19人目の客人
「ちょっと!私の息子見なかった!?」
勝手に扉を開け放ち、ドカドカと入ってきたのは、大きな身体を持て余したような女性。
「ちょっと、聞いてるの!?」
必要以上に近づいてくる女性の赤いドレスは張り裂けんばかりになっていて、息子を探し回ったためか、身体から少し酸っぱいような香りと、薔薇の香りが混ざり合って漂っていた。
「紅茶を準備いたします」
「そんなの頼んでないわよ!」
ヒステリックに叫ぶ女性を、僕は無表情で見つめる。
初めて僕を見た彼女の目には、怯えと希望が見え隠れしていた。
「もういいわよ!」
開け放った扉から外に出ていこうとする女性を、僕は静かに引き留めた。
「あなたは、何を心配してらっしゃるのですか?」
途端に勢いよく振り返り、ドレスと同じ真っ赤に染まった顔を迫らせる。
「息子のことを心配しているに決まっているでしょ!?」
にこっと僕が笑って、奥へ向かうと、女性は放心した後、地団駄を踏んだ。
どうしたらいいのか正解が見えない時の仕草なのだろう、と思いつつ、準備を進める。
「どうぞ」
まずは落ち着こう、とようやく決めたのか、女性は素直に紅茶を飲み、一息ついた。
口が緩んで、ポツリと話し出す。
「息子は身体が弱いのよ。薬も置いていってしまったし、あの子は1人では生きていけないのよ」
「そうなのですか?」
ギョッと僕の顔を凝視する。
答えを探すように。
「そうなのよ……」
か細く消える声に可愛らしさを覚えて、僕は菓子を勧めた。
「ねえ、あなたって何者なの?」
僕は首を傾げる。
「この小屋の主人ですが?」
「そうじゃなくて」
真っ直ぐに、恋する少女のような好奇心に溢れる瞳で言う。
「あなたの名前は?」
ゴーン、
と時計の鳴る音が響き、女性は跳ね上がった。
僕は時計の方へ、ゆっくり目を向ける。
「僕は……僕は僕ですよ……」
誤魔化されたと感じたのか、怒ったように見つめてくる女性は、僕の目を見て、そういう訳ではない事に気が付いたようだった。
(
だからこそ、ストレスが溜まって欲に走ってしまうのだろう、と思ったところで、
ゴーン、とまた時計が鳴く。
女性は苦痛に顔を
「話を聞いてくれて、ありがとう」
その言葉を聞いて、女性に本当に必要だったものに気付く。
「またのお越しをお待ちしております」
これほど喜ばれるなら何度でも言ってやろう、と思えるような笑顔を咲かせ、
女性は静々と扉を閉め、森の中へ向かっていった。
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