12、
調教師によって従わされている魔物を含め、かなりの数の敵に囲まれてしまったハヤトたちだが、まったく動揺する様子はない。
むしろ、こうなることも想定していたとでもいう様子だ。
想定はしていたのだろうが。
「まさか調教師がいるなんて……」
「こればっかりは俺も予想外だったぜ……」
「言ってる場合かっ?!」
シェスカとカインの愚痴に、ハヤトはとびかかってくる魔物たちを拳や手刀でいなし、小規模の魔法で討伐しながら、二人に対して文句を言い出した。
「あ、悪ぃ」
「ご、ごめんなさい!」
「謝罪もいいから! ていうか、後衛担当の俺にいつまでも接近戦やらせないでくれっ!」
「いや、一人でも十分戦えてるのに何言ってんだよ?!」
カインがつっこむように、本来、ハヤトのような魔術師は前線で戦うことはほとんどない。
魔術を行使するために魔力を操作したり、より効力を高めるために呪文を詠唱したりと色々とやら明ければならない。
だが、ハヤトは土魔術だけではあるが、ほとんど詠唱を行わずに魔術を行使するだけでなく、本来は苦手なはずの接近戦もこなしている。
単独でも幅広い対応することができるハヤトの方が、異常と言えば異常なのだ。
だが、今ここでそのことを問い詰めている時間はない。
「あとで話を聞かせろ、よっ!」
「話って言われてもねぇ……」
「ともかく、今はこの状況を脱することが先決よ!!」
カインの言葉にそれぞれの反応を返しながら、ハヤトたちは向かってくる魔物たちを対処していく。
三人の実力が高いが故なのか、調教師の練度が足りないのか、それとも調教できている魔物が弱いのか。
危なげもなく、淡々と対処を続け。
「さて……これであとはあなたたちだけね」
シェスカが残っている盗賊たちに問いかける。
当然、この程度のことで諦める盗賊たちではない。
「ちっ! 相手はたった三人だってのに何やってんだ!!」
「運がなかったわね。さ、どうするの?」
「今なら降参してもいいんだぜ?」
「んなことするかっ! こっからが本番だっ!! こっから生きて帰れると思うなっ!!」
シェスカとカインの言葉に、カンダラは部屋に残っている幹部たちに合図を送った。
その合図を皮切りに、幹部たちが武器を構え、ハヤトたちに襲いかかってくる。
だが、彼らが降参することなく、自分たちに向かってくることは、すでに想定済みだった。
「ま、そうなるよな」
「第二ラウンド、だな」
カインもハヤトも身構えながら苦笑を浮かべ、そう呟き、シェスカもため息をつき、冷たい視線を同族たちに向けた。
「そう。なら、手加減はしないわ! 恨むなら、降伏しなかった自分自身を恨みなさい!!」
「しゃらくせぇっ!」
シェスカの言葉に、盗賊の一人がナイフを構え、突進してくる。
向かってきた盗賊の一突きを、シェスカは涼しい顔で受け流した。
いや、受け流しただけではない。ナイフを握っている手首をつかみ、ひねり上げ、突進してくる勢いを利用して盗賊を投げ飛ばす。
投げ飛ばされた盗賊は、顔面を冷たい地面に叩きつけられた。
無力化するだけであれば、そこで終わるのだが、シェスカはそこで終わらなかった。
「はっ!!」
「ぐべっ?!」
鋭い気合いとともに、シェスカは盗賊の頭に向かってかかとを振り下ろした。
稲妻のような一閃を回避することなど、地面と接吻を交わしている真っ最中の盗賊には不可能なこと。
赤黒い花火を地面に描き、盗賊の一人がその命を絶たれると、シェスカは残っている盗賊たちに冷たい視線を向ける。
その視線に、残っている盗賊たちはたじろいでいたが。
「何ビビってやがるっ! 数はこっちが押してんだ!! 囲んじまえばこっちのもんだ!!」
カンダラの言葉で残っている盗賊たちの投資に火がついたらしい。
それぞれの武器を構えてハヤトたちに向かって突進してくる。
だが。
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当然と言えば当然であるが、無策で突っ込んできたところで、シェスカはおろかハヤトとカインを倒すことなどできるはずもない。
「そらよっとっ!!」
「がっ?!」
「ちぃっ!!」
「しゃらくせぇっ!!」
カインに近づいてくる盗賊は、彼の投げナイフを額やのどに生やして倒れていく。
かろうじて急所に飛んでくるナイフを回避し、カインとの距離を詰めようとした盗賊も。
「ほい、お替わりをどうぞっ!!」
「ぐっ?!」
素早く取り出した接近戦用のナイフや拳の餌食となってしまった。
カインが使用する武器から、カインが斥候や超接近戦を得意とするタイプの剣士と考え、狙いをハヤトに変更する盗賊たちもいたのだが。
「しっ!」
「がっ?!」
「なんで魔術師が肉弾戦もできるんだよっ?!」
「わたし聞いてないっ!!」
「やかましいっ!!」
「げぼらっ?!」
接近戦の戦闘技術や体力を向上させるための訓練に時間を割くよりも、魔術の制度や魔力を練り上げる技術を磨くことに時間を費やした方が効率的である。
そのため、魔術師など後方支援が中心になる技術に特化した冒険者は、近距離での戦闘は苦手な傾向にある。
長い間、単独での活動が多かったハヤトは、魔力を使えない状況に追い込まれたり、魔術では対応できない場面に遭遇したりしたこともあった。
さらに、魔術を教えてくれた師匠から。
『健全な精神は肉体に宿る。ならば、肉体を鍛えれば魔力も同時に鍛えられるはずである。よって肉体の鍛錬も無駄ではない』
という理論を展開しており、ハヤトにも護身術の類を徹底的に叩きこんでいた。
結果、接近戦も遠距離戦もできる魔術師が誕生したというわけである。
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