3、

 受付で名簿に名前を記入し、言われた通りの道順で進んでいくと両脇を騎士が固めている扉の前に到着した。

 どうやら、ここが遺跡への入口らしい。


「ん? あぁ、公募でやってきた冒険者か」

「そうです。ここから遺跡に入れるんですか?」

「その通り。それで? 準備は大丈夫か?」


 どうやら、すぐに遺跡の中へ入ることができるらしい。


「もちのろん、すぐに挑戦できるぜ」

「ちょっとカイン、なんで君が仕切ってんのさ?」

「いいじゃねぇかよ、話持ってきたのは俺なんだから」

「いや、それは事実だけどさ」


 すぐに出発できるか問いかける騎士に答えたカインに、アミアが苦言を呈すが、事実を示されてその口をふさがれてしまう。

 一応、薬や魔術を記した巻物などを持ってきていないわけではない。

 だが、未知の遺跡を探索するとなると、やはり心もとない装備ではある。


「……いえ、準備のために少し時間をいただいでもよろしいでしょうか?」

「なっ?! おい、ハヤト!!」

「万全を期したいというのなら、それも当然だな。むろん、準備費用は報酬に含まれないが、それでもいいか?」

「はい。ストックしているものがありますので、それを使用します」


 さきほどの仕返しというわけではないが、淡々と岸からの質問にハヤトが答えていく。

 後ろではカインが文句を言っているが、そんなことはお構いなしに話を進め、最終的に。


「わかった。一時間ほど待とう。それまでに来なければ、手数だがもう一度、受付をやり直してくれ」


 準備する時間として、一時間だけの猶予をもらうことができた。

 騎士としても、応募してきた冒険者の犠牲は最小限にとどめたいのだろう。

 さほど長い時間をかけることなく、猶予をくれたことにハヤトとアミアは少し面食らっていたが、すぐにその場を離れ。


「手わけだから、一度宿に戻って最低限の準備を整えておこう」

「そうね。何も準備せずに来てしまったようなものだから、さすがに心もとないし」

「一時間もあれば、準備時間を加味しても往復には十分間に合うしね。そうしよう」


 シェスカとアミアもそれに賛同し、宿へ戻ろうとする。

 だが、ここでやはり一人文句を漏らす人間が一人。


「え~?! いや、さっさと入って攻略しちまったほうがいいじゃねぇか! 中にある遺物とか財宝とか、俺らのものにしていいんだろ?」

「まぁ、規定としてはそうだな。さすがに装飾品や陶器類、武具の類、酔うと不明の道具は一度預けてもらうことになるが」

「けど、最終的に俺らの手元に戻るんだろ?」

「よほど危険なものでないか、はっきりした用途が不明なまま出ない限りは」

「だったら早い者勝ちじゃねぇか! さっさと入ってさっさと騎士団に渡しちまえば、それだけ俺らの稼ぎも増えるだろ?!」


 どこまでも欲望に正直なカインは、少しでも稼ぎたいがためにあえて危険を犯そうとしている。

 当然、ハヤトもアミアもシェスカもその態度に苦言を呈さずにはいられない。


「だからといって、命落としたら元も子もないだろ?」

「命からがら逃げられたとしても、致命傷を負って間に合わなかった、なんてこともあるだろうし」

「何より、治療不可能な大けがをして冒険者を引退、なんてことになったら、それこそ稼げなくなるわよ?」


 自分の身の安全を確保するために準備を整えるということは、冒険者として常識だ。

 新たに発見された未踏破の区画であるとはいえ、今回、探索する場所は騎士団が管理している遺跡。

 ある程度は安全だろうが、それでも準備をしておくに越したことはない。

 だというのに、カインは宝に目がくらみ、その最低限の常識すら忘れ去ってしまったようだ。

 真面目なシェスカや口うるさいアミアだけでなく、ハヤトからも苦言を呈され、さすがのカインも反論ができず、押し黙ってしまい。


「てわけだから、さっさと宿に戻って準備するよ」

「一時間しかないんだから、急いだ急いだ!」

「……はい」


 滝のように涙を流しながら、ハヤトたちとともにその場を離れ、宿へと戻る。

 それから数十分、もう間もなく約束の一時間となろうとしていた。


「さっきの冒険者たち、間に合うと思うか?」

「さぁな? 案外、臆病風に吹かれたなんてことあるんじゃないか?」

「あぁ、緑の髪した奴以外の二人、長生きしそうだもんな」

「まったくだ。大成するとしたら、あの二人だろうな」


 冒険者が臆病風に吹かれる、と言われれば聞こえは悪いが、決して悪い意味ではない。

 冒険者というものは危険と常に隣り合わせであり、ともすれば簡単に命を失う職業だ。

 危険を察知し、自分がそれを乗り越えることができるかどうか。目の前の危険に対処するだけの実力が自分に備わっているかどうか。

 それらを冷静に判断し、必要であれば逃げるという判断をする。

 そうして自分の命を守り、実力を重ねてきた冒険者が、英雄とまで呼ばれる存在になるのだ。

 その意味で、カインは一般的な、いつ命を落としてもおかしくないタイプであり、ハヤトやシェスカは大成する可能性が高いタイプと言える。


「まぁ、ここの遺跡は俺らもてこずるからな。来なくても驚きゃしねぇが……お?」

「ん……?」


 隣に立っている同僚が奇妙な声をあげたことに、眉を顰め、その視線を同僚と同じ方向へ向ける。

 その視線の先に出てきた人影が原因であることを察し。


「賭けるんだったら早めにするんだったな」


 と、冗談を口にした。

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