??人目の客人b

「ここに男が来なかったか!?」

 慌てた様子で飛び込んできた大男に、僕は正直に首を振ってみせる。


「そうか……」

 そう言って外へ飛び出そうとする男性の目の前に立つ。


「!?」

 驚く男性は無視して、僕は自分の用事を話す。


「紅茶くらい頂いていってくれませんか?」


 男は少しだけ考えて、イエスといった。


「どうぞ」

 男に差し出すと、太い指が綺麗に動き、優美に音を立てずに飲んでみせた。

 美味しそうに飲み込む男に好感を持ち、少しだけ手伝いをする。


「女性ならばいらっしゃいましたよ?」


 途端、ショックを受けたように立ちすくむ男。仰向けになってしまった椅子を気にするのは僕だけだった。


「あの子が来てるのか?」

 僕に聞く男に、僕は丁寧に答える。


「あなたが言う、あの子、なのかは分かりませんが、お一人でいらっしゃいました」


 途端に渋い顔になった男は、落ち着かない様子で綺麗な菓子を食べる。


 僕は紅茶にミルクを加え、くるくるとかき回した。


「どうなさいました?」


 男は渋い顔で話し出す。

「俺は、あの子達を見つけなくちゃならないんだ。どうにも付き纏われて困っているらしいからな。なんでこんなことに……」


 そういって頭を抱えてしまう男の姿もあまりに様になっていて、僕は思わず余計な手間をかけてしまう。


「あなたが心配しているのは、どういう事なのですか?」


「そんなのもちろん……!」


 言いかけて、言葉が出なかったらしく、呆然と僕を見ていた男は、少し小さくなったように見えた。


「見つけるのはゆっくりでいいんじゃないですか?」

 僕の口から、悪魔の囁きがもれる。


 首をブンブン振って振り払わんとする男性が、あまりにいじらしく、僕はまた意地悪をしてしまう。


「ここでみんな一緒に、何も見ないフリをして、遊び暮らしませんか?」


 素敵な提案を投げかけた。それなのに、男は無理やり首を振って僕の言葉を振り払い、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


 僕は長いため息をつく。この人も僕の物にはなってくれなそうだ。


 扉を開けて、男の手伝いをする。

「どうぞ」


 男は安心したように息をつき、ふらふらと扉から出て行く。


 森の中へ入った男は、この先どうなるのでしょうね。


 僕がクスクスと笑うと、呼応したように狼が遠吠えを始めた。

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