3、単独行動のカイン

 ハヤトとアミア、カインの三人はシェスカからの協力要請を受けることにした。

 もっとも、カインは受けたくないという思いが駄々洩れであったが、自分が依頼をえり好みできない立場であることを理解しているので、文句をいう様子はない。


「それじゃ、各自で準備して城門の前に集合ということでいいかしら?」

「うん。大丈夫だよ」

「へいへい」

「また後で」


 シェスカに続き、ハヤトとアミアも椅子から立ち上がり、ギルドの外へ向かおうとする。

 だが、カインだけは立ち上がっただけで、ギルドの入口へは向かおうとしなかった。


「あれ? どうした、カイン?」

「準備、行かないの?」

「いんや。準備はするけど、買い物はお前らに任せるわ」

「買い物以外の準備があるってこと?」

「そんなとこだ。色々とあるんだよ、準備ってもな」


 ハヤトの問いかけに、カインはそう返す。

 肯定とも否定とも取れる返答に、アミアはカインが言う『色々』の具体的な内容を問いただすが。


「まぁ、色々だよ色々。てわけで、遅くなるかもしれねぇけど、先に行っててくれ。現地には必ず行くからよ」

「……まぁ、そういうことなら」


 具体的なことは何一つ教えることはしなかった。

 ごまかされているような気がしないわけでもないが、カインが依頼から逃げるという選択肢を取らないことは、ここしばらく一緒に行動していて理解している。

 今回の準備というのも、斥候ならではの視点から必要となる準備なのではないか。

 その考えにいたり、ハヤトもアミアも特に気にすることはなく。


「なら、できるだけ早く合流できるように頑張ってよ?」

「一応、カインの斥候の腕は期待してるんだからさ」

「一応ってなんだよ、一応って……まぁ、努力はするさ」


 ハヤトとアミアの言葉にそう返し、カインはへらへらとした笑みを浮かべてギルドから出ていく。

 その背中を見送ったハヤトとアミアは、自分たちも必要となる物資を追加購入するため、商店街へと向かった。

 一時間ほど、物資の補充を行ってから、ハヤトとアミアはシェスカとの合流地点である城門の前に向かう。

 すでにシェスカは城門前に来ており、二人の姿を見つけると。


「あら、早かったわね」


 と、声をかけてきた。

 そのメンバーの中にカインの姿がないことに気づき。


「カインはどうしたの?」

「物資以外で準備が必要だからって、別行動してたんだけど……」

「もしかしなくても、まだ来てないんです?」

「えぇ……まぁ、どうせ来ないんだろうけど」


 ハヤトの問いかけに、シェスカはツンとした態度で答える。

 そもそも、シェスカはカインが真面目に依頼を受けるという行為をするとは思っていないし、機体もしていないらしい。

 放っておいてさっさと行こうと促してくるシェスカに対し、ハヤトとアミアは同時に待ったをかける。


「さ、さすがにもう少し待ってみません?」

「期限が定められてる依頼ってわけでもないんですよね? だったら、もう少し待っていても大丈夫なんじゃ」


 過去に二人の間に何があったかはわからないが、いくらなんでも、ほんの少しも待つことなくさっさと出発してしまうというのはいかがなものか。

 そう感じたからこそ、ハヤトとアミアはシェスカにそう進言するが、シェスカは頑として譲らなかった。


「どうせ逃げたんでしょう。今回の依頼、それなりの負傷は覚悟しないといけない、危険な仕事だし」

「それはそうかもですけど」

「多少納得できないところがあっても、カインが一度引き受けた依頼を投げ出すなんて、ちょっと考えにくいんですが」

「それを平気な顔でやってのけるのが、彼なのよ。わかったら行きましょう?」


 有無を言わさぬ様子で、シェスカはさっさと出発してしまう。

 その背中を見ながら、ハヤトとアミアは互いに見つめ合い、同時にため息をつく。


「どうする? 僕たちだけでも待ってみる?」

「いや、ここでシェスカさんを見失ったら、俺たちが迷子になっちゃうよ」

「それじゃ、仕方ないから出発しようか……」


 さすがに、行先がわからない以上、シェスカから離れてしまうことは得策ではない。

 それに、それなりの実力を持っているとはいえ、シェスカは一人だ。

 不測の事態に対応するうえで、確実に生き残るには複数人で対応することが不可欠であることを経験で知っているハヤトとアミアは、少しばかり申し訳なさを感じはした。

 だが時間までに来なかった上に、カイン本人が先に出発しても構わないと言っていたのだから、その言葉通り、先に向かうことを選んだ。


「ほんと、遅れるかもしれないっては言ってたけど、まさか本当に遅れるとはね……」

「普通、時間通りかちょっと遅れてでも来れるように努力するもんだと思うけど」

「だらしないって言えばだらしないけど、なんでだかねぇ。カインだったら仕方ないって思ってる自分がいるよ」

「あ、それは僕も思った」


 カインのだらしなさについては、パーティを組んである程度の部分は慣れたためか、ハヤトとアミアはあまり気になっていないらしい。

 だが一般的に期限付きの約束というものは、その期限を厳守することが義務となる。

 仮に遅れるような事情があるとしても、その理由を明示しておいてしかるべきだ。

 だというのに、カインはその理由を明示することなく、ただ単に遅れるかもしれないとだけしか伝えてきていない。

 シェスカでなくとも怒りを覚えることは無理からんことだ。

 とはいえ。


「まぁ、あとはカインがちゃんと現地で合流してくれることを祈るしかないね」

「だな。ここで怒っても体力と時間を無駄にするだけだし」


 この場に元凶であるカインがいない以上、怒りを爆発させても意味はない。

 そんな非経済的なことをするより、少しでも早くシェスカに追いつくため、ハヤトは進む速度を上げた。

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