??人目の客人c

「すみません。少しだけ雨宿りさせてもらえないでしょうか?」

 

 そう言って入ってきた男は、疲れた顔をしており、何かから逃げているような、それとも追いかけて欲しいと思っているような、不思議な顔をしていた。


 僕が了承すると、ほっとしたように強張った身体を脱力させる。


「紅茶でもいかがです?」

 そう言うと、男性はあからさま過ぎるほど喜んで、自分は紅茶が好きだとアピールし始めた。


 この人は、誰とでもすぐに仲良く出来る人だな、と思いつつ、奥で準備を進める。


「何があったのか、聞かないんですね」

 紅茶を出すと、男性は僕の顔を見ようするように覗き込んで言った。


「聞いて欲しいのであれば聞きますよ」

 その答えが気に入ったのか、男は気楽そうにしながら、世間話を始める。


 今は何が綺麗だ、タレントの誰々が好きだ、このメーカーの製品が良くできている、だの、まるで自慢話のように話し続ける男に、僕は少し顔をしかめる。


「全部あなたがやったことなのですか?」


 男は途端に怪訝そうな顔をして言った。

「そんなわけないでしょう」


「そうですか」

 僕は驚いてみせる。男の表情を観察しながら。


「あまりに自慢話めいていたのでつい」

 男の顔が赤に染まり、僕に迫ってきた。


「俺は普通だ。お前らがおかしいんだろう」


「そうかもしれませんね」


 苛つきを抑えつつ、笑顔で応じてやると、少し負の感情が漏れていたのか、男は数歩後ずさった。


「おや、申し訳ない」


 敵意を剥き出しにして唸るその男は、何かから身を守る野生動物のようだった。


「どうぞ」

 僕がお詫びの印としてお菓子を出してやると、渋々とそれを受け入れて、口に放り込む。


「あなたは、1番何がしたいのですか?」


 そう問うと、男は固まった。

 困ったような顔を向けられたが、僕の知ったこっちゃないとそっぽを向いてやる。


「……ありがとうございました。もう帰らなくては」


 僕はにこやかに笑った表情のまま、呟くように、揶揄からかうように言う。


「どこへ?」


 激昂して向かってくる彼の拳をその力も利用して手でいなし、僕はにっこりと笑顔を貼り付けてやる。


 チッと舌打ちしながら、イライラと男は去っていった。


 それでも、森の中からは、恐怖の匂いが漂っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る