17、

 カンダラを引き連れながら、森の中を歩くことしばし。

 ハヤトたちは無事に検問所に到着し、カンダラを警ら隊の人間に引き渡し、依頼達成の証明書を受け取ることができた。

 あとは王都にあるギルドへ帰還し、証明書を提出して報酬を受け取り、取り決めた通りに分配したら、このパーティを解散するだけだ。

 それだけなのだが。


――なんだか、少し寂しいような気がするわね


 これまでも何度となく、自分だけでは達成が難しいと判断した依頼を受けるときには、臨時のパーティを結成してきた。

 当然、依頼が終わるまでの付き合いでしかないため、依頼が達成されれば解散し、それ以降、行動を共にすることはない。

 冒険者というものは自由奔放な気質であるため、別に珍しいことではないし、シェスカもそれが当たり前と思って行動してきた。

 当たり前のことだったため、解散するときは特に何も感じることはなかったのも当然。そのはずだったのだが、今回はなぜか、もう少し、ハヤトたちと一緒に行動していたいという気持ちが芽生えていた。


――どうしてかしら? 別に、ハヤトくんやアミアさんに特別な感情があるわけじゃないのに、もう少し一緒に行動していたいと思ってるのは


 恋愛感情のような、淡いものが芽生えたわけでもないが、かといってアミアから離れがたいというわけでもない。

 本当にハヤトとアミアには特別な感情は抱いていないのだが、なぜかシェスカはもうしばらく、一緒に行動したいと思っていた。

 だが、その感情は寂しさだけではない。

 このまま、ハヤトとアミア、そしてカインと行動を共にしていれば、自分が今まで見たことのない、大きな何かを見ることができる。

 勘でしかない。

 だが、今回ともに依頼を達成してその勘は正しいものだと叫んでいる自分もいることを、シェスカは感じていた。


――この勘が正しいかどうか、それを見極めるのも面白いかもしれない


 その考えが浮かんだシェスカの顔には、淡い笑みが浮かんでいた。

 そんなシェスカの様子に気づくことなく、ハヤトとカインは周囲を警戒しつつ、談笑をしながら歩いている。


「ところで、カイン。一つ、気になってることがあるんだけど」

「んあ? なんだよ、突然」

「シェスカさんに何やったの、昔」


 その問いかけに、カインは肩を震わせ、沈黙する。

 その反応だけで、カインが何かやらかしたことを察しただけでなく、シェスカにかなりきつく折檻されたのだろうことも理解した。

 いつもなら、ここからさらに問い詰めるところなのだが。


――顔面が真っ青になってるな……ほんとに何やらかしたんだよ、カイン


 顔面を真っ青にしてガクガクと震えている姿に、それ以上、このことを問い詰めるとかえってカインの健康を損なうかもしれない。


「……わかった。とりあえず、このことについてはこれ以上、聞かない」

「た、助かる……」


 仏心を起こしやすいハヤトはこれ以上の追及をやめた。




 そんなやりとりをしながら帝都へ向かうことしばらく。

 三人は帝都の門をくぐり、まっすぐにギルドへと向かった。

 ギルドに到着するとシェスカはカウンターへと歩いていき。


「あら? おかえりなさい、シェスカさん」

「依頼達成の報告に来ました。こちらが証明書です」


 シェスカから差し出された報告書を受け取ると、受付嬢はその書面に目を通す。

 数分後。シェスカの言葉と報告書の内容に齟齬がないことが確認できたのか。


「確認しました。それでは、報酬を用意しますので少々お待ちください」


 と、シェスカに告げて、カウンターの奥へと消えていく。

 受付嬢はその後、数分とかからずに報酬の入った袋を手に再びシェスカの前に姿を現した。


「こちらが報酬となります。分配に関しては……」

「パーティメンバーで話し合って決める、ギルドは介入できない。という規定だったわね?」

「えぇ。申し訳ありません」

「わかってるわ。ありがとう」


 今回の依頼は、あくまでシェスカ個人に対して行われたもの。

 協力者を募ることは自由だが、その報酬の分配に関して、ギルドは関与しないという約束が事前にあったようだ。

 報酬を受け取ったシェスカは、ハヤトとカイン、そしてアミアが待っているテーブルへと向かっていく。


「お、来た来た」

「報告、お疲れ様」

「ありがとう、シェスカさん」

「いいえ」


 報酬が入った袋を中央のスペースに置き、シェスカも席に着く。


「さて……報酬の分け前について、かな?」

「たしか俺たちとあんたで半々、だったよな?」

「えぇ、その通りよ。ただ、そのことなんだけれど、一つ、提案があるの」


 ハヤトとアミアの言葉に、シェスカは突然、待ったをかける。

 まさか、分配割合の変更か、と身構えたハヤトたちだったが、その懸念はすぐに吹き飛んだ。


「わたしも、あなたたちのパーティに加えてもらえないかしら?」

「え?」

「はっ?」

「え?」


 吹き飛んだのだが、吹き飛ばしたものがあまりにも衝撃的過ぎた。

 一瞬、三人は何を言っているのかわからず、口を開けて呆けてしまっていたが、すぐに意識を取り戻し。


「え、いやありがたいし頼もしいけど、なんで急に?」

「わたしの取り分が減らなくなるってこともそうだけれど、あなたたちと一緒の行動していたほうが、面白いことに巡り合えそうな気がするから、かしらね?」


 報酬の取り分が減らなくなるということは、確かにありがたいことだが、その理由だけでパーティに参加したい、と考える冒険者は少ない。

 シェスカの動機としては、前者よりも後者のほうが強いのだろうことは、三人とも察することができた。

 理由がふんわりしているとはいえ、実力が高い冒険者がパーティに加わってくれるということは喜ばしいことだ。

 ゆえに。


「だめ、かしら?」

「そんなことないよ! むしろ僕とハヤトは大歓迎さ!」

「おいおい、なんで俺だけ除け者なんだよ……まぁ、俺も反対じゃないけどよ」


 満場一致で、シェスカの加入に賛同していた。

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