Episode06/違和
布団から目覚めた僕は、幽体離脱のせいか、いつもより視界がボヤけているのを自覚した。なぜかふわふわした感覚。地に足がついておらず、まるで夢のような違和感を覚えていた。
頭を掻きながら時計を見る。
もう朝の8時過ぎだ。
瑠奈は珍しくまだ眠っているらしく、おはようの一言もかけてこない。
会社は先月退職したし、やることがない僕は、とりあえず朝飯を食べようと冷蔵庫を漁る。が、なにもない。
仕方なくコンビニまで買いに行くことにした。
瑠奈、ちょっとコンビニまで行ってくる。
心の中で瑠奈に声をかけるが、珍しく返事がない。
大抵は僕が起きた直後に目覚めるか、僕よりさきに起きているというのに……。
僕はパジャマを脱ぎ私服に着替えると、親とあまり顔を合わせないようにそそくさと家を出た。
こうしてみると、現実と夢の差はほとんどない。
やはり、幽体離脱は物凄いリアリティーある世界だと再認識する。
むしろ、なんだか意識がモヤモヤしているこちらの世界が夢なのではないかと錯覚さえ感じてしまう。
夢と同じ道、十字路を左に曲がるとーー。
「え……?」
夢と同じく、そこにはたこ焼きの屋台があった。
心臓が高鳴る。まさかと思い、たこ焼き屋の中を覗き見る。
「たこ焼きいらんかね~おいしいよ~」
ふぅ……と一息つく。
当然だが、店主は蛸ではなくきちんとしたおじさんだった。
これもなにかの縁だと思い、僕は店主に向かって「たこ焼きひとつください」と言った。
「まいど」
店主は笑顔でたこ焼きの入ったビニル袋を手渡し、僕は代わりに500円を渡した。
たこ焼き屋を後にし、僕は近所のコンビニ屋に入る。
入ったところで、昼飯はたこ焼きでいいんじゃないかと考え直し、僕はスポーツドリンクだけを購入してコンビニから外に出た。
帰路に着きながら考える。
あんな場所でたこ焼きを売っても、商売になるのだろうか?
普通なら人通りの多い場所に出そうと思うはずだ。
場所取り争いに負けたのだろうか?
なんだか可哀想になってくる。が、まあ、今のニート生活を送っている僕には関係ない。
僕なんて、不細工で身長も165cmなくて、おまけに頭も悪い。さらには会社を辞めてニートの身。親の脛をかじって生活している僕以上に惨めな人間はそうそういないだろう。
そんなことを考えながら、ボンヤリとした意識のまま自宅に帰った。
帰宅してもまだまだ眠った状態の瑠奈。それを見ていると、なんだか自分まで眠くなってくる。
たこ焼きをレンジの中に入れ、後で食べることにした。
なんだか眠い……瑠奈を見ていると眠くてしょうがない。
今さっきまでなにをしていたのか忘れてしまったかのように、僕は深い眠りへとつくことに決めた。
べつにきょうは幽体離脱する必要もないだろう……疲れているんだ。
ベッドに入り、瑠奈の隣で仰向けになる。
ゆっくり眠ろう。夢でも幽体離脱でもいい。とにかく、このつまらない現実から逃れられるのであれば、なんだっていい。
そう思いながら、僕は静かにまぶたを閉じた。
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