4章、遺跡探求は帝国からの試練?

1、

 シェスカがハヤトとアミア、そしてカインとパーティを組むことを宣言してから数日。

 これといって大きな事件や依頼があるわけではないし、全員で挑むほど危険な依頼があるわけでもないため、ハヤトもシェスカも、薬屋や医者から依頼された薬草の納品や下水道で増殖している魔物化した動物の駆除といった個人でも問題なく行える依頼を受けていた。

 とはいえ、収入は二人合わせてもそれなり。

 あまり贅沢はできない状態が続いていた。


「カインももう少し真面目に働いてくれれば、多少の余裕ができると思うんだけど」

「無理ね。彼、一獲千金できるような依頼しか目を向けていないし」

「だよねぇ……」


 シェスカの言葉に、ハヤトとアミア、そして口にした当の本人が同時にため息をつく。

 シェスカの言う通り、カインが冒険者を目指した理由は一獲千金も夢ではないためという、欲にまみれたもの。

 冒険者らしいと言えばそれまでだが、パーティの活動費を維持するためにはその欲には目をつむり、仕事をしなければならないのだが、カインはそれすらできないらしい。


「けど、このまま小さい依頼ばっかりこなしてたら、そのうち身動き取れなくなっちゃうよ」

「そろそろ護衛とか高ランクの魔物討伐とかで高額報酬を狙った方がいいかなぁ」

「ハヤトとアミアの言うことももっともね……」


 ただ、とシェスカの視線は依頼の掲示板へと向く。

 そこに張り出されている依頼の中に、ハヤトが口にしていたような高額依頼は張り出されていない。

 高額依頼だけでなく、いつもならば二、三件は存在しているはずの農村部からの魔物討伐の依頼すら出ていないのだ。


「いつもなら森狼とか緑小鬼の討伐依頼があってもおかしくないのに、ここ一週間くらいは一枚も張り出されていないみたいね」

「う~ん……どうしようか? マークスさんに個人として調達依頼をしてもらうってことはできないかな?」

「それだとギルドからの印象が悪くなると思うよ? 俺としてはギルドと事を構えかねない事態になることは避けたいんだけど」


 ギルドは冒険者に依頼を届けるだけではなく、ギルドという組織が背後にいることを依頼者や冒険者ではない人間たちに印象付ける役割を持つ。

 戦闘技術や鍵開けなどの特殊技能を持っている人間を、ギルドという『組織』に所属させ『管理』しているという印象を与えることは、冒険者をいわれなき悪意から守ることにつながり、一般人に『安心して仕事を任せたい』という気持ちを抱かせることにつながる。

 そうすることで、冒険者が『冒険者』という職業に就いている人間として扱ってもらえるようにしているのだ。

 確かに、個人で勝手に依頼を受けることもできなくはない。

 だが、それをしても報酬が得られるとは限らないし、冒険者が何かしらの問題を起こしたときに、ギルドが冒険者に代わって被害者へ賠償を行うなど、責任を背負うこともできなくなってしまう。


「けれど、このままじゃ本当に干上がってしまうわね」

「う~ん……遠征も視野に入れないと、かな?」


 帝都ならば、仕事にあぶれることはない。

 そう考えて別の町から帝都へやってきたハヤトとアミアだったが、再び帝都からほかの町へ移動する必要が出てきた。

 幸いにして、次の町へ移動するには十分な路銀と食料はある。

 このままここにいてもやがては干上がってしまう。

 ならばいっそ、帝都から離れてほかの大きな町へ異動した方がいいのではないだろうか。

 そこまで考えて、口に出そうとした瞬間。


「おっ! いたいた!!」


 どこかへ行っていたカインがギルドに戻ってきた。

 カインは速足でハヤトたちの座っているテーブルの方へ来ると、一枚の紙を差し出してくる。


「これ、受けてみねぇか?」

「これって……?」

「なになに? 『王城地下に存在する遺跡の調査』??」


 紙には、城の地下に存在する遺跡を調査するために人員が必要となったため、冒険者に限らず、帝都に住む人々も募ることにした。

 ある程度の成果をあげられた人間は、報酬として金一封と帝国騎士団の入団試験を受験する資格を与える、という内容の文言が記されていた。

 だが、ハヤトとアミアが気になったことは、その内容ではなく。


「王城の地下に遺跡なんかあるの?」

「ていうか、遺跡の真上にお城なんて建てたの?」


 通常、遺跡は内部が魔物の巣窟となっていることが多く、真下から襲撃されるということがよくあるため、遺跡は研究機関と騎士や冒険者などの戦闘力を持つ人材が魔物が外へ出ないように見張っている。

 そんな場所に、わざわざ建造物を建てることはしない。

 もっとも、王城に限っては。


「王城の地下に遺跡が見つかったのは、ここ数年の話なのよ」

「それに遺跡の魔物は帝国騎士が定期的に討伐してるし、入団試験は遺跡のある区画まで向かうって内容らしいしよ」

「へぇ?」

「てことは、今回のこれは、新しい区画が見つかったから、その調査もかねてってことなのかな?」

「おそらくね」


 アミアの問いかけに、シェスカは首肯を返す。


「けど、変ね?」

「研究者の同行は……ないのかね?」

「わからねぇけど、ひとまず、新しい区画の地図でも作らせてその後で研究者に調査させるつもりなのかもな?」


 遺跡の調査、というからには研究者の同行は不可欠のはずだが、この紙にはなぜか同行者の護衛についての言及がない。

 ある程度、先行調査という形で見取り図を作ることが目的なのか。

 どんな思惑があるにしても。


「思惑がどうあれ、金一封は今の俺たちにはでかいだろ?」


 という、カインの一言で、この依頼を受けることにする二人と一匹であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る