23人目の客人

「こんにちばっ…!」


 転びながら転がり込んできたのは、ワイシャツを大変地味に着こなした、教師のような人物。

 丸メガネの奥に、庇護役の掻き立てられそうな垂れ目が覗く。

 長いたっぷりとした髪。一つに引っ詰めて結んでいる頭を掻いて笑うその姿は、まさに絵に描いたかのような善良だった。

 金髪に黒い瞳を携えたその人は、前々に来たその子によく似ていた。


「こんにちは」


 僕がにこりと笑うと、その女性は続ける。


「男性が来なかったかしら!?私の弟子達が2人とも居なくなっちゃったのよ!」



「見ていませんねえ」



 僕が赤い目を向けて、顎に手を置いて呟くと、その女性は急いで機能的なポシェットから写真を取り出して、僕に強引に握らせる。


 姿と似ないその行動に、少し虚をつかれる。


「この2人なの。見つけたらこの小屋にいるように言ってくれないかしら?」


 じゃあ、と返事も聞かずに去ろうとする女性の手を、握り返して止める。



「何があったのか、聞かせていただけませんか?紅茶を煎れさせていただきますので」



 妖しく笑ってやると、その人は椅子に座り込んだ。



「どうぞ」



 紅茶をさしだすと、女性は話し出した。




「男性2人と一緒に、弓道の合宿で、この森の中のコテージに来たのよ。そしたら、2人のうち1人がいなくなってて……」


 その真面目そうな子の方ね、と言って指刺す。



「僕の印象とは逆ですね」



 そう言うと、少しだけ顔を歪ませる女性。

 それでも立ち直って、続けようとする。


 だが、僕の視線に遮られた。


「あの……?」


 少し微笑む様は大人の女のそれで、僕は少し嬉しくなる。



「やっと本当のあなたが少し見えた気がします」



 本当に嬉しそうに笑ってみせると、女は顔を少し緩ませて、頬を染めてみせた。






 一通り世間話をした女を見送る。



 夜の暗闇に彩られた森の中へ、幸せそうに入っていくその様は滑稽で、実に僕好みだった。






「またのお越しをお待ちしております」

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