36人目の客人
「あの!!どなたかいらっしゃいませんか!?」
ドンドンと小気味よく叩かれる扉を僕が開けてやると、煌びやかな装束を着た女性が扉の前に立っていた。
右手でノックしたであろう体勢になっていて、それで左手は懐に添えられていた。
「紅茶を淹れますので、あがって行きませんか?」
そう僕が言うと、緊張を解いた彼女はのんびりと小屋の中に入る。
僕が準備していると、彼女はソワソワと部屋の中を見渡していた。
「どうぞ」
カップを滑らせると、女性は上品ではあるギリギリの境を辿った。要するに、勢いよく紅茶を口に含んだ。
僕が少し驚いてみていると、女性はふわりと恥ずかしそうに微笑んだ。
「すみません。予定が大幅にズレた上に迷子になってしまって」
僕は無言でじっと女性の黒い目を見つめる。それを了承と捉えた女性は、静かにゆっくりと喋りだした。
「私はこの森に迷い込んだであろう子供の母親です……朝起きたらメイド1人と娘がいなくなっていて、娘が寝ていたであろうベッドは荒れていました。恐らくメイドに力尽くで連れ去られたのだろうと思って、私は急いでここに探しに来た次第なのです」
僕はじっと聞いて、純粋すぎる感想を述べる。
「ではあなたは何故そんな豪華な服装をしてらっしゃるのですか?」
女の目つきがガラリと変わる。
「女にとって、服装は大事なものなのよ。どうしてそんな冷徹な事が言えるの?私が子供を可愛がってないとでも?」
僕は不思議に思い、首を傾げる。
「そんな事僕は言ってませんよ?何故そんなことを言う必要があるのです?」
女は顔を真っ赤なリンゴのように膨れあがった。
「精一杯の紅茶、ご馳走様でした。こんなところ、2度とごめんですわ」
そう吐き捨て、扉へと突撃した女に、僕は声をかける。
「お大事に」
女はパッと振り返った。憤怒を顔に浮かべて、僕に向かって叫ぶ。
「あなたも私が病気だと言うの!?」
すごい剣幕で怒鳴る女を真っ直ぐに冷静に見つめ、僕は口を開く。
「僕は、娘さんに言ったつもりだったのですが……」
紛らわしいことをして申し訳ない、と謝ると、女の顔に何故か迷いが浮かぶ。
「またのお越しをお待ちしております」
そう言いながら僕は扉へと歩いて、開いて押し付ける。
女は、何かに怯えるかのようにキョロキョロ森の中を見渡し、去っていった。
僕は雨が降っている中、窓を全開に開け放つ。
女のキツい香りを外に吐き出し始める風を心の中で称賛し、僕は次の客人に備えて準備を始めた。
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