10人目の客人

 鋭い音と共に開かれた、


いや、正確には蹴り壊された扉。


 その先に見えたのは、上等そうなだけの革の靴底だった。


 扉を壊して入ってきた男は、乱暴に椅子へ腰掛ける。太い脚をテーブルへと乗せる仕草は、僕の顔を歪ませた。


「おい、何だその不満げな面は」


 男は不機嫌そうに言葉を叩きつけた後も、

俺が誰々の配下だとか、何々組の誰々だと喚き散らす。


 僕は慌てず、人差し指を立て、唇へと付けた。


「シー」


と言うと、男の顔と首に、青い筋が走った。


「お茶を入れてきますね」


 男は怒りの表情のまま、僕を値踏みするかのように睥睨する。


「お前、堅気じゃないのか?」


 その質問に答える必要性は無いと判断して、僕は準備を始める。

 幸いにも男に止められることはなかった。


 静かに、慎重にこちらを見つめる視線に射抜かれながら、僕はティーセットを並べ終えた。


「冷めないうちにどうぞ」


 にこやかに言うと、


男はカップを無造作に払い除けた。


 ガチャガチャと壊れる音が響き渡る。


 片付けが大変だな、と思っていると、


首に男の無骨な手が食らいついてきた。


「茶、ありがとさん。それより、ここらで老いぼれたじいさん見なかったか?俺のお客なんだよ」


 ギリギリと締め上げてくる男。


 僕は少し、


苛ついてしまった。




 男が手を離した。


 白くなって後ろにふらふらと下がる男に、僕は安堵を感じながら話す。


「申し訳ありませんが、心当たりがありません」


 男がテーブルにぶつかって、僕のカップが倒れる。

 ポタポタと垂れる音が、部屋に響いた。


 こぼれる滴を見つめ、僕は言う。

「小さな頃の夢って、何かありましたか」


 何故か目に光を宿した男が、


扉の無い出口から、静かに出て行った。


「またのお越しをお待ちしております」


 心の底から言葉を吐き出して、僕は、軽く微笑んだ。

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