??人目の客人a

「こんにちは」

 黒い髪で顔を隠すように入ってきた女性に、そう声をかけると、緊張のあまりその方は固まってしまった。


 どうしたのでしょうか、そんなに緊張して。


 僕が目を見て判断しようと覗き込むと、とたんに髪を顔に這わせて、視線を削いだ。


「あのっ……!」


 僕は気長に口を開きかけまた彼女を待つ。


「この辺りで、男性を見かけませんでしたか?」


 僕が残念そうに首を振ってやると、その女性は今にもため息をつきそうな顔になった。


「少々お待ち下さい。紅茶を淹れてきますね」

 僕がそう言ってすっと奥に消えると、あたふたとした女性は、なんとか椅子に座った。


「どうぞ」


 カップを目の前に置いてやると、女性は紅茶を一気に飲み干し、幸せそうなため息をもらした。


「あなたは、その男性をどうして探しているのですか?」


「……探しているわけじゃないんです。あの人は私を見つけ出す」


 絶対に、と言って、女性は下を向いてしまう。


「大丈夫ですか?」


 そう聞いてやると、スラリと女性は美しい目をこちらへ向けてくれた。


「そう見えますか?」

「いいえ?」


 僕が即答すると、女性は少し苦い顔で笑ってみせた。


「やっと笑ってくれましたね」


 女性は今にも泣きそうな目で、はっと僕を見つめた。


「ありがとうございます」

 言いながら、カップを僕の方へ寄せて、ミルクや砂糖を奥へ持っていこうとする。


「僕の仕事なので、そこまでしてくださらなくても大丈夫ですよ」


 女性は今にも泣きそうな顔になる。


「大丈夫ですよ」

 僕が安心させようと笑みを浮かべると、彼女はそれに比例してどんどん顔を歪めていく。


「……あの人はどこにいるのでしょう」

 落ち着かない口調と動作でオロオロしている女性を落ち着かせるのは少し骨が折れた。


「大丈夫ですよ」

と何度も何度も声をかけ続け、女性は徐々に落ち着きを生み出していった。


「ありがとうございました」

 丁寧に、流麗にそれを言った女性は、入ってきたときと同じような体勢で、森へ消えていった。

 心なしか、猫背が少しマシになった気がして、僕は少し笑った。

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