16、

 突入部隊との鉢合わせを防ぐため、ハヤトはアジト内に残されているお宝の捜索をしようとしていたカインをあきらめさせ、カンダラを連れてアジトの外へと出ることに成功した。

 もちろん、襲撃があったことは配下の盗賊たちにも伝わっていたため、彼らからの妨害がなかったわけではない。

 だが、カンダラたちと一戦交えることとなった大部屋の出入り口をハヤトが魔術でふさいでいたため、大部屋に到達できた盗賊がいなかったことと、普段利用している出入口ではなく、あまり使用されていない裏口を利用していたことにより、小競り合いも特になく、アジトの鉱山跡から抜け出すことができた。


「……はぁぁぁぁぁぁ……」


 あとは捕縛したカンダラを検問所まで送り届けるだけなのだが、カインはなぜか重たいため息をついていた。

 理由は単純明快。

 アジトから脱出する前に、盗賊たちがため込んだお宝捜索ができなかったことで気分が沈んでしまったようだ。


「いや、いい加減にしたら?」

「だがよぉ……あそこに蓄えられてたお宝、警ら隊の連中が持っていっちまうんだろ? どうせろくに調べたりしねぇんだったら、ちょっとくらい俺らの懐にいれたっていいんじゃねぇの?」

「いやダメだから。そんなことしてるうちに盗賊と間違えられて討伐されたらたまったもんじゃないよ」

「でもよぉ……はぁ……」


 よほど金品財宝が欲しかったのか、カインはアジトを出てからずっと陰鬱なため息をつき続けていた。

 ハヤトも苦言を呈し、正論で返すのだが、やはり納得はできていないらしく、今もため息をつき続けている。

 冒険者というものは、傷薬や保存食を含めた野宿のために使用する消耗品など。何かと出費がかさむもの職業だ。

 それらの費用はすべて自分で出さなければならないのだが、ギルドからの依頼から得られる収入にはばらつきがあり、準備費用だけで報酬がすべて消えることもあれば、報酬で賄うことができず、赤字になってしまうということもある。

 おまけに、装備のメンテナンスや活動拠点としている宿の宿泊費用などもあるため、懐から金銭がどんどん消えていくことはあっても、使いきれないほど入ってくるということはない。

 ある程度、安心して生活するためにも、もらえるものがあるのならばもらえるときにもらっておきたいと思うことは当然ではある。

 特に、カインは普段の生活がだらしないということもあるため、余計にそう思っているようだ。


「大丈夫よ。その分、依頼料も弾んでもらうことにしているから」

「期待していいのか?」

「えぇ。彼らはそれだけのことをしてきたから。期待を裏切るようなことはないと思うわよ??」


 シェスカのその一言で、ようやくカインの気持ちも前向きになったらしい。

 それ以降、ため息をつく姿はなくなった。

 報酬は期待してもらっていいという話を聞いた途端、機嫌を直した姿にハヤトとシェスカはそろってため息を吐く。


「……やれやれ」

「まったくね……まぁ、ある意味、冒険者らしいとは思うけれど」

「まぁ、先立つものはどれだけあっても足りませんからね……仕方ないとは思いますけど、カインは少し、がめついような気はしますが」

「それもそうね……あぁ、そういえばなのだけど」


 ハヤトのポシェットに視線を向けながら、シェスカはハヤトに問いかけた。


「アジトからはだいぶ離れたし、カンダラも手を出せないだろうから、出てきても問題ないと思うけれど?」


 その視線の先にあるものに気づいたハヤトは、カンダラの方へ視線を向け、シェスカに聞こえる程度の音量で返す。


「だとしても、念には念を入れたいんですよ……欲の皮の突っ張った奴に『彼女』の存在を知られることはしたくない」

「さすがにカンダラを過大評価しているんじゃないかしら?」

「こういう話に耳ざとい知り合いを一人、知ってますから」


 ハヤトとてカンダラを過大評価しすぎているかもしれないという自覚はある。

 だが、土属性しか魔術を扱うことができない上に、アミアという相棒が霊獣というかなり希少な存在。

 慎重すぎるというくらい慎重にならなければ、今こうして生きていることすらできていないかもしれない。

 何より、金の話に耳ざとい知り合いカインとそれなりに長い付き合いになってきたため、儲け話を耳にした人間の思考がどのような方向へ働くのか、察することができるようになってしまっていた。

 今は身動きが取れないようにしているとはいえ、カンダラは帝都を騒がせた盗賊団の頭目であった人間だ。

 アミアの情報をできる限り入手できないようにしたいというハヤトの思考は、シェスカも理解できた。


「なら、このまま検問所までは窮屈な思いをさせないといけないわけか……」

「まぁ、このポシェットは彼女が入ることも前提にしてますし、そこは心配いらないかなと」


 ハヤトのいうように、アミアが占領しているポシェットは見た目のわりにそこそこの量のものが入るよう作られている。

 身動きが制限されることに変わりはないのだが、体を伸び縮みさせることができる点において、アミアはあまり不満を感じてはいないらしい。

 とはいえ、あまり長い間、ポシェットの中で過ごしてもらうというのも気の毒である。

 早くアミアを解放できるよう、ハヤトたちは検問へと向かう足を少しばかり早めるのだった。

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