15人目の客人
「失礼します!どなたかいらっしゃいませんか!?」
コンコンと行儀良く鳴る音。
「開いておりますので、どうぞ」
そう僕が言うと、ある制服をビシッと着た男が入ってきた。
「失礼します。警察です。お話聞かせていただけませんか」
そう言ってバッチを見せ、少し胸を張った男に、僕は言う。
「あなたが欲しいものは、その情報でしょうか?」
少し目を見開いた後、挙動を乱し、何とか立ち直った男は元気に、
はい、と返事をする。
「分かりました。何でもどうぞ」
嘘を言う場合がどうたらこうたら規則とやらを言った後、その男はやっと問いを発した。
「この老人が行方不明になっていて、娘さんから捜索願が出されているんです。お心当たりありませんか」
目前に差し出された写真をじっ、と眺めて、僕はまっすぐ男の目を見る。
「申し訳ありません。心当たりがございません」
「そうですか、ありがとうございました」
僕の顔から目を逸らして、小屋の外に出ようとする男の腕を、
僕は掴んだ。
「!? 」
振り向く男。その目に驚きはあれど、恐怖や苛立ちは無い。
「どうかなさいましたか?何か思い出したことでもあればお聞きしたいのですが」
「あなた、何で私の目を見ないのです?」
場が凍りつく。
言葉を探そうともせず、男は本能的にだろうか、僕の手を振り解いた。
ハッとしたように謝り倒してくる男を、僕は無表情に眺める。
「お茶を入れますので、少々お待ち下さい」
優しく僕が誘うと、
男は動揺しつつ、すとん、と割と静かに椅子に座った。
紅茶を注いで行くと、男は鼻からたっぷりと香りを飲んだ。
「何と上質な香りでしょう……」
僕は自分の淹れた紅茶やカップを褒められて、かなり上機嫌だった。
「ありがとうございます」
薄い笑みを浮かべて礼を言うと、男は足を組んで、椅子に楽な姿勢で座り直して、コーヒーの話だの服はどこのがいいだのと話を始めた。
僕は目つきを丸めて男をじっと見つめる。
男の話が途切れた拍子に、時計の時を知らせる音が響く。
ようやく男は僕が退屈していることに気付いた。
相槌を1回も打っていないのに1人で話すとは器用なものだ、と思いながら、
僕はゆっくりと口を開く。
「それで、あなたは何をしに来たのでしたか?」
疑問を顔に浮かべる男に、言葉を紡ぐ。
「あなたは、これから何処へ向かいたいのでしょう?」
男の顔から一気に血が引いた。
真っ白い顔で俯いて、少し
今までの人生を振り返っているようだった。
顔を上げた男の瞳には、光が映り込んでいた。
「俺は全力でご老人を探しに向かいます」
足をしっかり踏みしめながら、少年のようにはしゃいだ様子で、男は森へ入っていった。
僕はあの男が嫌いになれなかった。
少し苦く笑って、僕はいつも通り、迎える準備を始めた。
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