4人目の来客

「こんにちはー!」

 快活に入ってきたのは、顔馴染みの男だった。


「どうしたのです。こんな遅くに」

 僕が話しかけると、友人は僕の顔を覗き込んだ。


「そういえば」

 男は、にこにこしながら話を進める。「近くの街の王様と王女様、いなくなったらしいね」

 僕は、少し目を向け、

「そうか」

と答えると、男は笑った。


「そうなんだよ」

 身振り手振りを大きくしながら、話す。


「ある街がありました。

 それはそれは美しい場所で、とはいわないけれど、程よく自然があり、人々の生活があり、みんな幸せに暮らしていました」

「けれど、と続くんだろ」

 僕が合いの手を入れてやると、男は嬉しそうに続けた。


「けれど、みんな少しずつその幸せに飽きてきました。

 もっと欲しい、もっと欲しいと望んだ人々は、隣街の資源に目を向けてしまいました」


「隣の芝は青い、というやつか」

 そうそう、と僕の言葉を拾って上機嫌に頷いて、男は続ける。


「国民を第一にと考えている、世間知らずの王は、戦争の狼煙を上げてしまいます」

 紅茶を飲んで、一息つく。

「隣街は戦争の備えをしっかりとしており、所詮田舎者のくだんの街は、あっさり火の海に」

 暖炉の中に薪を放る。

 ぱちぱちと燃える木を見つめ、言った。


「主人が愛した自然は消え去り、

後に残ったのは、王の虚栄の野心に惚れた、貴族の女性と、王の城だけ。

 庭に生える薔薇を愛でる妻を、死んだ目で見つめる王。よくある話だよね」

 友人はニヤリと口を歪める。心底楽しそうに。

「王と王女は逃げたみたいだね。

 国民のために動いた王は、国民によって悪役にされて、戦争に進ませた王だと言って、愛する者たちに、追いかけられているそうだよ」


「ねえ」

 男はついと顔をこちらに向けた。


「ここに、誰か、来た?」

 

 僕は少し考えて、言った。


「お前がいるな」


 しばらくじっと僕の顔を見て、満足したのか、にっこりと男は笑い、立ち上がった。


「じゃあまた来るからな」


 僕もいつも通りの行動をとる。

「ああ、紅茶を用意して待ってる」


 男が、ああそうだ、と言って快活な歩みを止める。

「俺には今日の紅茶、少しばかり苦かったな」

 玄関の扉の前で振り返り、言った。


「今度こそ、美味い紅茶が飲めることを祈るよ」

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