30人目の客人

 僕は森のほうを向いていて。何気なく、外へと手を伸ばした。すると、窓から男が顔を出した。


「こんばんは。紅茶を淹れてくるので。少々お待ちください」


 その男はジッと喋りもしない有様だった。ドアから入らなかったのは、その図体で壁

を破壊するかも、という懸念を持ったからかもしれませんね。


「その腕、どうなされたのです?」

 僕から最初に質問をぶつけるのは久しぶりだな、と少し笑った。


 男は、答えても良いものか、そばにいる何者かをジッと見つめて、答えをもらっているようだった。

「失礼した」

 僕は少し残念に思えて、それでも、引き止める事なんてしなかった。

「……?」


 男の顔が凄まじい獣のような姿に変貌した。ギロリと、人間を殺した人が出す嫌な香りは、たちまち小屋の中を真っ白くした。


「どうかなさいましたか?」


 僕の目を見て、ずーっと見つめて、先ほどと同じ質問を繰り返す。ただし、今度は、僕の襟を掴んで、軽々と持ち上げ、目線を無理やり合わせた。


「どうか……な……さいました……か?」


 男はふっと一息もらすと、疲れていったのか、今にも、冷たい大理石をベットにして、寝てしまいそうだったので、僕は慌てて、彼を起こす、魔法の言葉を唱える。


「奥様は、このことを知っているのですか?」


 男がばっと身を引く。先程の殺気と比べると、あっさり殺せてしまう赤ん坊かの如く、力が抜けていた。


「… …女房は知らないはずだ」


「はず、とはどういうことなのでしょうね?」


 僕はあえて、男を挑発してみると、案の定、男はのってきた。


「俺は……!!」


 そこで言葉を詰まらせる。一呼吸後に音を立てて身を丸め、紅茶を吐きだす。


「おい……テメェ、俺に何した?」


 大きい声では無いものの、十分すぎる威圧を吐き出させる。


「? いえ、何も」


 掴みかかってくる男にデジャブを抱いて、僕は衝撃に備える。

 だが、先ほどのような威力もなく、まあそこまでは計算の内だ。



「満足していただけましたか……?」


 僕は男に仰向けに叩きつけられ、男の殺気を全身に受けていた。身体中にあざが残るだろう。


(まあ、あいつに比べたらこんなのどうということもない)


 男はハッとすると、僕の血の付いた、握り拳を見つめ、思い切りよく自分の方へ向け、殴り付けようとした。


「はっ!?」

 男が静かな怒り、殺気は感じ取っていた。僕には関係無いんだが、何となく、助けてしまいたくなった。それには、恐らく手刀一つで出来る。



「お前……すまん。恩に着る」







「あの、あなたは生きていたいのですか?それとも死にたいのですか?」


 男は自分ではコントロール出来ない、とでもいうように、頭をぶんぶん振る。水が隣の僕にはねた。


「あの……」


 僕が顔を指差して伝えると、男はビックリしてそれを自分の袖で乱暴に拭った。


 僕がちょっと困ったような、それとも父と会う時の息子がもらう甘い気持ちのような、そのような様々なものが出たり入ったりする。


 彼は息子と母を探すから、と言って帰っていってしまった。このままだっていいのにね…

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