2、女冒険者からの協力依頼
威圧から解放され、ようやく話ができる程度まで落ち着いたシェスカは、早速本題を切り出してきた。
「ここ最近、グランバレア周辺で盗賊の活動が活発になっているのだけれど、そのことは知っているかしら?」
「行商の護衛依頼とか、素材採取時の護衛の依頼が増えてるような気はしてるけど」
「もしかして、それが関係して?」
「えぇ」
少し前にハヤトとアミアはカインと一緒に、グランバレアの商人マークスがトネリコ村へ行商へ向かう際の依頼を受けたことがある。
あの時は専属雇用しているメンバーが一時的に離脱したため、その欠員を補充するための依頼だったのだが、こうした依頼はそれなりに数が多い。
特に魔物の繁殖期や冬が近づいてきた時、冬が明けた時などは、魔物の動きが活発になるため、魔物から襲撃を受けるケースが多く、その対策として、行商人は護衛を雇うことにしている。
だが、彼らにとって生命や商品、従業員を脅かす脅威となる存在は魔物だけではない。
人間、特になりふり構わなくなった盗賊は行商人にとって魔物と同等、あるいはそれ以上の脅威となる。
それらの脅威から商品や従業員の命を守るため、ギルドに依頼を出したり、専属雇用したりすることが多い。
「そういや、変な噂を聞いたことがあったな」
「変な噂?」
いきなりカインが口をはさんできたため、シェスカは顔をしかめる。
だが、カインがこんな時に関係のない話題を切り出してくることはない。
いい加減で金や女にだらしがない性格ではあるが、仕事の話に関して不真面目な態度を取ることはないことをハヤトとアミアは知っている。
カインのいう『変な噂』というのも、今回の依頼に何か関係があるかもしれない。
そう感じ、ハヤトはあえて下院から話を聞き出そうとした。
「あぁ。グランバレアから少し離れた場所に、今は使われてない採石場があるんだ。そこに最近、カンダラとかいう盗賊一味が住み着いてるらしい」
「カンダラ?」
「あぁ。ここらじゃかなりの規模を持っている盗賊団だそうだ。周辺領地の貴族たちがかなりの被害を受けたらしい」
「えぇ。そのカンダラ盗賊団の討伐をあなたたちに手伝ってほしいの」
どうやら、シェスカの目的は話に出てきたカンダラ盗賊団の討伐のようだ。
だが、ここでアミアが首をかしげる。
「あれ? けど、盗賊団の討伐依頼って出てなかったような?」
そう言われて、ハヤトとカインは同時に依頼掲示板に視線を向ける。
大量に掲示された依頼書の中に、盗賊の討伐依頼を記載したものは見られない。
「確かに、そうだな……」
「てことは、これはシェスカさんに出された指名依頼ってことですか?」
「そういうことよ」
その一言にカインは不機嫌な顔になり、ハヤトは目を丸くした。
冒険者が依頼受注には三つの方法がある。
ギルドの依頼掲示板に掲載された依頼を受注する方法と、依頼者本人から直接依頼を受ける方法。そして、ギルドから指名され依頼を受注する方法の三つだ。
シェスカは、ギルドから指名を受ける方法で受注したというが、この方法は、相当の実力があることはもちろんのこと、ギルドから厚い信頼を寄せられている冒険者であることの証明でもある。
「ある程度の采配はギルドマスターから任されているし、それなりの報酬を約束してもらっているわ。もし、協力してくれるなら、報酬は五分五分ということでどうかしら?」
「僕はハヤトの判断に任せるけど……」
「俺は受けてもいいと思うけど……カインはどうする?」
「ん? まぁ、いいんじゃね? 報酬はちゃんともらえるんだし」
「……カイン、あなたはもう少し人の役に立とうという気持ちを持てないの?」
カインの態度に、シェスカは眉間にしわをよせながら問いかけた。
その一言に、カインはため息をつく。
「俺がそんなご立派な精神で働くわけないだろ?」
「あなたね!」
「文句あるか? 俺には俺の生き方があるんだ。あんたの言うような、世のため人のためなんて精神で冒険者やってねぇんだよ」
誰かの下働くことが苦手だから、とにかく資金を調達する必要があるから、様々な形で街や人に貢献したいから、純粋に未知なるものを探求したいからなど。
冒険者となることを選んだ理由は、人によって様々で、その理由によって一人一人の行動指針は変わってくる。
ハヤトは色々な場所を旅したいという理由で冒険者を選択した。
そのため、一獲千金を狙っているカインとこうして行動を共にすることができているが、シェスカとは根本でそりが合わないらしい。
「あんたみたいにほかの誰かさんのために仕事することは否定しないぜ? けど、俺が自分のために仕事することだって否定される筋合いはないはずだぜ?」
「……っ!」
「俺はあんたと違って、今日の飯を食うために冒険者やってんだ。見ず知らずの誰かさんのために、なんて高尚な精神で働く気はねぇよ」
再び、カインとシェスカの間に火花が飛び散り始めた。
今度こそ、取っ組み合いに発展するのではないかと思われたが。
「なら、カインは今回、留守番にする?」
「そんな選択ができる立場じゃないと思うけどな?」
「うぐっ……」
ハヤトとアミアの一言で、カインがうずくまったことで緊迫した空気が一変した。
実のところ、先日の行商人の護衛依頼で稼いだ報酬は、装備の新調と向こう数週半分の宿代ですべて消えてしまっている。
ハヤトとアミアが薬草や食材、装飾品や服飾品に使用する素材の採取依頼を受けていたのだが、その報酬も、カインが自分の酒代とギャンブルに消してしまった。
さすがにそのことは悪く思っているらしく、依頼を達成して、どうにか自分の酒代だけでも稼ごうとしていたのだが、報酬額に目がくらみ、自身の実力を考えない高難易度の依頼を受けようとする始末。
結果、クエストはハヤトとアミアが選ぶことを約束させたのだ。
ハヤトとアミアがシェスカの依頼に協力すると決めた時点で、カインにこの依頼を受けないという選択肢は既に存在していない。
そのため、しぶしぶという様子ではあったが、カインも依頼に協力することに同意するのだった。
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