13人目の客人

「こんばんは」


 入ってきたのは1人の老人。


 杖をついて、ヨタヨタと中に入る。


 頭は上品な白、落ち着いた服装のその男性を迎え入れる。



「こんばんは。ただいまお茶を準備させていただきますね」


 僕は心ばかり大きな声で、和やかに言って、奥へと歩く。



「あの……」


 すると背後から呼び止められた。


 老人は疑念と恐れの入り混じる声で呟いた。




「どちら様でしょうか?」





 僕はにっこりと笑って、老人の白髪の一本一本が見えるほどに近づいて、答える。


 老人は身を引きもしない。




「僕はこの小屋の主ですよ」



 ゆっくりと、続ける。



「そして、あなたは、客人ですね」




 ぼーっと聞いていた老人の顔から、少しずつ、少しずつ

上品さが抜け落ちていく。



「そうだ!助けてくれ!このままでは娘に殺されてしまう!」


 僕の襟を握りしめて狂気のまま訴えてくる老人を、僕は黙って見つめる。




「そうなのですか」


 僕が返事をしてやると、男は何故か余計に顔を赤くした。

 皺がどんどん深くなっていく様子を眺め、タイミング良く奥へと歩く。



 呼び止める声はなかった。




「どうぞ」


 湯気が立ち昇る紅茶を、男の前に音を立てずに滑り込ませる。


 男は困ったような調子で、でも覚悟を決めたように頷くと、それを口にはこぶ。




「おいしい……」


 男の肩から力が抜けていく。どんどん椅子にはまっていった。


「それは何よりです」


 僕は嬉しくなって、上質な菓子を男の前に並べた。


 しばらくたわいもない会話が部屋に響き、菓子をつまむ音が何度か聞こえる。






 パッと窓の辺りを見た男。


 それでは足りずに、キョロキョロと忙しなく目と首を動かした。



「どうかなさいましたか?」



 僕を見て、

男は怯えを仕舞って笑顔を見せ、

お辞儀をして立ち上がる。



「そろそろお暇しないといけないようです。

ご馳走様でした。良い時間をありがとうございます」



僕は今までで1番自然に笑って、言った。




「またのおこしをお待ちしております」




 杖を老人の手に恭しく持っていき、ドアを開けて、森へと向かう男性を、

姿が見えなくなるまで見送った。

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