14人目の客人

 トントン、と小綺麗な音が聞こえてきた。


「どうぞ。鍵は開いております」


 僕が言ってやると、

茶の三つ編み髪を揺らしながら、女性が緊張の面持ちで入ってきた。


 少し惹かれて顔を見ると、可愛らしいそばかすがのっていた。




「あの、父を探している者なのですが、見かけませんでしたでしょうか?」


 そう言って、白髪と杖、それに合った上品な服を特徴として挙げていく。




 僕は首を横に振る。




 少し消沈した女性は、へたり込みそうになった。

 ここが他人の家だということに思い当たり、慌てて姿勢を戻す。





 すると、カンッとよく響く凛とした音が鳴った。






 勢いよくそれに縋り付き、身体全体で覆う。


 恐怖に怯えた顔で、しゃがんだまま僕の顔色を窺う。




「見ましたか……?」





「何をです?」



 僕がそう言うと、女性は隈の住み着いた目をこちらにジロリと向け、そろりと何かを手提げに滑り込ませた。

 それに反射した光が、僕の目に当たった。




「お茶でもいかがです?」


 僕は何かを言いかける気配を気にすることなく、奥へと消える。


 仕方なく、といった様子で、すらりと椅子に腰掛ける女性。


 僕が紅茶を出すと、少し落ち着きを取り戻していた。


 カップを口にはこぶ。







「あのナイフは護身用ですよね」





 僕が言うと、女性は身体を震わせた。

 何かに気がついた様に目を見開き、

小鳥の様に鳴きだした。


「そうなのよ!森へ父さんが入っていった様だから追ってきたのですが、こんな森の中に女性1人で入るなんて危険すぎるでしょ?だからナイフを持ってきたのよ」


 そう言い終えると、

女性は放心したようになった。



 しばらく時計の音だけとなった部屋。

 僕が紅茶を飲み終えると同時くらいだろうか、女性は何かを吹っ切るように、湯気の出なくなった紅茶を一気に飲み干した。


 静かに立ち上がった女性に、僕は優しく声をかける。


「お帰りになりますか?」


 女性は黙って丁寧に一礼をして、森の中へと歩いて行った。

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