4、
「時間ギリギリだな」
「あぁ。でも、戻ってきたってことは準備が終わったってことだよな?」
遺跡の出入り口を固めている騎士たちは、準備のために一度宿へ戻ったハヤトたちがこちらへ向かってくる姿を見ながらそんな会話を交わす。
どうやら、この二人はハヤトたちが一時間以内に戻ってこれないと考えていたようだ。
だが、その予想に反して、ハヤトたちがギリギリではあるが戻ってきた。
「戻りました。一時間近く前に準備のために離れた、カイン、シェスカ、ハヤト、アミアです」
「待っていたぞ。どうやら、間に合ったようだな」
「えぇ。入っても?」
一時間ほど前に声をかけたカインではなく、今度はハヤトの方が騎士に声をかけた。
その問いかけに騎士はうなずいて返す。
「問題ない。が、気を付けて進めよ?」
「ありがとうございます」
騎士の助言に礼を言い、ハヤトたちは遺跡の中へと入っていく。
その姿が暗闇の中へ消えていき、足音も聞こえなくなると。
「なぁ、今更ながらだが賭けるか?」
「何を?」
「あいつらが最奥部に到着してから帰ってくるかどうか」
突然、そんなことを提案してきた。
ハヤトたちが来るまで、数組の冒険者パーティーやトレジャーハンター数名がこの遺跡に潜ったのだが、最奥部に到達できたものは今のところいない。
ひどい時には、三十分経つことなく戻ってくるものもいたほどだ。
それだけ、この遺跡をねぐらにしている魔物や仕掛けられている罠が強力ということなのか。それとも、実力が伴っていないにも関わらず応募してしまったものが多いのか。
いずれにしても、彼らが入り口を固めているこの遺跡は攻略する難易度が高いものといえるようだ。
「じゃ、俺は二時間くらいで帰ってくる方に」
「なら、俺は最奥まで到達するに一票」
「おいおい、そりゃさすがにないんじゃないか?」
同僚は笑みを苦笑を浮かべながら騎士の言葉に返す。
別に冒険者を侮っているわけではないが、これまでこの遺跡に挑戦した冒険者たちは全員、逃げ帰るように戻ってきていた。
そもそも、この遺跡は騎士団が調査に赴いたのだが、遺跡内に生息している魔物はともかく、経験したことのない罠や仕掛けに右往左往させられた結果、罠や仕掛けに関する経験値において騎士団の数段上をいく冒険者たちに白羽の矢を立てたのだが、そんな冒険者たちでも歯が立たないらしい。
今回もおそらく同じなのではないか、と同僚は考えているようだが、この騎士は違った。
「なんというか、あいつらならとんでもない結果を持って帰ってきそうな気がするんだよな」
「根拠、あるのか?」
「根拠があるわけじゃない。だが、何というかこう、勘みたいなものがそう言ってんだよ」
騎士の答えに、同僚は興味なさそうに息をついて返していた。
なお、この数時間後に騎士の勘が本物であったことに、この同僚は驚愕することになるのだが、それはまだ少しばかり先の話。
一方、無事に準備を終えて、遺跡に突入したハヤトたちは。
「カイン。そっちの通路、大丈夫か?」
「あぁ、問題ねぇぞ。隠し通路もないからつまらん……」
「いやつまらんって君ねぇ……」
「放っておきなさい、アミア。どうせ隠し通路の先にお宝があるんじゃないか期待してるだけなんだから」
「……そういうのは言いっこなじゃあないんじゃないか? シェスカぁ」
「あら? 事実じゃない」
カインの文句に帰ってきたシェスカの言葉に、カインはぐうの音も出なかった。
金欠状態が続いていた、ということもあるが、カインがそもそも金の亡者に近い気質を持っているため、こういった遺跡で発見される遺物を持ち帰りたくて仕方がないため、隠し部屋や隠し通路の類も探しているようだ。
その魂胆をシェスカに見抜かれてしまい、何も言えなくなったらしい。
「それはそうなんじゃない? まだ浅い部分だし、僕らより先に入っていった冒険者たちが徹底的に解除していっただろうし」
「隠し部屋にあった遺物も、当然、回収されているでしょうね」
「……ちくしょう……」
アミアとシェスカの追撃に、カインは涙を流しながらうなだれ、どうしてもっと早くこの依頼見つけられなかったかなぁ、先に見つけてたらどんだけ儲かったかなぁ、と自分の行動の遅さやどれだけの損失が出てしまったかなど、悔恨の念を口に出す始末。
そんな様子に、もう放っておいて先に進んでしまおうかとも考えてしまうが。
「ほら、カイン。さっさと立ち直れ」
「うぅ~……」
「でないと、ほかの冒険者たちと同じように途中リタイアすることになるぞ?」
「……それは……やだなぁ……」
「だったらさっさと立ち直って探索始めようぜ? この先にはまだ見つかってない通路があるかもしれないんだからさ」
さすがに、斥候のカインを抜きにして遺跡探索は危険が大きい。
そのため、ハヤトはさっさとカインを立ち直させるため、彼の欲望を刺激する方向で声をかけていた。
その結果。
「そうだな! まだ見ぬお宝が待ってるかもしれないからな!! そうと決まれば、善は急げだ!!」
途端に元気になって立ち上がり、遺跡の奥へと進んでいった。
その背中に、その場に残されたハヤトたちは。
「……ほんと、単純よね」
「おめでたい脳みそでうらやましいよ……」
「まったくだ」
呆れた、と言わんばかりのため息をつき、かといって単独で行かせるわけにもいかないため、急いでカインを追いかけていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます