6、

 ハヤトたちが遺跡に突入して数時間。

 斥候のカインに仕掛けや罠の解除をしてもらいながらではあるが、ハヤトたちは順調に遺跡の奥へと進んでいた。


「だんだん、罠や仕掛けが解除されていない場所が増えてきた気がするね」

「ここまで潜れた冒険者が少ないってことなんじゃないかな?」


 アミアの言葉に、ハヤトが何気なしにそう返す。

 罠や仕掛けは安全のために解除しながら進む、というのが冒険者の基本。

 そのため、解除されている罠や仕掛けが多いということは、多くの冒険者が探索を終了させていることを逆説的に証明していることになり、同時に、遺跡内に眠っている遺物や宝物はすでに持ち出されているということを証明している。

 だが、それらの痕跡がないということは、現在の区画は未踏破の区画であるということになり、遺物や宝物がまだ見つかっていないということでもあり。


「てことは、遺物や宝物がまだ残ってるかもってことだよなっ?!」


 カインが元気を取り戻すきっかけとして十分な理由となった。


「……お宝が残ってるってわかった瞬間にやる気だすんだから……」

「そうね……ようやく仕事を始めたと思ったらこれなんだから……」

「なんだよ、欲望に忠実じゃ悪いのかっ?!」


 もっとも、シェスカとアミアはご褒美がなければしっかり仕事をしないと思われるような態度が気に入らないらしく、辛辣な言葉を口にしていた。

 そのことについてはハヤトも同意らしく。


「普段からちゃんと仕事してくれてたら、多少は許されてたかもしれないけど、カインは普段から怠け者なところしか見せてないからなぁ。そう言われるのも仕方ないなぁ」

「だよねぇ」


 同じく辛辣な言葉を口にしていた。

 そこにアミアが同意の言葉を添えたものだから、せっかく出てきたカインのやる気はしおれていく。

 そのままうなだれてしまうかと思いきや。


「……っ!!」

「どうした、アミア?」


 アミアの全身の毛が突然、逆立った。

 それに気づいたハヤトが問いかけると同時に、うなだれていたカインの顔も険しいものへと変わり。


「お前ら、構えろ。お客さんが来たみたいだ」


 ナイフを逆手に構え、カインはハヤトの右後ろに近づき、死角をカバーし、それと同時にシェスカもハヤトの左後ろの死角をカバーするように近づき、拳を構える。

 ハヤトが非戦闘員であるアミアをポシェットの中へ避難させると、フロア内に何か固いものが軽くぶつかり合っているような音が響いてきた。

 かしゃり、かしゃり。

 かしゃり、かしゃり。

 かしゃり、かしゃり。

 一つだけでなく、いくつもの群れを成し動いていることを想像させるその音は、徐々にハヤトたちの方へ近づいてくる。

 ランタンが照らし出す範囲の中に、音の正体たちが入り込んできた瞬間。


岩槍ロックランス!」


 先手必勝とばかりに、ハヤトが魔術を発動させる。

 突如として足元から伸びてきて岩の槍を回避することができず、近づいてきた存在はあっさりと貫かれた。

 岩の槍が突き刺した存在を視認したハヤトは顔をゆがめる。


「スケルトンかよ……」

「突き刺す類の魔術は効果が薄いだろうな。直接殴った方が早くないか?」


 暗がりで相手の正体がわからなかったということもあって、最初に頻繫に使用する魔術を使って攻撃してみたのだが、その選択が間違いであったことに気づいたハヤトの声に、カインが少しニヤケ顔で問いかけてきた。

 スケルトンやゾンビのような不死者アンデッドと呼ばれる種類の魔物に、剣や槍の攻撃は効果が薄く、魔術も炎や光以外の属性は効果が薄い。

 そのため、戦槌ハンマーをはじめとした打撃武器や魔術が使えなくとも松明の火などを用いて魔物を直接燃やすという対処方法が基本となっている。

 むろん、そのことはハヤトも承知しているが、こんな時にマウントを取ってこようとしているカインの態度に少しばかり腹が立ってしまい。


「それってシェスカの専売特許じゃない?」

「あら、ハヤトはたしか肉弾戦もそれなりにできたんじゃなかったかしら?」

「……よく覚えてらっしゃることで」


 自分の仕事ではないとばかりに返したのだが、話を振ったシェスカにあっさりとカウンターをくらってしまう。

 だが、カインのように楽をしたいというわけではない。

 できないこともないが、どちらかというと苦手な部類にはいるため、できることならやりたくないというだけだ。

 そのことをわかっているためか、シェスカの言葉にはあまり棘がなく、ハヤトも大して精神的にダメージを受けている様子はない。

 それどころか、カインの言葉を受け入れ、魔術で数本の石の杖を作り上げ、そのうちの一本をシェスカに渡し、ハヤト自身も一本を手に取り、身構えていた。


「けど、自衛ができる程度の実力しかないから、あんまり期待しないでくれよ?」

「あら。魔術師にそれ以上の実力を期待するようなことはしないわよ?」

「期待されても困る!」


 シェスカと軽口を叩きながら、ハヤトは接近してきたスケルトンの頭を構えた杖で殴りつける。

 その瞬間、スケルトンの頭は乾いた音を立てて砕け、首から下の骨が力なく崩れ落ちていく。

 確かな理由はわかっていないのだが、ギルドに寄せられている情報によれば、スケルトンやゾンビをはじめとする死体から生まれた魔物は、頭部を破壊することでその行動を完全に停止させることができる。

 そのため、ハヤトに頭蓋を破壊されたスケルトンは、糸の切れた操り人形のように倒れてしまったのだ。


「とりあえず、これ以上、魔術を使わなくてすみそうだから、さっさと片付けよう」

「それが一番だな」

「珍しく、カインと同意見ね!」


 割と弱点が明確に存在しているためだろうか、ハヤトもカインもシェスカも、軽口を叩きながら迫ってくるスケルトンの頭蓋を次々と砕いていった。

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