Episode03/投身

 あれから数ヶ月の月日が経ち、なかなか幽体離脱できないことに頭を抱えていた。

 どうしたものかと頭を悩ませていた僕に、思いもよらぬ吉報が舞い込んできた。

 なにかというと、使うだけで幽体離脱ができるという怪しげな脱法ドラッグがネットで紹介されていたのだ。

 これを飲むだけで幽体離脱ができる?

 俄に信じられない話ではあったが、藁にもすがる思いで、僕は脱法ドラッグのサイトに入り、その薬をひとつだけ購入することにした。


 インチキならインチキで諦める。飲むだけで幽体離脱など、できるはずがない。でも、でも、もしかしたら本当に効果があるのかもしれない。

『砂風? どうしたの? なんか気持ち悪くニマニマしちゃって。変な物に頼らないでね?』

 大丈夫。変な物ではない。幽体離脱しやすくなるためのアイテムだ。

 ま、どうせ嘘話だろうけど……。


 

 やがて、その薬は自宅に届いた。

 薬嫌いな瑠奈に知られたら不味いと考え、瑠奈が寝ているかどうかチェックする。


 ……ほっ。よかった。


 瑠奈はこっちの心を読む力が使える。だから、脳裏で考えただけでばれてしまう。

 しかし、さすがにここしばらく幽体離脱ができていないことに焦りを覚えていた僕は、瑠奈を起こさないようにリキッド状の薬物を一気に飲み干した。

 ……一回分がどれほど飲めばいいかわからなかったんだが……ミスったか?

 まあいい。とにかく横になろう。

 これで幽体離脱できれば万々歳。できなければ詐欺師めちくしょーと言った感じだ。


 布団に入るなり、いつもどおり仰向けに寝て全身を弛緩させる。

 最近は、数かぞえ法より有効な方法を思い付いた。自分に合っている方法。

 それは、眠気が来たら定期的に上半身を起こすこと。幽体離脱に成功していれば、幽界の独特な空気は現実と微妙に違うため、それだけで判断できる。さらにこの方法は、珍しく金縛りを経由する回数が少ない。

 おそらく、このやり方が一番自分に合っているのだろう。

 人それぞれ幽体離脱をするのに合っている方法は違うと、どのようなサイトにだって書かれている。

 さて……意識を落としていき、眠気を誘発させていく……。


 ……。

 …………。

 いまだ!

 と、上半身を軽く起こしてみたが、体調が少し悪い気がするだけで、幽体離脱できたとはいえない。まだまだ現実だった。


 ……。……。

 ……………………。

 あれから三十分以上経っただろうか?

 一応体を起こしてみ……る

 ……よし!


 明らかにいつもと違う空気、なぜか怠い体調など、普段との違いを察した僕は、慌ててリビングへと飛び出した。ふと時刻を見る。夜中の3時だと理解しつつ、僕はバカかと自身に叱責した。幽界と現実の時間感覚は違う!

 リビングに瑠奈がいないのを確認した僕は、急いで玄関へと向かう。 

 例えば現実で一時間しか寝ていなくても、幽体離脱では1日過ごしていた例なんかもあるのだ。逆もまた然り。つまり、時計を見てもなんの解決にもならない。

 玄関から裸足で外に飛び出し、急ぎ足でマンションの階段を三階と四階の踊り場まで駆け上がる。

 前回は屋上からだからダメだったのかもしれない。

 なら、少し低めの位置から飛び出してみよう。

 僕は踊り場から外に乗りだし、両手を前に水平に突き出す。

 再び、僕はスーパーマンのようなポーズで飛ぶため、踊り場を乗り上げ足で背後のコンクリートを蹴り飛ばした。

 ……しかし、現実は非常である。



 おまえには飛べないとでも言いたいのか、いつもより勢いよく落下し、そのまま地面に激突した。

 

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