52人目の客人


「お邪魔します」

 静かに入ってきた男は、堂々とした足取りで入ってきた。


「こんにちは。紅茶を用意致しましょう」


 その人は肯くと、椅子へと腰を下ろす。


「今日はどうなされたのですか?」

 僕が聞くと、男は肩を竦めた。


「なんだかわからないが、ここにいたのです。なにがなにやら」

 呆れたように首を振ると、男は外を眺める。

 ガタガタと音を打ち鳴らす窓を、居心地が良さそうに眺めていた。


「どうぞ」


 カップを置くと、外を見たまま男は礼を言う。

「外に何か?」

 男ははっとしたように僕の方を見ると、罰が悪そうに、人懐っこく笑ってみせる。


「いえ、すごい風だな、と思いまして」

 そうですね、と微笑んでやると、男も真似をした。


「なぜこんな場所に住んでいるのです?奥方などいらっしゃらないのですか?」

 少し僕は不機嫌に顔を歪めてしまうが、ギリギリ愛想笑いに見える程度に踏み止まった。

「僕はここが居心地いいのです。あなたのような人もいらっしゃるので意外と交流も出来ますし。

 奥は、残念ながら持てる器量などありませんので」


「誰でも堂々として、男らしくあれば持てるでしょうに」

 室内をじろじろと無遠慮に眺めまわして、男はまた口を開き、毒を吐く。

「お仕事は何をされているので?」


 僕がじっと男を見咎めていると、男はその沈黙をなんと勘違いしたのか、距離感を見誤ってまた口を開く。

「私は自営をしているので、休みなどありませんで、あなたが羨ましいです。今日も本当はすぐに帰って皆に指示を出してやらなければならないのですが」

「あなたに選ばれた皆様なのですから、きっと大丈夫ですよ」

 僕がそう言うと、男は下を向いてしまう。


「そうであればいいのですが……皆いかんせん足りないところが多すぎて。誰も彼も根性がなくていけません」

 顔を赤く染めるが、それは僕に褒められたからか、現場が心配でたまらないのか、足りない社員たちを思い出したからなのか、はてさてどうなのか。

 僕が思案していると、不安が勝ったのか、男はさっと紅茶を飲み干して、頭を下げる。

「ご馳走様です。そろそろ行かなくては」



 男が立ち上がると共に、僕ともう1人の声が、男の耳に届く。

「どこへ?」



 お師匠様が男の後ろに降り立った。

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