11、
壁を挟んだ向こう側。
その部屋にカンダラがいることがアミアの活躍によって判明した。
手配書をポーチに戻したシェスカは、壁の方へ向き、腰を深く落とし、拳を構える。
「すぅぅぅぅぅぅ……ふぅぅぅぅぅぅ……」
その姿勢のまま、シェスカは深呼吸を始める。
すろと、彼女の体から白い陽炎が立ち上り始めた。
それを見た瞬間、カインは慌てた様子でシェスカから距離を取り、ハヤトとアミアの方へ視線を向ける。
「やべぇっ! アミア、早くハヤトのポケットに入れ!! ハヤトも少し下がれ!!」
「へ?」
「あ、わ、わかった!」
何が何だかわからない様子の一人と一匹だったが、カインの様子から言う通りにした方が身のためであることを悟り、すぐに行動に移す。
ハヤトがカインと同じ場所まで下がり、アミアがハヤトのポケットに体を隠した瞬間。
「チェストォッ!!」
気合とともに、シェスカが壁に向かって拳を突き出した。
いくら緑小鬼を吹き飛ばすほどの膂力を持っているとはいえ、岩の壁を拳一つで砕くことなどできるはずはない。
そう考えていたハヤトとアミアだったのだが、その予想はすぐに裏切られる。
シェスカの拳が壁に激突したその瞬間。
ドオォォンッ!!
壁が轟音をあげ、同時に土煙が巻き起こった。
土煙の向こう側からはランプの明かりと思われる光と。
「げほっ! げほっ!!」
「な、なんだ?!」
「何が起きやがったっ?!」
アミアが話していた盗賊たちの悲鳴が響いてくる。
どうやら、あの一撃で壁が貫通したらしい。
「さ、行きましょう」
それなりに厚く、素手で叩き割るには硬すぎる壁を、拳一つで破ったというのに平然とした様子で壁の向こうへ歩いていくシェスカの背中を見ながら、ハヤトとアミアは呆然としていた。
「……アミア、シェスカさんはなるべく怒らせないようにしよう」
「……そだね。というかさ、カイン」
二人でシェスカの逆鱗にはできる限る触れないようにしようと、改めて誓うと、アミアはカインの方へ視線を向ける。
まさか自分に話が振られるとは思いもしなかったカインは、少しばかり動揺を見せ、アミアに問いかけた。
「な、なんだよ?」
「シェスカさんに一体、何をしたのさ? というか、君。いままでよく肉塊にならずにならなかったよね」
「アミア。さすがにその言い方は失礼なんじゃない?」
アミアの言葉に、ハヤトは苦笑を浮かべながら反論する。
だが、アミアはハヤトの苦言よりも自分が抱いている疑念の解決を優先し、カインをさらに問い詰めた。
しかし。
「いや、今は時間がないだろ? 早くしないと、奇襲の効果がどんどん薄くなるぞ」
と、自分たちが不利になることを嫌っているのか、それとも単に話題をそらしたいだけなのか、自分たちも突入することを提案してくる。
潜入してから何度も、カインとシェスカが衝突しそうな場面が何度もあった。
基本的にシェスカが礼儀正しく、穏やかな気質の人間であり、あまり過去の無礼を引きずるような印象がない。
だというのに、カインに対してはいまだに怒りを覚えている様子だ。
よほど、カインが失礼なことをしたのではないかということを、嫌でも理解させられる。
一体、何をしたのか気になるところではあるのだが。
「アミア。今は仕事の方に集中しよう。二人のことについては、帝都に戻ったらカインに問い詰めればいいし」
「……むぅ……わかったよ。今はこの話は横に置いておくことにする」
ハヤトに説得され、アミアは渋々といった様子ではあるがこれ以上、この話を突っつくことはやめ、ハヤトのポシェットの中に隠れた。
アミアがポシェットに入ったことを確認すると、ようやくハヤトもカインたちに続き、シェスカが明けた穴へと入る。
「な、なんだてめぇらは!」
「この騒動はてめぇらの仕業かっ!!」
穴をくぐると、盗賊たちがわめき散らしている姿と声がハヤトを出迎えた。
そんな彼らの動揺する姿をよそに、先に突入していたシェスカが盗賊たちに問いかける。
「カンダラとその一味ね?」
「なっ?! てめぇ、騎士団かっ?!」
「そう思っていただいて構わないわ。大人しく投降するなら命までは取らないけれど」
動揺する盗賊団たちに向かって、シェスカは自ら警備兵に出頭するよう促す。
だが、それを受け入れるほど、彼らの性根がまともなわけはない。
「へっ。所詮は小娘と若造! 数の有利はこっちにあるんだ。とっととやっちまうぞ!!」
カンダラと思われる男が一喝すると、周囲にいた盗賊たちは一斉に身構え、ハヤトたちに敵意を向けてくる。
もっとも、シェスカも自ら出頭することを期待していたわけではないらしい。
それ以上の説得をすることはなく、拳を固め、盗賊たちを見据え。
「そう……それなら、こちらも相応の対応をさせてもらうわ! 覚悟なさい!!」
シェスカが討伐宣告を行ったが、真正面からシェスカたちに立ち向かうつもりは、カンダラにはないらしく。
「へっ! その前にお前らがこいつらの胃袋の中だろうがなっ!!」
カンダラがそう叫んだ瞬間、隠し持っていた鞭を取り出し、思い切り床を叩く。
その瞬間、本来の出入り口であると思われる横穴から、森狼や緑小鬼がぞろぞろと入ってくる。
「おいおい、魔物がこいつらの味方してんのかよ?」
「もしかして、カンダラの職業って、本来は
「どうやらそうらしいわね……」
ここまで来てまさかの新情報に、シェスカは歯噛みする。
ただでさえ盗賊団の人数の方が上だというのに、ここにきて魔物の相手もしなければならなくなってしまったのは、はっきり言って状況は最悪となるのだった。
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