5、

 遺跡に潜ったハヤトたちは、その後、特にトラブルに巻き込まれず、奥へと進んでいくことができていた。

 罠や隠し通路や隠し部屋などの仕掛けがほとんど解除されていたということが大きな理由であるが、それは同時に、ここまでは多くの冒険者たちによって攻略されているということの証明でもある。

 逆を言えば、罠や仕掛けが解除されていない階層から先は、誰も攻略したことがない階層である、ということだ。

 安全に進むことができる、という点では、先に突入した冒険者たちに感謝なのだが。


「お宝が何もないからつまんねぇ……」


 再び、カインがうなだれてしまっていた。


「カイン。頼むから、うなだれるのは後にしてくれないか?」

「せめて、遺跡を出てからにしてちょうだい」

「けどよぉ……」

「むしろ、君がここでやる気なくしたら僕たち、全滅しちゃうと思うけど?」

「そうなったら面倒だよなぁ、ギルドだけじゃなくて騎士団からも犯罪を疑われかねないし」


 冒険者のパーティがたった一人を残して崩壊する、という話はよくあることではある。

 だが、そのパーティ崩壊が生き残った一人の冒険者によって仕組まれていたという事件が過去にあった。

 当然、生き残った冒険者はギルドを通じて衛兵に突き出され、罰を受けることになったのだが、それ以来、ギルドではメンバー一人を残したパーティ崩壊について、調査と生き残った冒険者の監視を強化している。

 まして、現在ハヤトたちがいる場所は騎士団のおひざ元。

 事件が発生すれば、当然、騎士団も調査を行うことになる。

 ギルドだけならまだしも、騎士団からも追及を受けることは、できれば避けたいらしく。


「さ、さすがにそれはやだな……」


 死んだ魚のような目をしながら、カインは顔をあげる。


「そうそう。やる気出して、さっさと奥に進んでいこうよ」

「早いところ抜け出しましょう? 息が詰まってしまいそうだもの」

「へいへい……」


 シェスカの言葉に、カインは仕方がないとでも言いそうな態度で後頭部を掻きながら先行していく。

 一見、やる気のなさそうな態度ではあるが、その瞼は開かれており、視線は床や壁だけでなく、天井へも向けられている。

 口ではなんだかんだと文句を言っていても、しっかり仕事やることはやっているようだ。


「……そこかな」


 カインが一点に視線を集中させると、使い捨ての楔を取り出し、見つめていた場所へと投げつけた。

 投げつけられた楔が通路の先にある石畳の一つに命中すると、ガコン、と大きな音がしたとほぼ同時に、両脇の壁が勢いよく楔に迫っていき、壁が通路をふさいでいく。


 ばきり。


 壁が完全に通路をふさいだと同時に、嫌な音がハヤトたちの耳に響いてきた。

 どうやら、楔が壁に押しつぶされ、壊れてしまった音のようだ。


「うっへぇ……なんかえぐい罠が仕掛けられてやがったなぁ」

「だなぁ……カインがいて助かった」

「そうだね」


 ハヤトがカインを称賛する言葉を口にすると、アミアもそれに同意する。

 しかし、彼女の目には呆れや怒りのような色が宿っており、カインについて物申したい様子だ。


「けどさ、通路ふさがっちゃったじゃん。どうするの、これ?」

「安心しろよ。こういうときってのはな……」


 これ以上、進むことができなくなってしまったという事実に対して文句を言い出したアミアに、カインはそう返しながら、通路から少し離れた壁の方へと視線を向ける。

 壁をじっと見つめているうちに何かを見つけたらしく、ふらふらと壁へと近づき、慎重に手で触れながら観察を続ける。

 ふと、何かの違和感に気づいたらしく、にやり、と口角を吊り上げると。


「ほいっと」


 そこに仕掛けられていた仕掛けを起動させる。

 その瞬間、ハヤトたちの背後にある壁から大きな音が聞こえてきた。

 音に気づいたカインを除くハヤトたちが背後に振り向くと、彼らの目に新しい通路が開こうとしている光景が入り込む。


「え? 新しい通路??」

「もしかして、さっきの通路ってダミーだったわけ?」

「カインはそれを見抜いたっていうの?」


 普段の態度が態度であるため、それだけの技量があるとは、通常ならばわかるはずもない。

 もし普段からカインの日常の姿を見ていて、カインが巧妙に隠された罠や仕掛けの存在を見抜くことができるだけの技量を持っていることに気づくことができる人間がいたとすれば、それはもはや吟遊詩人や物語で語り継がれるほどの実績と実力を持っている同業者だけだろう。


「さてと、これでこっから先に行くことができるな」


 一仕事して大満足、と言いたそうな満面の笑みを浮かべながら、カインはハヤトたちにそう語りかける。

 いくら専門的な知識や経験がないとはいえ、カインの鮮やかな手際に目を丸くしていたハヤトたちは驚愕をその顔に浮かべたまま、カインの方へと向き直った。

 その顔を見たカインはというと。


「な、なんだよ。そろいもそろって鳩が豆鉄砲を食ったような顔しやがって……俺が仕事したのがそんなに珍しいのかよ?」


 と、文句を漏らしていた。

 どうやら、期待していた表情と違っていたことに不満を覚えていたようだが。


「えぇ、まぁ……」

「普段が普段だし、ねぇ?」

「そう思われても仕方ないんじゃない?」

「……ちくせう……」


 漏らした文句に対して帰ってきた言葉に、カインは目に涙を浮かべながら悔しそうにつぶやく。

 そんな様子のカインを意に介すことなく。


「ほらほら、早く仕事しよう?」

「時間も物資も限られてるんだから、さっさと先に進もう?」


 アミアとシェスカはさっさと先に進むための仕事をするよう、カインに声をかけていた。

 その様子に、ハヤトは少しばかり、カインに同乗していた。

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