2、
どういうわけか、高額の依頼が張り出されず、帝都を離れざるを得なくなるかもしれない状態になっていたハヤトたちであったが、カインが見つけてきた帝国からの直々の募集を受けることに決め、早速、王城前へと向かっていた。
が、シェスカはどこか考え事をしている様子だ。
何を考えているのか、ハヤトが問いかけてみると。
「気になるのよ」
「何が?」
「騎士団がなぜ、腕に自信のあるものなら冒険者に限らず調査を願いたい、なんてことを許したのかよ」
「自分たちの業務で手が回らないからじゃない?」
「それならこの依頼はそもそもなかったはずよ?」
騎士団という組織は、国王や貴族たちだけでなく、国民を軍事的に守護することを任務としている。
当然、その業務は命がけとなり、そのことを誇りに思っている人間も多い。
中にはその矜持からか、冒険者をはじめとした他組織に協力を要請することを拒む者もいる。
現在の騎士団長がどんな人物かはわからないが、他組織に協力を要請するということはまずない。
その騎士団が、公募という形をとっているとはいえ、他者に協力を要請しているのだ。
疑念を覚えるのも無理はなく、シェスカの疑念に引きずられるように、ハヤトとアミアも首をかしげるのだが、それを気にすることがない人間が一人。
「まぁ、細かいことはいいじゃねぇか。とりあえず、金が手に入るんだったらよ」
「……カイン、もう少し考えるってことを覚えたらどう?」
「そうね。よくに目がくらんで思考することをやめるのはどうかと思うわ」
「ていうか、もともとあんまり深く考えないで持ってきたでしょ? この公募……いや、金が必要なのは確かだけどさ」
報酬に目がくらんでよく考えもしないで持ってきたのではないか、と疑われるようなカインの言葉に、ハヤトたちはため息をついた。
たしかに今のところ、ハヤトたちの資金繰りは厳しいが、かといって高額の報酬につられ、考えなしに依頼を受けるととんでもない被害を受けることになってしまうかもしれない。
何かの思惑があるのではないかという疑いがある以上、安易にこの仕事を受けることは、危険と隣り合わせの冒険者として、身の安全を確保するという点においてうかつと言われても仕方のないことだ。
本来なら、もう少し慎重になるべきなのだろうが。
「だがよぉ、考えたところで金が勝手に湧いてくれるわけじゃねぇんだぜ? 今は四の五の言ってられねぇんだから、多少の危険は承知で受けるしかないだろ」
自分たちの今の状況が依頼を選り好みしていられるものではなく、一歩でも間違えればすぐに干上がってしまうような状態であることをカインも理解していたようだ。
そう判断したうえで、危険を承知でこの公募を持ち出してきたらしい。
カインなりに、自分たちのことを考えての行動だったようだ。
「はぁ……まぁ、あなたなりに考えてのことだったら、これ以上は考えないでおくわ」
「そうそう。人間、諦めが肝心なんだからよ。うだうだ言わねぇでさっさと片付けちまおうぜ?」
へらへらと笑みを浮かべながら返すカインに、シェスカは再びため息をつく。
だが、その口からは一言も漏れることはない。
その代わりに。
――そういう態度がなかったら、もう少し印象が良くなると思うんだけれど……顔はいいんだから
心中でカインの顔立ちを評価していた。
実際、カインはちょい悪系の整った顔つきをしており、女性冒険者の間でもひそかに人気を集めているのだが、少しでもカインと交流を持てば、そのだらしなさや性格から幻滅されてしまうため、ファンクラブのようなものができた、という話を聞いたことがない。
――まぁ、彼がこんな状態なのは今に始まったことじゃないし、そもそもそこまで真剣に考えても仕方のないことだから、これ以上考えることはやめておきましょう
ひとまずこれ以上、そのことについて考えることをやめることにした。
そのまま歩くことしばし、一行は王城の前に到着した。
普段ならば、衛兵が門の両脇に控え、警備を行っているのだが、遺跡探索の希望者を募っているためか、受付と思われるテーブルが設置しており、すでに何名かの冒険者と思われる物々しい雰囲気の人々が並んでいる。
「お、ここで受付してくれるんだな」
「それじゃ、僕たちも並ぼうか」
アミアがそう促すと、ハヤトたちは列の最後尾へと向かう。
一人、また一人と受付を終わらせ、前に並んでいる人間が城門の向こうへと消えていき、ついにハヤトたちが受付を行う番となった。
「次の方どうぞ」
「はいはいはーい」
受付に呼ばれ、カインが調子よく返事をしながら前へと進む。
その様子に肩をすくめながら、ハヤトとシェスカが後に続く。
「それでは、こちらに全員の名前を記入してください」
「はいはいっと……これでいいか?」
「拝見します」
指示された場所にカインが三人と一匹分の名前を記入し終えると、受付が名簿に書かれた名前を確認する。
だが、何か不備があったのか、その表情に疑念が浮かびはじめた。
「……あの、こちらに書かれてある『アミア』さんはどちらに?」
「はいはい、僕はここだよ!」
どうやら、アミアの姿が見えず、困惑していたらしい。
いつものことと言えばいつものことなのだが、本人としてはやはり不満なことのようで、イライラとした口調で自分がここにいることを主張する。
その声色に受付は申し訳なさそうな態度を示し、謝罪し。
「それでは、受付いたしましたので、城門をくぐり、左の方へお進みください。入り口となる場所に」
奥へ進むよう、ハヤトたちを促す。
調子のいいカインはその言葉に従い、さっさと城門をくぐっていく。
その様子に、先ほどぞんざいに扱われたアミアがため息をつきながら。
「まったく、ほんとに調子がいいんだから……」
と文句を垂らす。
その様子に苦笑を浮かべながら、ハヤトとシェスカはカインを追いかけていった。
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