三十匹の討伐だった。
二十四分に一匹の沸きでは時間かかるなぁ。
気長にやるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます