37人目の来客

「こんにちは!良い子にしてたかな?」


 僕はうんざりと旧友の姿を振り返る。

「とりあえず、扉を閉めてくれないか?寒くてたまらない」


 クスクスと馬鹿にするように笑いながら、彼はすすっとなるべく音を減らして閉めた。


「で?今日はどうだったんだ?」

 彼はピンとこなかったらしく、不思議そうな顔をしている。


「噂話、聞いてきたから来たんだろう?」

 ああ、と友人は予想通りの答えを返したと思うと、すぐに切り返した。


「ただ君の様子を見に来ただけだよ。元気かな、と思ってね」

 僕が驚いて、彼をみると、少し苦しそうに笑っていた。


「……大丈夫か?」


 僕の顔を見ていた彼は、仮面を外す。

「騙されちゃダメじゃないか。君は、僕の収集品コレクションなんだから。


 少し上を向いて、埃のかぶったシャンデリアを眺める。


「ここも、そろそろ終いかな……」

 心底残念そうに言ってのける。僕は、ただじっと彼を見つめる。


「死なんて怖くない、って顔してるね」

 パッとシャンデリアから僕に視線を変えて、彼は椅子に腰掛ける。



「ふぎゃっ」

 何やらおかしい音が聞こえてきた気がして、僕が条件反射で振り返ると、彼は壊れた椅子の残骸の上に女の子座りをしていた。


「ふっ」

 吹き出しそうになって慌てて口を塞ぐと、彼の声が耳元で聞こえた。


「僕のこと、バカにしたね?」

 後ろの彼から力がかかり、僕は思わず膝をつく。素早く振り返って、銃口を向けると、彼は僕の上を軽々飛び越え、持っていた、いかにも貴族、という杖を僕に叩きつけた。

「……っ!」

 身体中が悲鳴を上げるような強い打撃に、僕は息を奪われたかのようにむせる。


 彼は、何事もなかったかのように椅子の残骸を杖でコンコンっと軽く叩く。途端に時計を巻き戻すように、椅子は新品同様の様になった。


「今日の噂、話していいかな?」

 大きな目を細長くして、妖艶に、陽炎に唱える彼。僕は仕方なしに頷く。


「今日の話は、子供と母親、それからメイドに関する話。子供を心配するそぶりを見せる母親とメイド、彼らからは何か感じ取れたかい?」


 僕は彼の機嫌を取るように、心の嘘を言ってやる。


「メイドが息子の金を狙っての犯行だと思った」


 すると、案の定彼は大爆笑してみせる。涙を拭いて彼は言う。


「いやあ、君の嘘は本当に面白いし美味しいねぇ」


 僕は必死に驚きを胸に仕舞い込む。


「じゃあ君も持ってる正解を見せようか。息子を苦しめていたのは、母親だ。

 彼女は、父親が息子を想って残したお金を狙っていた。それでつけた保険金にも目を向けた。

 メイドはそれに気がつき、彼を厳しくしつけた。いざとなったらより遠くまで逃げ出して、その後も上手くやっていけるように。案の定、殺されると認識した彼はある森まで逃げ出して、まだ逃げている最中らしいけど……」


 わざと僕を揶揄うように、口を歪めて、彼は言う。


「この小屋に、誰か来たのかな?」


「いや、誰も」

 僕はカップを拭きながら言ってける。


 彼はクスクスと意地悪く笑って、ぴょんと扉まで跳ねる。


「じゃあ、また来るよ。僕の友人さん」


「またのお越しをお待ちしております」


 僕は本心ではない心を表に出して、笑った。

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